オルタナティブ・ブログ > シロクマ日報 >

決して最先端ではない、けれど日常生活で人びとの役に立っているIT技術を探していきます。

DARPA「風船探しコンテスト」、MITチームの勝利は「フリー」の限界を意味するのか?

»

まずはいきなり関連記事を:

「風船10個を見つけて、4万ドルをゲットしよう!」コンテスト、いよいよスタート (シロクマ日報)
DARPAの「赤い風船探しコンテスト」、開始後わずか9時間弱で優勝者決定 (Polar Bear Blog)

昨日からお伝えしている、DARPAの「風船探しコンテスト」(全米のどこかに設置された10個の赤い風船を、最初に全て探し出した参加者が賞金4万ドルを手にするというもの)。MITチームが開始9時間弱(正確には8時間56分)という速さで全ての風船を特定し、みごと優勝を果たしました。この結果について、「インターネットの力をまざまざと見せつけた」というような評価が早くも出ているようです。

MITチームがどのような手法を用いたかについては、今後DARPA自らがインタビューって明らかにする予定になっていますが、1つ面白い特徴が指摘されています。

how_it_works

この図は優勝した"Red Balloon Challenge Team"の公式サイトに掲げられているもの。風船の在処について情報を寄せてくれた人には2,000ドルを、その人を紹介してくれた人には1,000ドルを、またその紹介者を紹介してくれた人にも500ドルを……というように、情報提供者らに報酬を払う仕組みを採用しています。後で紹介する New York Times の記事によれば、この仕組みを通じて4,665人の協力者が集まったとのこと。その中の何人が報酬目当てに集まったのかは分かりませんが、明らかにMITチームは情報を「買う」という戦略を採用していたわけですね。

仮にMITの優勝に「情報にお金を払う」という要素が何らかの影響(情報の数が増えた、あるいは質が上がったなど)を与えていたとしたら、インターネットにとってこの結果はアンビバレントなものになるかもしれません。確かにネットの力によって、多くの情報が瞬時に集められたわけですが、その一方で「情報は無料になる」というテーゼに反するような行為が行われていたのですから。「新聞社やテレビ局がその組織力・情報判断力を見せつけて優勝した」という結果にならなかっただけ、ネット信奉者にとってはマシな結果だったかもしれませんが、「結局はお金がモノを言うのだ」という捉え方もできることは否定できないでしょう。

実際 New York Times では、今回の件に関して「お金で誘った」というタイトルの記事が掲載されています:

With Lure of Cash, M.I.T. Group Builds a Balloon-Finding Team to Take Pentagon Prize (New York Times)

The winning researchers, who specialize in studying human interactions that emerge from computer networks, set up a Web site asking people to join their team. They relied on visitors to the Web site to invite their friends. They also sent e-mail messages inviting people to participate and sent a small number of advertisements to mobile phones.

They said that they would dole out the prize money both to chains of individuals who referred people who had correct information on the balloons’ locations and to charities. They described their method as a “recursive incentive structure.”

The approach “rewards people who make real contributions,” said Dr. Crane, whose research has recently focused on how information spreads in computer networks, like YouTube.

優勝したチームの研究者らは、コンピューターネットワーク内における人間の交流を専門にしており、専用のウェブサイトを設置してチームへの参加を呼びかけた。さらにウェブサイトの訪問者たちが、彼らの友人も連れてくることを期待したのである。また参加を呼びかけるメールを送ったり、携帯電話に広告を送ったりもした。

彼らは賞金を協力者(風船の正確な情報を持っている人物を紹介してくれた人物)への配分と、チャリティに使うそうある。また彼らはこの手法を「再帰的動機付け構造」と呼んだ。

このアプローチは「本当に貢献してくれた人々に報いるものだ」と Crane 博士は述べる。博士は最近、YouTubu のようなコンピューターネットワーク上でどのように情報が広がるかを研究している。

など、お金という報酬が一定の効果を上げたことが指摘されています。

一方、『フリー~〈無料〉からお金を生みだす新戦略』を読まれた方であれば、このニュースを読んで「情報は無料になる」という言葉についての解説を思い出されたのではないでしょうか。実はこの言葉、

On the one hand information wants to be expensive, because it's so valuable. The right information in the right place just changes your life. On the other hand, information wants to be free, because the cost of getting it out is getting lower and lower all the time. So you have these two fighting against each other.

一方において、情報は高価になりたがる。なぜなら、非常に価値のあるものだからだ。適切な場所に置かれた適切な情報は、人々の人生を変え得る。またその一方で、情報は無料になりたがる。なぜなら、それを得るコストは次第に縮小していくものだからだ。つまり相反する2つの方向性が存在しているのである。

というのが全文なわけですね。つまり何が何でも無料になるのではなく、逆に貴重で高価なものになるベクトルも備えている――今回のコンテストで、(Twitter などを通じて)無料の情報がネットを飛び回った一方、MITチームのような「情報を買う」という行為が行われていたのは、まさにこの状況を良く示したものと言えるかもしれません。そしてこの2つのベクトルを正しく認識し、価格設定を行うことが「フリー」ビジネスを成功させる道の1つである、ということが『フリー』の中で主張されています。

そう考えると、今回の結果は「フリー」の限界というよりも、それをネット上でどう活かすのかというヒントを与えてくれるものになるのではないでしょうか。特に情報そのものを持っていた人だけでなく、そこに「リンクを貼ってくれた人」にもお金を出すというポイントは、どれだけの影響があったのか研究が待たれるところです。改めて今後の情報開示や分析に期待すると共に、同じようなイベントが日本でも開催されて欲しい、という期待を述べておこうと思います。

フリー~〈無料〉からお金を生みだす新戦略 フリー~〈無料〉からお金を生みだす新戦略
小林弘人(監修・解説)

日本放送出版協会 2009-11-21
売り上げランキング : 3
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

【○年前の今日の記事】

思考停止を招く「文化だから」 (2008年12月7日)
ワインと食事、逆転の発想 (2007年12月7日)
社長チャーハンの是非 (2006年12月7日)

Comment(1)