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【書評】『100年予測』

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今年は年末に向かうにつれて忙しくなってしまい、最近なかなか本を読む時間が取れないのですが、ある方に『100年予測―世界最強のインテリジェンス企業が示す未来覇権地図』が面白いよとオススメされて読んでみました。

本書は『100年予測』というタイトルそのままに、今からおよそ100年後、2100年までの世界の流れを予測するという内容。著者のジョージ・フリードマン氏は、「影のCIA」との異名を持つインテリジェンス企業「ストラトフォー」のCEOで、地政学の手法を駆使し、世界の国々がどのような動きを見せるかを占っています。

まず何より、帯に掲げられた数々の予測が目を引きます:

  • 2020年 第2の冷戦
  • 2020年 中国分裂の危機
  • 2050年 日本、トルコ、ポーランドが力を蓄え、アメリカと戦争へ!
  • 2080年 宇宙開発が進み、宇宙での太陽光発電が主要エネルギー源に
  • 2100年 メキシコがアメリカと覇権を争う

「来年のことを言うと鬼が笑う」などといいますが、これだけを読めばさしずめ「鬼が大笑いする」といったところでしょうか。『100年予測』ですから何十年も先のことを語るのは当然とはいえ、これはあまりにも荒唐無稽すぎると思われるかもしれません。

しかし本書を最初から読んでいけば、こうした予測には明確な根拠があることが分かるでしょう。もちろんそうした「根拠」の正否を議論することはできますが(100年を370ページあまりで論じるという都合上、いくつか説明不足と感じる部分があったのは事実)、本書の価値はそうした根拠を積み重ね、無数の可能性の中から1つの「あり得るシナリオ」を紡ぎ出している点にあります。さしずめ、詰め将棋の解説書を読んでいるような感覚といったところでしょうか。

この「詰め将棋」という感覚、著者自身がこんな言葉で表現しています:

地政学も経済学も、行動主体が合理的であるという前提をとる。つまり、少なくとも自らの短期的な自己利益を認識しているという意味での「合理的」である。かれらは合理的な主体であるがゆえに、現実に取り得る選択肢は限られる。人間や国家は全体としてみれば、完璧とは行かないまでも、少なくともランダムではない方法で自己利益を追求するものと考えられる。チェスのゲームを例にとってみよう。素人目には、チェスの初手は20通りの指し方があるように思われる。だが実際に指される手はそれよりずっと少ない。ほとんどの手が、すぐに敗北をもたらす悪手だからだ。チェスがうまくなればなるほど、自分の選択肢をより深く理解するため、現実に指せる手は少なくなる。つまりチェスの名手であればあるほど、次の一手を予測しやすいのだ。名人は絶対的な正確さで、予想通りの手を打ってくる――思いもよらない、目の覚めるような一撃までは。

日本でも政権交代が起き、民主党政権は外交政策を転換しようとしているわけですが、実際には対米関係のように転換が難しかったり、対印関係のように前政権の方針にそのまま乗ったりするといった状況が現れています。たとえ政権が変わっても、変わることのない、変えることのできない様々な条件――日本列島の位置関係や経済状況、社会構成など――が日本政府の取り得る行動を規制し、変化ではなく継続を促すわけですね。

当然ですが、だからと言って行き着く先が1つとは限りません。本書の描く将来像に同意するか否かは読み手次第だと思いますが、誰にでも等しく価値のあるのは、本書が示す未来予測の方法や根拠でしょう。100年後の地球全体を予測する、などという必要に迫られる方々は少ないと思いますが、5年後、10年後の日本を予測して自分の会社の方向性を出さなければならないという場面は多いはず。そんな時、本書の思考法は大いに参考になるのではないでしょうか。

などと堅苦しいことを考えなくても、本書は1つの読み物としても十分面白いと思います。これから読まれるという方、ぜひ大きめの地図帳かもしくは Google Earth を傍らに用意しておいて下さい。地球という「チェス盤」の上で、世界の国々はどんな一手を打つのか、あるいは打てないのか。年の初めにスケールの大きな未来像を考えるというのも、なかなか面白いと思いますよ。

100年予測―世界最強のインテリジェンス企業が示す未来覇権地図 100年予測―世界最強のインテリジェンス企業が示す未来覇権地図
櫻井 祐子

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今年も「シロクマ日報」ならびに「Polar Bear Blog」をお読みいただき、誠にありがとうございました。年末はあまり更新できませんでしたが、本業が忙しいという嬉しい状況(?)ですのでご心配なく。また来年も少しずつ更新していきたいと思いますので、このままお付き合いいただければ幸いです。

2010年が皆さまにとって、実りの多い一年となりますように。さて、僕はもうひと頑張りして仕事を収めなくちゃ!

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