危険な擬人化
留学中、先生から面白い話を聞いたことがあります。曰く、
相手を説得して、何か行動を起こさせたければ、企業を擬人化して現状を「中年」に例えるのが一番だ。
というもの。「中年」は何かを成し遂げて成功(安定)している状態であり、現状に一定の評価を示しつつも、目前には「衰弱」が迫っていることを実感させることができる……というのです。確かに「御社は着実に成長を遂げ、いまは働き盛りの全盛期です。しかしこのまま年を重ねれば、元気な若者企業に地位を脅かされます」などと言えば、相手はいい気分になりながらも「何か行動しなくては」と感じますよね。しかもこの手法、どんな企業でも「中年」に例えることができて(スタート時点や比較対象を恣意的に決めればよいのですから)、根拠がなくても不安を煽ることができるという利点(?)もあります。
実は今日の朝日新聞、「貿易より投資で稼ぐ?」(朝日新聞朝刊 2007年2月15日 第10面)という記事に、冒頭で掲げたようなチャートが載せられていました。題して「経済発展を人生に例えると」。そう、国家を擬人化して考えたものです。内閣府の発表した資料から作成とのことですので、朝日新聞オリジナルの図ではないかもしれませんが、いずれにしてもこの図の中で日本は「壮年期」であると示されています。
僕は経済の専門家ではないので、日本経済がどのような状態にあるのかは論じられません。しかしこのような擬人化は、人々にいらぬ不安を与えるのではないでしょうか。まるでこのまま日本は老いて死んでいくのではないか……といった、漠然とした不安です。朝日新聞は何か、読者に行動を起こさせたいのでしょうか?
国家は成長して死んでいくという存在ではなく、様々なステージを移り変わっていく存在だと思います。仮に経済が「衰退」するということがあったとしても、それは1つのシステムに過ぎず、裏では別のシステムが成長を始めているはずです(それが成功するか否かは別の話ですが)。不安を持った読者が、経済を勉強して正しい知識を身につけるというのなら良いのですが、不要な擬人化によって「やっぱり日本経済は終わりだ」「現在の産業を保護して、延命措置を取らなければ」などといった意見を持ってしまう危険があるのではないでしょうか。中年から老人へと向かうシステムの後ろで生まれている、乳幼児期のシステムまでもが「ダメな経済」として否定されないことを願います。
< 追記 >
海外からのスパム攻撃の対象となっているため、トラックバックを閉じさせていただきました。(2007年3月11日)