【7.15倍】 マクドナルド「名ばかり店長」訴訟和解が投げかける、とっても大事な意義
先週、マクドナルドの店長職は管理職かどうかを争点とした裁判の和解が成立したというニュースが新聞の一面を飾りました。
『名ばかり管理職』和解 マクドナルド店長へ1000万円 東京高裁
- ハンバーガーチェーン最大手「日本マクドナルド」(本社・東京都新宿区)の店長高野広志さん(47)が、権限や裁量のない「名ばかり管理職」にされ、残業代を支払わないのは不当として、同社に二年間の未払い残業代や慰謝料などを求めた訴訟は十八日、東京高裁(鈴木健太裁判長)で同社が高野さんに和解金一千万円を支払うとする和解が成立した。
※東京新聞2009年3月19日 朝刊より引用
注目の裁判だったので記憶にある方も多いでしょう。裁判ではすでに昨年1月に、高野さん勝訴、つまりマクドナルドの店長職は管理職と言えるだけの権限が与えられていないとの判決が出ており、それを受けて日本マクドナルドは、直営店の店長約2,000人に残業代を支払うと発表しています。今回の和解では、判決からさらに踏み込んで、言い渡された支払額750万円からさらに上積みした和解金約1,000万円を支払うこと、訴訟を理由に降格、配転、減給をしないことなどが約束されています。またマクドナルド側も、「和解は、本人にもその他の社員にもベストだという経営判断。この五年間、労働環境などを考え、取り組みを行ってきたが、引き続き実施していきたい」とのコメントを発表しています(同新聞より引用)。
一個人が大企業を相手に訴訟を起こすという形にまで発展してしまった労働争議。新聞をはじめとするメディアでは、マクドナルド側への非難色が色濃く指摘され、同時に係争期間中に高野さんが味わってきた苦悩を紹介しつつ、毅然とした態度で勝利を勝ち取った彼を賞賛する論調が目立ちます。しかし、私はこの判決・和解について、少し違った見方をしています。
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日本にはマクドナルドと同じ外食産業を含め、流通・小売・サービス業など、店舗を核とした商売を営む業態が数多くあります。その大半が、店長を筆頭とする少数の正社員+アルバイト・パート職で運営されています。店長という「肩書き」は、文字通り店の責任者を意味し、そこで発生する種々雑多なトラブルへの対処を含む店舗運営の責務を担っています。昨今は営業時間が長くなり、店長は長い労働時間と重い責任で重労働を強いられる現場も多いはずです。しかしその一方で、店長に与えられる「権限」は思った以上に少ない。取り扱い商品や価格などの決定権はすべて本部が握っているというのが通常でしょう。「肩書き」と「権限」は違う…そう言われてしまえばそれまでですが、これでは店長という仕事の醍醐味が薄れ、目指したいと思う人がいなくなってしまうのではないか。今回の訴訟は、店長の仕事とは何か、そこで働く店長の評価はどうあるべきかと世の中に問いかけた、大きな意味のあるものだったと感じます。
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マクドナルドが、訴訟結果を受けて店長職の労働環境改善に積極的に動き出したことは、大変評価できると思います。ではなぜマクドナルドが、一人の社員の和解で済ませず、一歩踏み込んで動いたのか。いろんな理由があると思いますが、私は、店長という職務が果たす役割がいかに大きなものかを再認識したと思いたい。店長は管理職じゃないという判決をまともに受けて、「じゃあ残業代を支払いましょう、ですから今後も本部の下部としてがんばって働いてください」というだけの解決を選んだら、それこそ「名ばかり店長」職を目指す人はいなくなってしまう。そう考えて、マクドナルドは店長職という仕事そのものの役割・意義を考え直しはじめた。みんなが目指したくなるような仕事にしようと…そう思いたいのです。
私がかつてリクルートで採用支援業務を担っていたとき、「流通・小売・外食・サービスといった店舗運営型産業の魅力は店長に凝縮され、一国一城の主として、やりがいある仕事です」と伝えてきました。もちろんそれはウソじゃない。しかしながら、土日勤務、長い労働時間、重い責務といったマイナス側面を内包していたのも事実で、いわゆる中間管理職的な捉えられ方をされ、人気職種にはなりきれませんでした。
誰かが休めば、店長が穴埋めし、トラブルがあると、店長はその矢面に立たされ、業績が上がらないと本部からたたかれる。一方で商品の価格決定や商品開発などの権限は限られ、細かなことまですべて本部にお伺いをたてなければ決められない。比較的若くして店長にはなれても、その先が見えない。
いつしか店長という仕事は、夢が描けない不人気職種に
なってしまっていたのかもしれません。
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リクルートワークス研究所が発表した新卒求人倍率調査によれば、外食産業を含む流通小売業の求人倍率は、他の業種とくらべて著しく高く、2009年卒者では【7.15倍】にもなっています。それだけ人が必要なのです。店長職は学生からも身近な存在であるがゆえに、先が見えない、おもしろさがない、夢が描けない仕事に映ってしまっているのではないでしょうか。
生意気ながら書かせてもらえば、マクドナルドだけじゃなく、すべての店舗運営型の産業において、今回の訴訟を機に、店長という仕事の魅力の再構築が進むといいなぁと感じています。店舗は小さな会社であり、その運営という仕事は本来、厳しくもやりがいある仕事のはずです。
店舗には、責任と権限を持ち合わせた、
「店長」という肩書きの「経営者」が必須
なのです。
この不況下でも業績絶好調、日本を代表する企業であるマクドナルドが、そこまで踏み込んでいったとしたら、今回の訴訟による損失は大きな見返りをもたらすことでしょう。そうなったら、今以上にものすごい会社になるんだろうなぁ…そんな風に思います。。。