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パニックを体験するトレーニングをしてみたい

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イタリアで豪華客船が座礁した事件では多数の死傷者が出たとのことでお悔やみを申し上げます。動画や書き起こしで出回っている船長の対応に対しては多くの批判が集まっているようです。

事件自体は進行中ですし調査もこれからというところですので私から具体的にどうのということはないのですが、仮に船長が茫然自失とした「パニック状態」になってしまっていたとしたら、そこから戻れというのは飲酒運転の人にすぐにシラフに戻って運転しろというのと同じくらいの無理難題ではないかと思います。

もちろん、もし自分が乗客の立場だったとしたら船長ならびにスタッフの方にはそのようなパニック状態にならないように日頃からの訓練をしておいて欲しいですし、そもそもそのような差し迫った事態にならないようなクルーズをして欲しいです。

パニックにならないような取り組みを考えてみると、自分もなかなかできていないものだと思います。例えば私が過去に開発部署にいた際にOracleデータベースとAIXの運用の講習をそれぞれ受けたことがあります。共通する点としては座学で体系を習得した後に実際にシステムを破壊してみて治すという練習があったことでした。これはもちろんコマンドの叩き方等を覚えるのにも良いのですが、「ここまで壊してもデータは失われないもんだな」ということを実感することで、妙な焦りを覚えることがなくなるという効果があります。

また、もし何らかの原因でパニックが起きてしまったならば、それに対応するにはどうしたら良いかということも難しいものです。飛行機のパイロットや宇宙飛行士の訓練課程ではわざと違う練習予定を渡しておき、スタッフが仕込んだ事故を経験させることで「自分がパニックになったときの感覚」を体験させるという話をどこかで聞いたことがあります。また、低酸素の状態も経験させ、その上でビデオで見せて恐ろしさを理解させるのだとか。

また、周囲の人も人間のパニック状態というものを理解しておく必要があるかもしれません。茫然自失とした人には脅しや大声は通じるのでしょうか?映画等では叩いたり家族を思い出させたりといったことで目に力が戻るということがありますが、実際には難しいように思います。それよりはパニックを見分ける力を養えば、その人が落ち着くまで一旦現場から切り離すことで指揮命令系統を立てなおしたほうがいいかもしれません。

今回は船長ではない人が陸から指揮命令を取ることができたようですが、これが沖合などで起きた事故だったとしたらもっとひどいことになっていたでしょう。船長が逃亡するよりも意味不明な指示を出し始めたてしまったならば、更に酷い事態を招いていたとも予想されます。また、船長や首相のように明らかに指揮命令系統のトップに立つ人がパニックを起こしたときに、それを引きずり下ろすための手続きや担当者が定められていることがどれくらいあるだろうかという点も気になります。(映画の「クリムゾン・タイド」では潜水艦の艦長を副艦長が解任するシーンがあります。かっこいいシーンです。ちなみにロード・オブ・ザ・リングのアラゴルン役の俳優さんが重要キャラとして登場します)

少し前に山岳遭難の本に興味を持ち、トムラウシ岳の遭難事故や難波康子さんのエヴェレスト遭難事故の記録を読みました。私が読んだ本では、2つの事故ともガイド役が平常心を失ったことでその他のメンバーが巻き込まれる形で大量遭難に至ったようにまとめられていました。リーダー役のパニックというものはこれほど恐ろしいものか、と感じさせられました。(ただし本によって書いてあることが違ったりもします。)

人の頭は思っているほど信用できないものなのかもしれません。心理学者や精神科医に聞いてみないとわかりませんが、低温や低酸素、アルコール、薬、病気等は簡単に判断力を奪い、普段の性格や責任感の強さ、また、場合によっては訓練の程度の違いを上書きしてしまうほどの力があるように思います。

ニュースを通じて見れば身の回りで少なくない数の交通事故や台風、地震が起きているのですが、ショック状態やパニック状態になっている人を実際に見かけることは少ないですし、自分がなることは一層ありません。何かの手段でパニック状態について知り、学ぶことが出きれば、救急救命処置と同じくらい役に立つ場面があるのではないかと考えています。

(大学時代にバイクに載っていてぼーっと道路の上の看板を見ていたら信号待ちの車がほんの数メートル先に停車していたことがありました。完全にパニック状態だったと思いますがバイクのシートに足をかけて飛び出し、肉体はゴロゴロ転がって打ち身のみで出血すらなし、バイクは倒れて滑り車のバンパーの下に潜り込んで『未接触』で停止するというミラクルでした。)

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