【書評】『激動予測』
早川書房さんからジョージ・フリードマン氏の新作『激動予測』をいただきました。ありがとうございます。ということで、いつものように簡単ですがご紹介と感想を。
本書は以前このブログでもご紹介した『100年予測』の続編にあたる本です。原題"The Next Decade"が示しているように、今回は100年という長期間ではなく、これから10年という(比較的)短い期間に世界がどのように変わって行くのか?を考察しています。なので前作にあったような「宇宙空間の軍事利用が……」といった奇想天外な話は少なく、比較的おとなしめの予測に収まっているという印象でした。とはいえ、中国の国力は低下に向かうなど、世間的な通念に逆らう大胆な予測も行われているのですが。
前作同様、予測の中心となっているのが地政学的な考え方。ある国が進む進路は国内要因だけではなく、その国が世界の中でどこに位置しているのか、周囲にどのような国々があるのかといった要因によっても左右されるという考え方ですね。なので「勢力均衡」のような言葉も普通に登場してきますし、古くさい考え方だなぁと敬遠される方も多いかもしれません。
しかし個人的には、中長期的な予測を行う場合、ある国の行動を制限する「枠組み」を認識するものして地政学的なアプローチを行うことは有効ではないかと感じています。例えば日本は周囲を海で囲まれている上に山がちで、産業を発展させるための資源を国外に求めなければなりません。仮にいま「日本は再び鎖国政策をとるべきだ」というような極端な指導者が現れ、国民がそれに従ったとしても、たちまち経済が成り立たなくなり再び海外との関係を持とうとするようになるでしょう。このように、短期間だけを考えれば指導者の意志によって国の動向が左右される振れ幅は大きくなりますが、中長期的にはある程度の枠内に収まって行く可能性が高まります。このような枠、つまり「ある国が合理的に選びうる選択肢」を見出す手助けをしてくれるのが地政学的アプローチと言えるでしょう。
もちろん本書が見出した結論が全て正しいとは限りません。しかしなぜそのような未来が考えられるのか、それを導き出すまでの道筋、喩えて言えば「方程式」までを本書は解説してくれています。もし本書の導き出した「10年後の中国」「10年後のヨーロッパ」etc.に違和感を感じるのであれば、その違和感がどこから来るのか、方程式の途中を精査することで明確にすることができるでしょう。むしろ本書は、その結論を鵜呑みにするのではなく、こうした方程式の導き出し方を学ぶことに価値があると言えると思います(もちろん結論部分、つまり10年後の世界がどうなるかという予測についても参考になるところが多いと思いますが)。
また直近10年の予測ということで、「方程式」の中身には、自ずから各国の近現代史が含まれてきます。個人的にはこちらの部分も役に立ちました。特に中東情勢などは過去の流れが非常に複雑ですので、それをコンパクトにまとめてくれている本書の解説は、多くの読者が重宝するのではないでしょうか。本当はこうした知識を、日頃からちゃんと学んでおかなければいけないのでしょうが……。
ちなみに日本語版には、オリジナルエッセイ「地震型社会、日本」が掲載されています。その中でフリードマン氏は、日本社会についてこんな指摘を:
これに対して日本は、氷河型社会ではなく、「地震型社会」といえる。さまざまなできごとが起きても、長い間にわたってほとんど変化が見られない。その間、国内体制や対外関係では、水面下で圧力が高まりゆく。そして突如として体制が瓦解し、大変革が起きるのだ。
この例として彼は明治維新や、太平洋戦争後の日本社会の変革を挙げているのですが、確かに日本はリセット型の社会と言えるかもしれません(リセット思考は若者だけの専売特許のようにマスメディア上では喧伝されていますが)。そして日本が再び激震に見舞われ、21世紀の地域大国へと脱皮して行くことを著者は予測しているのですが、果たしてこの予測を日本国民が成就できるかどうか。最初の一撃は、文字通りの大地震という形で、既に下されているのかもしれません。
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