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監視と信頼

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僕も小さな娘を持つ父親として、子供の行動をどう見守ってゆくか――あるいは「監視」してゆくか、という点には非常に関心があります。しかしどの程度が適切なのか、このアプリを見て悩んでしまいました:

MAMABEAR: HOW MUCH PARENT SUPERVISION IS TOO MUCH? (Tech Cocktail)

子供の行動を見守るアプリ、その名も「ママベア(母熊)」について。ちなみに公式サイトはこちら:

Mamabear - The Worry-Free Parental Control AppMamaBear | Woryy-Free Parenting

MamaBear

フィルタリングソフトや「改札通過情報通知サービス」など、既に様々な見守り系サービスが登場していますが、ママベアはその総合版と言えるでしょうか。まずは「親アプリ」を両親の携帯電話に、「子アプリ」を子供の携帯電話にインストールします。子アプリには「助けを呼ぶ」「親に電話する」といった救援要請系の機能がついているのですが、もちろんこれはオマケというか、穿った見方をすれば「子供にただの監視アプリだという印象を持たせない」ためのもの。本筋は親アプリに仕込まれた、数々の監視系機能にあります。

まずは子供の居場所確認。子アプリを通じて位置情報を把握、地図上で確認することができます。「指定した時間よりも早く学校を離れている」「通学とは関係のない場所にいる」といった条件でアラートを親アプリに送ることも可能とのこと。次にFacebook監視機能。Facebook上で子供が新しい友人を作ったり、チェックインしたり、誰かが投稿した写真上でタグ付けされたりといった場合にアラートを受け取ることが可能です。さらに悪口を言われてる、ネットいじめの兆候があるといった検知も可能なのだとか。さらに面白い機能としては、指定された以上のスピードで子供が移動している――つまり乱暴運転している可能性がある場合に、それについてもアラートを上げるというものまで。

そもそもこうした機能が正しく働くのか、子供たちがアプリを削除したり、何らかの方法で出し抜く方法を見つけてしまうのではないか、といった実効性の問題がありますが、仮に公式サイトでうたわれているような機能が宣伝通り動いたとしても、「ママベア」は問題を抱えたアプリではないでしょうか。確かに子供が誘拐されるのではないか、悪い友達と遊んでいるのではないか、といった不安を感じてしまうことは実感として理解できます。そこから解放され、不安のない子育て(Worry-Free Parenting)をすることがまさにママベアの目的であるわけですが、しかし「監視」がその答えになるかというと疑問です。いくら見渡したとしてもどこかに影は残るものであり(もしかしたら子供がアプリを削除したのではないか?等々)、監視による不安解消の試みは、さらなる監視を招くだけではないでしょうか。

結局のところ、親としてはできる限り「生き抜く方法(大げさですが)」を子供に与えて、彼らを信頼して送り出すしかないのではないかと思います。もちろんそこには不安は残りますが、親が一方的に不安から自由になろうとすること自体、親のエゴなのかもしれません。そのようなエゴは、逆に子供からの信頼も失う結果になるでしょう。

かつてドン・タプスコットが著作の中で、彼が子供のPCにフィルタリングソフトを入れなかったことについて、「(フィルタリングソフトを入れるということは)お前たちを信頼していない、というシグナルを子供に送ることになるからだ」ということを述べていました。恐らくこのことは、ママベアのような監視アプリについても同様でしょう。であれば、監視アプリに頼ることは二重の意味で「子供を信頼して送り出すこと」にマイナスであると言えます。

もちろん何らかの理由でこういった監視ツールに頼ることが必要になったり、限定的に活用したりといったことも考えられるでしょう。しかしその場合にも、子供との間の信頼関係を壊さないよう、「どのような目的でどんな情報をチェックするのかを明らかにする」といった配慮が必要だと思います。親と子供の関係に限った話ではありませんが、こうした監視と信頼のバランスを取ることは、監視という手段を機能させる上で無視できない側面なのではないでしょうか。

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