「氏名」を黙秘し切った裁判を見た思い出
「本人」とは何なのでしょうか?
相次いで高齢者の方が行方不明になる、というか行方不明になっていた高齢者の方のデータが放置されていたところが発見されるといったほうが正しいようなニュースが流れています。
情報システムの世界でその人がその人自身であることを証明する場合、だいたい次のようなポイントが考えられます。
- その人物が実在すること
- その人物が生存していること
- その人物が他人でないこと
- その人物に偽物がいる可能性がないこと
免許証に例えてみますと、1は架空の人物の情報でそっくりの免許証を作ってしまうことです。これは見た目だけでは見破ることができず、住民基本台帳等のマスタに照会しなくては見破れません。
2は死んだ人物の免許証がそのまま使われてしまうことです。これもマスタに照会しなくては見破れません。
3はソックリさんの免許証を借りてくるようなパターンです。よく見れば見破れるかもしれません。
4はややこしいのですが、ある人が免許証を落としてしまい失効の届出を出したような場合です。SUICAなどの電子マネー型定期では登録をすることでこのような失効処理ができます。そのため落とした際に落とした方を無効にし、新しい定期券に切り替えることができます。免許証ではちょっと実現が難しそうですね。
私は以前、ある珍しい裁判を傍聴しました。被告人の氏名は「上野警察署留置番号第7号」です。なんと氏名を黙秘することもあるんですね。傍聴歴の浅い私はそんな事件もあるもんか、くらいに思っていたのですが、後日そこそこ珍しいケースであることを知りました。
裁判では間違った人を裁いてしまわないよう被告人に「あなたは●●さんですね」という人定質問をする決まりなのだそうですが、その日は「こういう事情ですので写真でお願いします」ということで検事の方が裁判官に写真を提出していらっしゃいました。
裁判官の方も「念のため確認しますが名前は?」と聞き、7号の方が「氏名不詳でお願いします」と答えると「そうですか……」と追求することなく引き下がりました。そのまま通常の裁判が進行し、次回に判決を言いますといって閉廷となりました。後日ニュースで知るところでは刑務所に入ることになったそうです。刑務所ではどのような扱いになるんでしょうか。
何らかの形で他人でも「これはこの人だ」とわかるような記録があれば、周りの人がそのように扱ってしまうこともできるのでしょう。しかし「行方不明人」の逆の「行旅死亡人」すなわち誰かわからないけれども行き倒れとして発見されてしまった方が日本全体で5年で143人などと報道されているほどですので、他人が他人の身元を判明させるのは簡単ではないのかもしれません。
「粗忽長屋」のように「おい、おまえさんが死んでるよ」なんて呼び出されたくないものです。