「情報弱者救済法案」国会に提出
インターネットの時代になり、情報を得ることは格段に容易になりました。逆に情報が溢れ過ぎる「情報洪水」なんて状態が問題になるほどですが、一方で様々な理由からネットに接続できない人々もまだ多数存在しています。そういった人々にとっては、従来のメディアが重要な情報入手先になりますが、経済状況がさらに悪化すれば新聞・雑誌等の購入が不可能になりかねません。そこで、国が新聞購読料を肩代わりするという「情報弱者救済法案」が今国会に提出されることになりました:
■ 「情報弱者救済法案」今国会で提出、成立の見通し (asahi.con)
ネットを利用できない人々が情報入手において不利益を被ることを防ぐために、新聞購読を援助するという「情報弱者救済法案」について、与野党は31日、今国会で成立させることで大筋合意した。
この法案は65歳以上の日本国民を対象としており、申請があった場合、新聞の購読料を国が全額負担すると規定している。購読は2紙まで認められ、夕刊を含めることも可能。PCや携帯電話など、何らかの手段でネットに接続できる手段を保有している場合は申請は却下されるが、判断は自治体に委ねられている。このため不正な支給が行われるのではないか、またむしろ収入の少ない若年層を援助するべきではないかといった批判が出ており、「新聞業界の保護政策に過ぎない」という声も少なくない。
とのことで、例えば過疎地に住む高齢者が「読売と報知だけは毎日読みたい」と申請すれば、購読料は全て国から支払われるわけですね。確かに新聞業界の保護が目的のようにも感じますが、そもそも新聞社が倒産してしまっては元も子もないわけですから、ある程度「特需」を起こすことを念頭に置いた政策になるのは致し方ないでしょう。対象を「65歳以上」と限定したことについても、新聞が高齢者のためのメディアとして生き残ることを明確にした、という穿った見方ができなくもありません。
個人的には、もちろんネットに接続できない人々への支援は大切なことだと思います。しかし「情報弱者の保護」という名目を大義名分として、一種の福祉事業的に国が新聞社の経営を延命させていく……そんな見方もできる今回の法案は、決して健全な姿ではないでしょう。例えばフリーペーパーのように、無料で配布しても成立するモデルを追求するなどといった大胆な発想転換が必要とされているのではないでしょうか。
そういえば今日は……4月1日でしたね。
というわけで、当然ながら「情報弱者救済法案」なんてものはまったくのデタラメ。ジャーナリズムの王道を標榜する日本の新聞社が、国に救済されるような構図を許す可能性は低いでしょう。しかし情報弱者が存在すること、新聞社の経営が苦しくなりつつあることは事実であり、数年後にこんな話が出てくる確率はゼロではないと考えます。法律面での問題を無視して考えれば、もっと直接的に「経営が悪化した地方紙を地方自治体が吸収し、市政広報(自治体が配布する広報資料)と新聞が一体化する」というケースが出て来たりして……などと飛躍するのは、エイプリルフールにしても行き過ぎでしょうか?
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ちょうどタイムリーなことに、New York Times でこんな記事を見かけました:
■ Chicago Sun-Times Files for Bankruptcy (New York Times)
シカゴトリビューンに続き、シカゴ周辺で2つ目の新聞社による破産申請が起きてしまった、というニュース。Sun-Times Media Group という会社で、当面新聞の発行とウェブサイトの運営は継続するそうです。
■ European Newspapers Find Creative Ways to Thrive in the Internet Age (New York Times)
こっちはもうちょっと希望の持てる記事で、この状況下でも欧州には頑張っている新聞社があるという内容。ネットから収益を上げる、インターネット接続料金とバンドルしてしまう、ターゲットに応じた媒体(年齢別に分けられた新聞やウェブサイト等)を用意して個々にカスタマイズされた記事を作成するなど、様々なアイデアが紹介されています。外の世界に目を向け、積極的にアイデアを取り入れる姿勢さえあれば、何らかの道が開けるのではないでしょうか。