【書評】『次世代コミュニケーションプランニング』
ソフトバンククリエイティブさまより、高広伯彦氏の『次世代コミュニケーションプランニング』をいただきました。ありがとうございます。というわけで、いつものようご紹介と感想を少し。
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ビジネス書(という括りで本書を語るのは適切ではないかもしれませんが)の書き方には、ある目標を達成するための「テクニック」を中心に展開する方法と、そのテクニックの背景にある「思想」を論考するという方法の2通りがあると思います。もちろんどちらが上か下かということはなく、テクニックを正しく使うためには思想を理解していなければなりませんし、思想を実現するためにはテクニックがなければなりません。従って両者をバランス良く摂取することが望ましいでしょう。
しかし最近のビジネス書、特にソーシャルメディアとマーケティングをテーマにした本については、テクニック論に重きを置くものが少なくありません。前述の通り、それも大切な要素ではあるのですが、例えば「なぜTwitterのフォロワーを増やすのか」という前提を理解していなければ、フォロワーを増やすテクニックはまったく無意味なものになってしまいます(時には害悪にすらなる場合も)。環境が急速に変化し、新たな方向性が模索されているような時代においては、思想という土台を無視してテクニックに終始するのはなおさら危険なことです。
本書『次世代コミュニケーションプランニング』は、その「思想」の面に重きを置いた本と言えると思います。本書のオビには「生き残りたい広告・PR人のための新しいプランニング思考法」とあり、思想本であることは明示されているものの、ありていのマーケティング本だと思って手に取ると良い意味で裏切られるでしょう。もちろん本書にもテクニック面での解説があり、例えばクチコミマーケティングの公式「(シカケ)×(シクミ)」や、第5章にあるコンテクストプランニングのフレームワークなどは、非常に実践的なノウハウです。また高広氏が自身の経験を事例として解説している部分も、実践という点で大いに参考になります。しかし本書の最大の価値は、文字通り次世代のアプローチを考える際の土台となる、様々な思想を与えてくれることではないでしょうか。
高広氏は「はじめに」で、本書が「わざと非常にペダンティック(衒学的)に書かれている」と前置きしていますが、その言葉の通り多種多様な「難しい話」が登場します。マクルーハン、セルトー、ルフェーブル、ヴァネバー・ブッシュ……そしてアンリ・デュシャンまで。しかしそれらは、当然ながら無意味に引き合いに出されるわけではなく、読者の思考をあえて引き延ばすように配置されています。僕自身、それらを一読で理解できたわけではなく、何度か読み返して言いたいことが理解出来るという部分がありました(多分まだ理解し切れていない部分も多いでしょう)。しかしそれは楽しい回り道であり、決して無駄な冗長性などではありません。
テクニック本は「使用方法」が決まっているので、読んだ直後から行動に移すことができます(たとえそのテクニックが生まれた思想を理解していなかったとしても)。翻って思想本は、現場でのアクションに移す前に、もう一段階の試行錯誤を繰り返さなければなりません。その作業は決して簡単ではありませんが、それだけに自由度が高く、あれこれワクワクしながら創造力をふくらませることができるはずです。その意味で本書は、読み終えた後に「さて、ここからどんな新しいことを始めてやろうか」というワクワクが止まらなくなる一冊であることを保証しておきたいと思います。
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