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人間は AI に勝たなくても良いのだ

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日曜日の NHK スペシャルは人工知能の話でしたが、ほとんどが将棋電脳戦(7/5追記:コメントでご指摘頂きました。電脳戦ではなく、電王戦です)の話で、将棋ソフト Ponanza の開発者である山本一成さんも出演されていました。番組としては、ついに人間を打ち負かした AI、という内容ですが、いたずらに AI 脅威論を煽るということでもなく、全体としては抑制の効いた内容だったと思います。折しも昨日は藤井4段の連勝記録更新のニュースがあり、人間対人間、人間対 AI の勝負についていろいろ考えされられました。

山本さんはこのところ NHK によく出ていて、その内容が Web に上がっています。

「人工知能と黒魔術」(視点・論点)

人工知能は進化するにつれ、中で何をやっているのかわからなくなっており、それを研究者の間では「黒魔術」と呼んでいるという話ですが、これについては私も先日ブログに書きました。

やっぱり「なぜうまくいくのかわかってない」のか!! (深層学習)

なにしろ、日本の誇る研究機関理化学研究所が満を持して設置した革新知能統合研究センターのセンター長が、センターの理論研究の方向性として

なぜうまくいくのかわかっていない深層学習の原理の解明

と言っているのです。中で何をやっているのかわからない、ということは、「何をするかわからない」という不安に繋がり、それが「黒魔術」ということになるのでしょう。世の中でAIを不安視する人たちがいるのも無理はありません。

還元主義と相容れない AI

上の記事の中で面白かったのは、いわゆる一般的に科学と呼ばれる学問は還元主義という考え方でできているということでした。還元主義は「物事を分解し、細部の構造を理解していけば、全体を理解できる」という考え方だそうです。それが、AI には通用しないのだそうです。山本さんは

結局、知能というのは隠された方程式があって、それを解き明かすのではなく、どこまで行ってもモヤモヤしたよくわからないものであることを受け入れるしかない

と断った上で、AI はそれで良いのだと仰っています。どうやら (今の) AI はこれまでの科学とは少し違う立ち位置におり、居心地が悪いけれども、この先には様々な良いことが待ち受けている、ということのようですね。

そんなことを考えていたら、昨日、藤井4段が連勝記録を伸ばし、新記録を樹立したというニュースが飛び込んできました。このニュース、もちろん負けた方は嬉しくないでしょうが、世の中の多くの人が喜び、藤井4段を讃えています。「後味の良い」ニュースです。それと比べ、電脳戦のニュースは、後味はなんかほろ苦かったなあ、と思うのです。(もちろん、山本さんやPonanza、主催者に責任があるわけではありません) 要するに、人間は人間に味方するし、人間が頑張ったことには素直に共感できるという、単純なことに気づかされた気がします。

人間は AI に勝たなくても良いのだ

結局、人間は AI に勝たなくても良いのです。既に、コンピュータにはいろいろなところでものすごく負けているのです。単純な計算ですら電卓に遠く及ばず、記憶力においてハードディスクに打ち勝つことは不可能です。

電脳戦はこれで終わりだそうですが、正しい判断だと思います。これはAIが人間を抜くか抜かないか、というフェーズだったから面白かったのであって、いったん抜かれたらもうこの後勝つ見込みは無いわけで、やってもしょうが無いでしょう。この先 AI が 100 連勝したって、藤井 4 段のように皆が感心し喜ぶかといったらそんなことは無いと思いますし、むしろ益々怖がられるだけではないでしょうか。(再度書きますが、山本さんやPonanza、主催者に責任があるわけではありません)

人間は人間と競い合い、勝負することで人間の能力を高めていけば良いのです。100m 走で人間とオートバイを一緒に走らせることには何の意味も無いのですから。

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