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「オバマ大統領って、ケニア生まれなんでしょ?」と言われたら

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昨日のエントリで疑似科学のことに触れましたが、疑似科学とまではいかないまでも、いま米国で話題を集めている馬鹿馬鹿しい騒動の1つに「オバマ大統領出生地問題」があります。米国大統領に求められる条件の1つに「米国生まれであること」があるのですが、一部の政治家からオバマ大統領は外国生まれ(特に父親の出身国であるケニア生まれ)ではないか?との攻撃がなされ、それに大統領がわざわざ対応するという事態になっているわけですね:

「私は米国生まれだ」 オバマ氏が出生証明書 (西日本新聞)

父親がケニア人のオバマ大統領の出生をめぐっては、共和党から次期大統領選出馬に意欲をみせる実業家のドナルド・トランプ氏が疑問を公言。同様の議論が起きた2008年の前回大統領選でオバマ陣営はハワイ州発行の簡易版の出生証明書を公表したが、トランプ氏は「簡易版では証明にならず、原本は存在しない」などと攻撃をエスカレートさせていた。

大統領側は当初、無視していたが、米メディアでは出生論争が過熱。21日の米紙ニューヨーク・タイムズの世論調査で、全体の25%、共和党員に限れば45%が「オバマ氏は他国で生まれたと思う」と答えるなどしたことから、論争に終止符を打ちたかったようだ。

ただこうした「疑惑」とそれをめぐる議論は以前から存在していたものであり、当然ながらオバマ氏は疑問が呈せられる度に、米国出身であると明言しています。それではなぜ、このように陰謀論的な主張がまかり通るのか、そしてそれに固執する人々をどう対処すべきなのか――この点について、Fast Companyで面白い記事が公開されています:

How To Make Skeptics Believe Obama's Birth Certificate Is Authentic (Fast Company)

Psychologists have, in fact, known for a while that skeptics will harden their existing conspiracy theories in the face of contradicting evidence. But here's how to knock your Trump-loving uncle back on his heels during the next family gathering, courtesy of the Yale Cultural Cognition Project--it's produced compelling techniques on the science of getting people to believe facts.

The techniques boil down to allowing partisans to maintain their political philosophy in the midst of accepting new facts. For instance, for "small government" conservatives, or what the YCC calls "individualists," it's strategically important to highlight the power of competition and the ineptitude of government. Namely, "Obama's rightful fear of losing in the 2012 election forced him to come clean with his birth certificate, though this is just another illustration that government can't do things in the timely manner."

Each type of conservative philosophy will need its own justification.

実際のところ心理学者たちは、陰謀論者は自説を否定する証拠を突きつけられても、逆に陰謀論に固執するようになることを認識してきた。次に家族の集まりがあった時、トランプ氏を支持するおじさんの目を覚ますにはどうすれば良いか教えよう。これはYale Cultural Cognition Projectから発表されたもので、同プロジェクトは他人に事実を信じさせるための科学に基づき、有効なテクニックを開発している。

このテクニックでは、人々が新しい事実を信じるようになる過程において、彼らの政治哲学を変える必要はない。例えば「小さな政府」を信奉する保守主義者や、YCCが「個人主義者」と呼ぶ人々に対しては、競争の力や政府の愚かさを協調するのが戦略上重要になる。すなわち、「オバマは2012年の大統領選挙に敗北することを恐れ、出生地問題を解決しておこうと考えたのだろう。しかしこれは政府がタイムリーに行動することができないことを示す、新たな事例となるのだが。」

保守的な考え方をする人々に対しては、それぞれのタイプに応じて、正当化のための理由を与えてやることが必要なのだ。

つまり客観的な証拠を突きつけられても自説をまげないような人は、既に事実を追求するというよりも「議論に負けないこと」が目的となっている場合があり、彼らに必要なのは追加の証拠ではなく「面目を保ちながら意見を変えられるロジック」なわけですね。記事では他にも様々なテクニックが取り上げられているのですが、まずはこの「相手の面目」に理解を示すというのが根幹となるのではないでしょうか。

残念ながら今の日本には、オバマ大統領の出生地問題以上に答えを出すことが困難で、国民を二分するテーマが存在しています。原子力/エネルギー政策はその最たるものでしょう。残念ながらこれに関する議論を見ていると、互いに相手のことを「情弱」などと罵り、ディベートに勝つことだけを目的にしているような状況をしばしば目にします。しかし日本にとって最悪の結果は、議論が前に進まないまま、いたずらに時間だけが過ぎてしまうことです。お互いに相手の立場を思いやり、感情的な対立を収めることが今まさに求められていることではないでしょうか。

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