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日本の地ビールブームが過ぎ、今はほんとうに美味しいビールを造る小さな醸造所が生き残っている。未だ経営は厳しい状況にあり、気を許すことはできな い。しかし、技術レベルでいえば、世界に通用する醸造所も出てきている。

沼津に、ちょうど2000年に、小さな醸造所と付属する小さなビアレストランを開店した夫婦がいた。大きなビールメーカーであれば、1ロット単位で 3000Lの醸造をするが、ここでは一回に30L。100分の1のサイズでの出発であった。沼津の寿司屋街の隣なのに、お鮨もなければ、魚料理すらない。 そんな店の名前は、「タップ・ルーム」といい、すぐ隣で醸造した、作りたてのエールが飲める。そして、料理はそういったエールにマッチする内容ばかり。こ の、仲の良い夫婦とイメージが重なるほどである。うわさを聞きつけて、ビール好きの仲間が集まり、すべて手作り、一切の手抜きをしない、本物のエールを味 わった。

通常、ホップは、ペレットと呼ばれる、ホップを凝固させたものや、エキスを使用する。しかしここでは、生ホップをそのまま使う。むろん、ホップ香は生ホップ をそのまま使うのが良いに決まっているが、どの醸造所でも、ホップを生のまま使うところはない。さらに熟成中のビールに生ホップを追加する「ドライ・ホッ ピング」まで行っている。手間暇をかけて、丁寧に醸造しているのだ。

このブルーア(醸造者)は、ブライアン・ベアードというアメリカ人である。奥さんは日本人。カリフォルニアで醸造学を学び、日本にやってきた。富士山の伏 流水が水源の沼津市のこの地を選んで、ちいさなちいさな醸造所を作った。税務署との折衝。慣れない日本語で、説明したのだろう。そして、店を開いた。

ある日、この店にいってカウンターに座っていると、その日の醸造作業を終えたブライアンが、隣に座って、遅い昼飯を食いだした。いろいろ話がはずんだ。そ して、会話の途中で、彼はこう言った。

「僕はね、ビジネスマンだよ。」

なにを言い出すのか、と思った。お前は醸造家だろ。

しかし、ブライアンは、こういった主旨の話を続けた。彼のビールの特徴は、品質しかない。 「Balance, Character, Complexity」これがベアードビールの全てで、そのために、生樽を出すのなら、ブライアンが納得できる管理方法と温度と冷蔵庫を準備しない限り、絶対 売らせない。だから、自分でビジネスを徐々に拡大し、自分で店を広げていくと言った。

そして、今年。2008年5月10日、中目黒についに「タップ・ルーム」二号店を開店した。正式には二号店ではなく、「中目黒タップルーム」。日本にい る、アメリカやイギリス、オーストラリアといった国から来た人たちは、自分のふるさとの味なのである。だから、中目黒タップルームにおけるノン・ジャパ ニーズの人口は他のビアレストランに比べても、とても高い。ちなみに、ブライアン、お金のかかる宣伝など、全然していない。口コミだけで、これだけ流行っているのがすごい!

瓶詰めのビールも途中から造り始めている。ビンに入れる場合、日本の普通のビールなら火入れなり、フィルタリングをして、発酵を止めるが、ブライアンの場 合は瓶の中で二次発酵するように作ってある。だから、コンディショニングをしっかりすると、「化ける」。すばらしくなる可能性がある。ワインよりビールの コンディショニングはとても難しいので、瓶詰めのベアードビールを置くバーやレストランも、ちゃんとしたセラーマンが必要で、ブライアンのめがねにかからなければ、ダメだ。

今後、更なる展開、海外輸出などビジネスマンとしてのブライアンの戦略は、着実に着実に実施されていくことだろう。

日本人はどうした、と、なるだろう。日本のビール醸造の中では、ブライアンが確実にトップだと思うが、ライバルもいる。たとえば、長野県軽井沢に本拠地を置く、ヤッホーブルーイングよな よなエールだ。石井敏之COO率いるヤッホーブルーイングのエール、よな よなエールは、味香りともすばらしい。ブライアンと石井さんの一騎打ちである。石井さんは、積極的なマーケティ ングを展開し、高級なビールとして、地位を確立している。

石井さんの作るエールは100点満点中、100点である。完璧だと思う。ブライアンの造るエールは、しかし、飛び抜けている。点なんかつけられない。揺らぎはまったく無く、美しい。

Img_0534 ポーターという、まあ、近代ビールの原型のようなビールの種類がある。世界的なビールの流行に合わせて、世界中のブルーアがこのポーターを作っている。世界で有名なポーターは、私はその場にまでいって飲んでみた。そして、このブライアンの「黒船ポーター」は、その中では トップである。世界的にはトップの評価を得ている、バートンブリッジのポーター、さらにはロンドン・ポーター、カリフォルニアの多くのブルーア、シドニーのブルーアと、どのポーターと比 較しても、ブライアンのポーターは最高だ。

ブライアンのビジネスマンとしての、品質を最重要視する態度と、長期的な展望を持った仕事の仕方は、ぜひ、学び取りたいものだ、と思っている。

中目黒のタップルームは、大人気でものすごい混みようなのだが、メールをいただければごいっしょしますよ。場所は、教えてやんないっ。だって、ひとが多すぎて、私が入れなくなったら大変だもん。でも、検索するとすぐわかっちゃうけどね(くすくす)。

とおる

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高橋徹

現在サン・マイクロシステムズにて、様々なミドルウェア・ソフトウェアの販売推進・ビジネス開発を担当しています。旅行、食べ歩き、読書が趣味。

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