オープンデータ社会(104)プローブデータ(運行実績情報)の活用
2011年3月に発生した東日本大震災の際に、被災地での道路状況の把握に大活躍したのが、ホンダの車に搭載されたインターナビから提供された通行実績情報(プローブデータ)です。インターナビは、ホンダ車のオーナー向けの無料会員サービスで、会員数は2012年末で170万人を超えています。会員の車に搭載されたGPSやセンサデータから数秒単位で緯度・経度と時間の走行状況データがアップデートされ、これらのビッグデータを活用し詳細な案内ルートなどのサービスを会員向けに提供しています。
「スマートルート」機能の場合は、有料道路の料金データ交通状況をもとに最適なルートを計算し、早く目的地に到着できるよう時間と料金を考慮したルートを案内します。「省燃費ルート」機能の場合は、燃費情報データベースをもとに、目的地まで最も燃料消費量の少ないルートを案内します。
震災後、被災地では道路が寸断され、救援の車や救援物資を運ぶための車の通行ルートを把握することが困難を極めました。ホンダは、このような状況を受け、このインターナビの機能を利用し、震災翌日の2011年3月12日10:30にはグーグルのGoogle Mapと連携し、ほぼリアルタイムで把握可能な被災地に向かうための通行可能なルートを表示した「通行実績情報マップ」を会員以外の一般向けにも公開しました。
災害時通行実績情報の流通・連携の促進に関する調査研究
「災害時通行実績情報の流通・連携の促進に関する調査研究」では、特定非営利活動法人ITS Japan、NTTコミュニケーションズ、みずほ情報総研、NTTアドバンステクノロジが実施主体となり、調査研究を行なっています。
ITS Japanは、2011年3月に発生した東日本大震災の際に、2011年3月19日からホンダ(インターナビ)、パイオニア(スマートルーブ)、トヨタ(G-Book)、日産(カーウィングス)などのマイカーに搭載されているGPSと連動したナビゲーションシステムの「通行実績情報(プローブ情報)」の提供を受け、ITS Japanがデータを集約し、「自動車・通行実績情報マップ」をGoogle Mapsで公開し、物流業者が被災地に支援物資を送り届ける際の通行情報として活用しています。
2011年4月6日からは、岩手県、宮城県、福島県、東北地方整備局、NEXCO東日本の通行止め情報を国土地理院がデータ統合したものも反映し、国土地理院の電子国土で配信するともに、Google Mapsで配信を行っています。
「災害時通行実績情報の流通・連携の促進に関する調査研究」では、4社に加えて、日立製作所、タクシープローブ実用化研究会、いすゞ自動車、UDトラックスの4社からの運行情報の提供も受け、合計8社からの通行情報を提供しています。
これらの通行実績情報の活用については、47都道府県にアンケート実施をしたところ、災害時、緊急輸送道路に利用可能な道路の把握への通行実績情報の活用意向は、6~8割にのぼっている。特に自治体の管理部門の危機管理部門では「関心がありすぐ利用したい」が17%、関心があるがまずは活用方法等について民間と意見交換したい」が66%となっており、高い関心を示しています。
今回の総務省の通行実績情報の配信実験では、2013年2月12日~2月26日の間に、東京、仙台・石巻、青森のエリアにおいて配信実験を実施し、大規模地震後に速やかに配信できるよう運行情報の高度化配信の技術検証と運用手順の原案の策定を行っています。今後災害が発生した際には、東京などの大都市においては直近1時間の情報、仙台・石巻、青森のような地方都市においては直近3~6時間の情報を配信できる可能性があることが確認できます。
ITSジャパンでは、今回の配信実験を踏まえ、実際の災害発生時においても速やかに情報提供が行え、災害対応など多くの分野にも活用できよう関係機関と連携し、配信に関わるシステムや、コスト費用負担や運用面などの検討に取り組んでいくとしています。
こういったプローブ情報の活用は災害だけでなく、交通事故の発生率の高い交差点などでの車の急ブレーキポイントを抽出し、車線や標識など改善方法を行い、急ブレーキ回数を約7割減少させるといったように交通事故の軽減や、道路計画の策定に役立てるといった取り組みも進められています。
プローブ情報を外部に提供するトヨタ自動車
トヨタ自動車は2013年6月から、全国の自治体などを対象に、テレマティクスサービス「G-BOOK」を通じて収集・蓄積したプローブ情報「Tプローブ交通情報」を個人情報を削除し提供する「ビッグデータ交通情報サービス」を提供しています。
「ビッグデータ交通情報サービス」では、このTプローブ交通情報のほか、道路工事などで一時的に通行できない道路の位置を判別する「通行実績マップ」、地図の道路上に交通量を示す「交通量マップ」、急ブレーキのためにABS(アンチロック・ブレーキ・システム)が作動した地点を示す「ABS等作動地点マップ」などが利用できる。また、自治体が保有する各種施設情報なども表示できます。
自治体では、災害時などにおいて、自治体が余裕する避難所などの施設情報や緊急車両、災害支援車両などの位置情報を地図上に表示し、ハザードマップも重ねあわせることで、被害状況の確認や復旧活動にも活用できます。
現在、開催中のCEATECでもそのモデルを紹介しています(関連記事)。
経済産業省が進める「プローブデータ融合プロジェクト」
政府においてもプローブデータを活用した新サービスの創出のための検討が進められている。経済産業省のIT融合フォーラムではプロジェクトグループにおいて「プローブデータ融合プロジェクト」を設置し、ABS作動や温度、振動、位置、速度といったように自動車から取得できるデータを活用した新たなサービスの創出に向けて、異業種を含めた議論を実施し、その実現に向けての課題を抽出し、検討を行なっています。
参加企業では、インテージ、Google、日産自動車、博報堂、リクルートマーケティング パートナーズなどが参画しています。
本プロジェクトでは、2020年の実現を想定したビジネスモデルの検討が行われ、「車の広告の媒体化」「車のプローブデータの流通」「交通データの統合、最適化による新サービス」の実現においての課題検討が行われています。
交通データを統合した新サービスモデルでは、バス会社やタクシー会社、自動車会社などから提供される通行実績情報(プローブ情報)を、交通データの共通基盤を経由し、カーナビ事業者や携帯ナビアプリ事業者が、利用者向けに提供するといったビジネスモデルなどが議論されています。
<プローブデータを活用した事例>
●渋滞情報などの道路状況を視覚化できるサービスを提供する「Smart Driver Network」
海外では、これらのプローブデータを収集し、政府機関とも連携しビジネスにつなげている。INRIXの「Smart Driver Network」は、センサーを搭載した世界の民間や商用車両約1億台からリアルタイムの交通データを収集し、交通スコアカードを作成し、時間ごとや区間 ごとの渋滞情報などの道路状況を視覚化できるサービスを提供しています。
http://www.inrix.com/trafficinformation.asp
INRIXでは米国内の運輸省だけでなく、英国道路庁と数百万ドル規模の7年契約も締結し、英国政府の提供するデータを活用し、ヨーロッパ版の交通スコアカードを公開することで、道路庁の意思決定プロセスの迅速化と道路の渋滞環境などの改善につなげています。
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