キュレーション時代のジャーナリズム
ソーシャルメディア時代の情報流通のスタイルとして「キュレーション」(あるいはソーシャルフィルタリング)に注目が集まっています。無数の情報の中から重要な情報だけを「目利き」的な存在(専門家だけ、あるいは少数の人々だけとは限りません)に選択・集約してもらい、その中から自分に合ったものフォローするというこの発想、いま様々な形で具現化されつつありますが、例のチュニジア・エジプト報道の中でも優れた物が存在していたようです:
■ Twitter Feed Evolves Into a News Wire About Egypt (New York Times)
NPR(National Public Radio、米国の公共ラジオ局)のAndy Carvin氏が、北アフリカ情勢に関する情報のリアルタイム集約を行っていたことについて。彼は以前の記事(NPRが示す「マスメディアによるFacebook活用モデル」)でもご紹介したことがありましたが、NPRの戦略担当という立場にあり、以前からソーシャルメディア活用に携わっていた人物です。
彼は「キュレーション」およびソーシャルメディア活用について様々な試行錯誤を行っており、実際にどのような試みを行ってきたのかの詳細については、以下の2つの記事も参考になります:
■ Curating the Revolution: Building a Real-Time News Feed About Egypt (The Atlantic)
■ #gave4andy: Andy Carvin and the ad hoc pledge drive (Nieman Journalism Lab)
いまAndy Carvin氏が行っているキュレーションについては、彼のTwitterアカウント(@acarvin)をご覧頂くのが早いでしょう。非常に頻繁にツイートしており(この記事を書いている間にも10件近く新着ツイートがありました)、かつ公式/非公式のリツイート、引用投稿などが多くなっています。これらは彼が重要だと判断した情報であり、(Carvin氏を信頼できるとあなたが判断するなら)情報源を直接フォローする以上に信頼性の高い情報チャネルになっているわけですね。実際、彼をフォローしているメディア関係者は多く、フォロワー数以上に彼のTwitterアカウントが影響力を持っているとNew York Timesの記事は指摘しています。
彼が米国に居ながらにして(そう、別にエジプト入りしているというわけではありません)どのように信頼性を確保しているのかについては、上記のAtlantic誌の記事で解説されているのですが、面白いのはNew York Times紙に紹介されているこんなコメントです:
When attention turned to Egypt, he decided to use Twitter to the same effect. A number of his 400-some posts a day, written from an office in Washington or on one of his cellphones, consisted of unconfirmed comments from protesters or sympathizers, preceded by a question, “Source?” He was fact-checking in full view, something that the Web seemingly encourages.
“Some people have called this type of reporting as curation, as if it’s something totally new,” he wrote in an e-mail. “Well, Twitter might be relatively new, but the notion of journalists gathering, analyzing and disseminating relevant information isn’t new at all. I see that as curation as well.”
人々の注目がエジプトに移ったとき、彼はTwitterを使って同じこと(※チュニジア情勢に関して行っていたキュレーション行為)をしようと考えた。彼はワシントンにあるオフィスから、もしくは携帯電話を通じて1日に約400件のツイートを投稿しているが、その一部は抗議活動の参加者もしくは協力者からの未確認情報で、彼からの「ソースは?」という質問が添えられている。彼は外から見える形で裏取りをしているのだ。それはウェブが促している行為であると言えるだろう。
彼はメールを通じてこう語ってくれた。「こういった報道スタイルを『キュレーション』と呼ぶ人もいます。まるで全く新しいものであるかのように。確かにTwitterは新しい存在かもしれませんが、ジャーナリストが関連情報を集め、分析し、配信するというのは全然新しい話ではありません。私はそれもキュレーションだと考えています。」
確かに彼の言うように、(それが実現されているかどうかは別として)「情報収集し、裏取りをし、知らせるべきものだけを知らせる」というのはこれまでもジャーナリズムが行ってきたことと言えるでしょう。であるならば、逆にソーシャルメディアという舞台は、報道を行ってきたメディアが実力を発揮できる場所なのかもしれません。
もちろん本当にそれを心がけてきたのか、ウェブというツールの特性をどう理解するか、あるいはビジネスとしてどう展開するかといった問題は残ります。ただCarvin氏が示しているように、キュレーションを本来の形でのジャーナリズムの復活と捉えることもできるのではないでしょうか。さらにそれが衆人環視のもとで行われること、またクラウドソーシング的に無数のウェブユーザーの協力を得られる可能性があることを考えれば、より進化した姿で展開できるかもしれません。あまり楽観的なことを言うと怒られてしまいますが、少なくともCarvin氏のキュレーションからは、様々なヒントを得られるのではないかと思います。
キュレーションの時代 「つながり」の情報革命が始まる (ちくま新書) 佐々木 俊尚 筑摩書房 2011-02-09 売り上げランキング : 21 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
【○年前の今日の記事】
■ 消費者の参加が欠かせない「スマートグリッドコスト問題」 (2010年2月15日)
■ ハートの Twitter (2008年2月15日)
■ 危険な擬人化 (2007年2月15日)