「鉄人28号」から「機動戦士ガンダム」まで
本稿は2010年12月06日付けで公開したものに加筆したものである。既に新しくもない技術が含まれているがご了承いただきたい。
かつて、新しい技術は軍事技術から始まった。しかし、現在では民生技術から始まる(「個人向け技術から企業向け技術へ」も読んで欲しい)。今回はユーザーインターフェースの進化について考える。
■新しいゲームデバイス「キネクト」
マイクロソフトのゲームマシンXbox 360用に開発された新しい入力デバイスが「キネクト(Kinect)である。キネクトは、RGBカメラ(画像センサー)、深度センサー(距離センサー)、マルチアレイマイクロフォン(複数のマイク)、およびデータ処理用CPUを内蔵し、プレーヤーの位置、動き、声、顔を認識できる。プレーヤーは、特別なセンサーや印を付けることなく、自分の動作をゲームに認識させることができる。マイクが複数あるから、発声者を特定することもできるはずだ。
任天堂Wiiは、傾きや動きの変化を検出するセンサーを使うことで、身体を動かすゲーム体験を実現した。しかし、センサーを持たなければならないのは(ゲームの種類によっては)不自然であるし、うっかりセンサーを投げてしまう事故もある(実際、私は、友人宅でうっかり投げてしまいそうになった)。
キネクトを使えば、ジェスチャーだけでゲームができる。実際にプレイしているところを見るとなかなか楽しそうだ(ただし「見ている方が楽しい」という意見もあった)。
■ロボット操縦の歴史
日本のロボットアニメに大きな影響を与えた番組が2つある。「鉄腕アトム」と「鉄人28号」だ。
鉄腕アトムは自分で考えるロボットであり、誰かに操縦をしてもらう必要はない。今で言う「人工知能(AI)」、当時の言葉では「電子頭脳」である。人間と同じように考え、同じような感情を持つため、「人間」と同等に扱うべきではないかという議論が起き、ロボット人権宣言に基づいてロボットの自己決定権が認められた。
アトムの電子頭脳は、セルフリフレクションが可能であり、自己の存在についてのメタレベル認知が可能である。そのため、自己の存在について悩むことも多かった。その系譜は「サイボーグ009」や「仮面ライダー」、「人造人間キカイダー」、「新造人間キャシャーン」などに受け継がれた。
一方、鉄人28号は自分の意思はなく、常に誰かの操縦を必要とする。鉄人28号の主題歌に「良いも悪いもリモコン次第」というフレーズがある。これは鉄人28号の立場をうまく表現している。鉄人28号のリモコンは2本のレバーだけである。ラジコンのコントローラーと同じユーザーインターフェースであれだけ複雑な動作が実現できる点は、当時の子供からも突っ込まれていたものである。
さすがに不自然だと思ったのか、後に登場した「ジャイアント・ロボ」では「言葉を理解する」という設定が導入された。しかも、起動後、最初に命令を与えた人物の言葉だけを理解するという高度な音声認識システムも考案された。刷り込み(インプリンティング)のロボット版である。
しかし、音声だけでは複雑な指示は難しい。そこで「ジャンボーグA(エース)」や「勇者ライディーン」では、人間の手足にセンサーを付けることで、人間の動作をロボットで再現するというアイデアが使われた(そして、一部のアーケードゲームにも採用された)。
■ゲームマシンを軍事技術へ導入?
キネクトの機能を使えば、センサーなしに「ジャンボーグA」や「勇者ライディーン」を実現できる。これらは、それぞれ宇宙人から贈られたもの、古代文明の遺跡という設定の違いはあるものの、基本的には「兵器」である。ちなみに鉄人28号も、第二次大戦中に兵器として開発されたが、終戦で無用になったものである。
今のところ、人間が乗り込むロボット型兵器が開発されたという話は聞かないが、噂は聞こえている。しかし、キネクトを使えば、人間の動作を遠隔地のロボットに再現させる「兵器」を作ることが可能かも知れない。これはちょっと恐ろしいことである。操縦者が安全なところにいるため、戦闘から現実感が失われるからだ。
かつて「軍事研究から多くの技術が生まれた。新しい技術は採算を度外視する必要がある。そのためにはこれからも戦争が必要だ」という意見があった。
コンピュータの最初の用途は軍事用だった。CRT(ブラウン管)による情報表示や、ライトペンによる対話型処理は、後のビットマップディスプレイとマウスにつながった(マウスは軍事研究の成果ではないが、最初のトラックボールは軍用だった)。
しかし、その後のコンピュータ技術を牽引したのは企業間取引であり、現在は一般消費者向けのサービスだ。もはや、技術の進歩に戦争は不要である。
キネクトはどうだろう。子供向け番組の「兵器」から生まれたと考えるのか、あるいは子供向けの「娯楽」から生まれたと考えるのか。
どちらかは分からないが、ひとつ言えることがある。実在する兵器として実現する前に、ゲームとして販売されたということである。もしかしたら軍事研究もされているのかもしれないが、広く使われたという話は聞かない。
その他、ドローンはもともと無人爆撃機として開発されたらしい。しかし、急速に進歩したのは民生用のドローンが登場してからであり、軍事技術と離れたあとである。ところで、ラジコンの中でも、ヘリコプターは操縦が最も難しいとされていたが、ドローンはかなり簡単らしい。あまり簡単だと趣味として成立しないのではないかと余計な心配をするが、それこそ余計なお世話というものだろう。
■操縦型から自律型へ
話をロボットに戻そう。ジャンボーグAなどの動作検知型操縦装置に対しては「武器を発射するレバーの動きが動作に現われないのは不自然である」という突っ込みが入った。そのためか「機動戦士ガンダム」では「基本動作は自動操縦」という説明がされている。
「そもそも二足歩行に意味はあるのか?」という突っ込みに対しては、番組終盤で「足なんてただの飾りです、偉い人には分からんのです」という開発エンジニアの愚痴が挿入された。このフレーズはかなり有名で、応用範囲も広い。たとえば「Aeroなんてただの飾りです」は頻繁に見かけた表現である。忘れている人が多いと思うが、AeroはWindows Vistaで導入された派手なGUIである(Windows Vistaはご存じだろうか?)。
▲半透明を多用するのもAeroの特徴(多くの機能はWindows 10にも引き継がれている)
もちろん、ガンダムの足は単なる飾りではなく、おもちゃメーカーの要請に違いない。ガンダムを制作した富野由悠季監督は、次回作として「伝説巨神イデオン」というアニメを手がける。ここにも操縦型のロボットが登場するが「誰が何のために作ったか分からない」ということになっていた(もちろん実際は「おもちゃメーカーが売り上げを伸ばすため」に作ったものである)。そして、イデオンは操縦型でありながら、ときどき自分の意志を、あまりよく分からないロジックで発動させ、登場人物を困惑させていた。
中途半端な自律システムは迷惑なだけである。鉄腕アトムくらいしっかりと自意識を持って人と対話して欲しいものである。アトムはときどき自分の存在に悩むが(今どきの言葉で表現すると「病む」)、仕事はきっちりしていた。
さて、アトムのような自律ロボットはいつ頃登場するのだろう。ちなみにロボット人権宣言に基づく「ロボット法」が成立したのは2003年らしい。