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池波正太郎氏のエッセーが好きです。鬼平犯科帳なんて全巻読んじゃいましたが、池波氏の食に関するエッセーは、たいへんに面白いし、また、へぇ~っとびっくりするような情報もあふれ、それでいて、「あぁ、食べてみたい。」と思わせる文章に引き込まれます。

そんな中で、「散歩のとき何か食べたくなって」の中の「深川の二店」を読んでいて、「あっ、そうなんだ」と、いままで不思議に思っていたことが、すっきりとしたことがあります。これこそ、目からうろこが落ちた瞬間って感じ、です。

すしで、『江戸前寿司』と良く言います。多くの人は「江戸前」=「東京湾」と考えているでしょう。そうすると、たとえば、千葉の三番瀬や木更津沖も江戸前になってしまう。ううーむ、それはどうも違うような気がする。品川なら、品川前って言ってもいいでしょう。

「何とか『前』」という言葉、たとえば「男前」は「男らしい」という意味なので、「江戸前」というのは「江戸らしい」という意味合いなのかな、と、思っていました。ところが。

池波氏の「深川の二店」は、こういった文章で始まります。

物の本に、
「江戸時代の深川は、イタリアのベニスに比較してもよいほどの水郷であった。」

(中略)

深川の地は、往古(むかし)、大川(隅田川)の河口に近い三角州(デルタ)だった。
はじめて、徳川家康が江戸に入国したところ、江戸湾の水は赤坂や上野あたりまで流れ入っており、いまの日比谷公園のあたりは海岸だったのである。

(中略)

いわゆる「江戸前」の魚介は、深川のものである。
隅田川の川水と、江戸湾の海水がまじり合った特種の水質に育まれた魚や貝の味わいは、特別のものだったらしい。 

 

なるほどね。江戸時代の魚河岸は、深川からすぐそばで、人口の多い、日本橋にありました。足の速い貝や魚でも朝取れば、すぐに持って来れます。昔の地図を見てみると、江東区木場あたりは元々は海で、だから、始めの頃の江戸前すしの種が、貝や白身の魚、ひかり物などの浅瀬の魚介類だったのですね。いまや深川の三角州どころか、江戸前の海はずーっと沖まで埋め立てられてしまいました。いまのお寿司は、きっと江戸前風寿司と呼ぶのが正しいかもしれません。

■□■□■□

ところで、この「深川の二店」とは、どぜう(どじょう、ではない)の「伊せ喜」と馬肉鍋(さくらなべ)の「みの屋」のことです。おすし屋さんではありません。両店とも現在も健在、繁盛しています。

「伊せ喜」は店の前を通ったきりで、まだ入ったことはありませんが、「みの屋」は、いなせな下町情緒あふれるお店でした。夏もクーラーなどなく、特製のうちわで涼を取る。お手水がたいへん風情があって、いいですよ。超特大の熊手も、華やかでよろしい。

とおる

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高橋徹

現在サン・マイクロシステムズにて、様々なミドルウェア・ソフトウェアの販売推進・ビジネス開発を担当しています。旅行、食べ歩き、読書が趣味。

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