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【シーズン1 第5話】ノヤン先生のフライフィッシングとマーケティングテクノロジストが目指すべき姿勢

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 今回は、B2Bマーケティングのエバンジェリストとして有名なノヤン先生のフライフィシングの記事から、マーケティングテクノロジストが目指すべき姿勢を考察してみましょう。

 「フライフィッシャーに学ぶターゲットセグメントのプロファイリング」を読むと、実に分かりやすく、繊細なB2Bマーケティングの面白さが伝わってきます。

 「基本的には狙っている魚がその季節に食べている羽虫に似せたフライが良いのじゃが、どの川ではどの季節にどういう羽虫が飛ぶかは、その川の植生で決まることが多いんじゃよ。植生とは川の周辺の植物の分布じゃな。そして植物は、温度、湿度、標高、緯度、日当たりなどの条件で異なる組み合わせになるんじゃ。 ・・・ そして、当日は実際に現場に行って確認できる植生と、その日の水温、水の流れの速さ、川底の状態、そして雨などの影響での水の濁り具合などが変数になって使用するフライを選定して、テスト、ダメなら換えてまたテスト・・・という釣りなんじゃよ。」

 確かにB2Bマーケティングとフライフィッシングは似ていますが、この文章をマーケティングテクノロジスト的に考えると、部分最適に見えてしまいます。つまり、「フライを選定して、テスト、ダメなら換えてまたテスト・・・」が、A/Bテスト的なイメージを指しているならば、あくまでマーケティング部門の中で自己完結できる範囲内の方法、ということになります。

 実際にフライフィシングを行う人ならば分かると思いますが、ストマックポンプを使ったり、休憩時に胃の中を開いてみたりして、釣った魚の胃の中にある未消化物を確認することがあります。それはA/Bテストなどでコンバージョン率が上がったとしても、実際に購入されているかどうかを比較して考察することと同じことを意味する訳です。eコマースのように、実際に購入したユーザー数とページの閲覧数からコンバージョン率を算出できるのならシンプルですが、B2Bサイトのように、メールアドレスなどの個人情報を会員登録することをコンバージョンとしている場合などは、「コンバージョン=購入」は成立しません。

 おそらく、このフライフィッシャーが視野に入れているのは、マーケティング部門の部分最適で、IT部門が管理している購買データなどは視野に入れていないのではないでしょうか。いわゆる「B2Bマーケター」は部分最適でもいいと思いますが、マーケティングテクノロジストはもう少し広い視野を持つ必要があります。

 さらに、データという切り口で考察してみましょう。
 データを時系列で整理すると、過去、現在、未来と3つに分類することができます。具体的に購入した過去データから作られた決算書、現在の刻々と変化するPOSデータ、サイトやマーケティングオートメーションツール、SFA/CRMツールに入っている購入前の未来データと分類すると、このフライフィッシャーは、未来からのデータのみをフォーカスしている訳です。

 データを過去、現在、未来と分けて考えるのはシンプルですが、実際は未来データはマーケティング部や営業部が管轄し、現在、過去データはIT部門などが管理しているため複雑性を増します。マーケティングテクノロジストは、「焼き鳥の串」となり、この3つのデータを串刺しで捉える必要があるのです。

 例えば、古典的なマーケティングの4P理論で、「Place」は流通チャネル戦略と言われていますが、これに「在庫」という概念を加えたコンテンツマーケティングを以下のように行ったとしましょう。

商品A:在庫あり
商品B:お取り寄せ
商品C:在庫残少

あるいは、

商品D:在庫 100
商品E:在庫残り 3

 適正在庫(オムニチャネルなどでは店舗在庫を含む)とリードタイムが、TPSTOCなどでコントロールさせれているとして、在庫表記が「在庫残少」「在庫残り 3」だとすると、「在庫が表示されるコンテンツは売れやすい」(在庫数と購入に相関関係がある⇒在庫が少ないと購入を後押しされることがある)という結果が現在データや過去データから導かれたとします。

 このB2B企業にとり、「在庫の数」というコンテンツは重要なコンテンツマーケティングの要素であり、適正在庫とリードタイムをコントロールする生産方式やサプライチェーンの改善が強力なマーケティング施策ということになります。この発想はデータを過去、現在、未来で捉えることから生まれてくるもので、既存のマーケティング部門がフォーカスする「Promotion」からは生まれにくいものです。

 マーケティングの目的が顧客創造(Create a Customer)であるならば、マーケティングテクノロジストはデータを過去、現在、未来から捉え、IT部門とマーケティング部門を横断し、自らが「焼き鳥の串」となる姿勢が必要なのです。

● 雑談のネタ【Coffee Break】
https://blogsmt.itmedia.co.jp/CMT/coffee-break/

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