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AIと医療: ブロックチェーンは個人情報をどのように守るのか?

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このブログでも取り上げてきましたが、AIとブロックチェーンは現代のITトレンドにおいて非常に重要な位置を占めています。AIについては説明の必要も無いでしょうが、ブロックチェーンも、こちらでも書いたとおり、社会に与えるインパクトはもしかするとインターネット以上ではないかとも言われています。

これら2つの組み合わせの記事がGIGAZINEに出ていました。

Googleの人工知能部門・DeepMindが医療サービスでBitcoinの「ブロックチェーン」技術を応用へ

内容を読んでみると、人工知能とブロックチェーンは直接には関係ないのですが、いろいろな論点を含んでいるので、ちょっと考えてみます。

医療分野への人工知能適用に対するプライバシーへの不安

記事では、Googleの人工知能部門「DeepMind」のヘルスケア部門「DeepMind Health」がイギリスの国民保健サービス(NHS)と連携し、患者の個人情報をリアルタイムで追跡する新技術「Verifiable Data Audit」の2017年内の開始を予定しているとした上で、「GoogleがNHSの個人情報を持ちすぎる」という批判が起きていると書いています。DeepMindがこれに対応して、個人情報の管理にブロックチェーンを使うことを検討している、というのが記事の趣旨です。IBMのWatsonもそうですが、医療へのAIの適用はものすごい速度で進んでおり、一方で個人情報の管理に厳しい目が向けられる結果となっているのですね。そこでDeepMindは、ブロックチェーンを応用して信頼性と透明性を担保するという案を提示した、という流れのようです。

ブロックチェーンに個人情報を載せるわけでは無い?

しかし、ブロックチェーンは、全てのデータを参加者にばらまくモデルです。暗号化するにせよ、個人情報をばらまくのは問題があるのでは? と思ったのですが、記事を読んでもいまひとつわかりません。仕方ないのでリンクされている原文を読んでみると、

In the long-run, Suleyman says, the audit system could be expanded so that patients can have direct oversight over how and where their data has been used.

「Suleyman氏は、長期的には監査システムを拡張し、どこでどのようにデータが使用されたかを患者が直接監視できるようになると述べています。」

ということで、どうも個人情報そのものをばらまくのでは無く、個人情報へのアクセス記録を分散して管理する、ということのようです。確かにこれであれば透明性を担保できます。

DeepMindはビットコインとは違うブロックチェーンを指向しているのではないか

原文では他にも以下の様な記述があります。

The systems at work are loosely related to the cryptocurrency bitcoin, and the blockchain technology that underpins it.

「現在取り組んでいるシステムは、暗号通貨のビットコインとそれを支えるブロックチェーン技術と緩やかな関係があります。」

「loosely related」ということで、ビットコインのブロックチェーンそのものではない、とも読めます。ビットコインで使われているブロックチェーンでは合意形成に Proof of Work (PoW) を使っており、記事にあるように大量の計算が必要になります。ビットコインの合意形成については問題点も指摘されているようですので、DeepMindも恐らく違う方法を模索しているのではないでしょうか。

クローズド型ブロックチェーンの可能性

また、ブロックチェーンには元祖のビットコイン型以外の方式も提案されています。ビットコインは元々管理主体を置かない完全パブリック型ですが、この形態で合意形成を行うためにPoWがセットで提案され、この組み合わせがビットコインのキモと言えるわけです。しかし、DeepMindのケースでは必ずしもオープンである必要は無く、管理者を置いて参加者を制限することで信頼性を高めることができると考えられ、PoW以外の合意形成方式も使えるようになると思われます。最近、銀行などがブロックチェーンの実用化に動き出していますが、これらもコンソーシアム型を採用するとみられます

ブロックチェーンについては、相変わらず否定的な意見も見かけますが、一方でいろいろな適用分野が見えてきています。近い将来、社会を根底から変えてしまうブレークスルーが起こるかも知れませんね。

 

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