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ホワイトハウスでメールが500万通紛失(訂正)

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以前より問題となっていたホワイトハウスの電子メール紛失問題、こちらはどうやらLotus Notesからのデータ移行に失敗したことが原因であるようです。

# 2008/5/2 ↑Notesからのデータ移行でなく、Notesから新メールシステムに移行後、新メールシステムに問題があったようです。間違いました。

今日スラドにこのニュースの続報が掲載されていました。

スラッシュドット・ジャパン | ホワイトハウスが500万通の電子メールを紛失、原因はメールシステムの移行
http://slashdot.jp/it/article.pl?sid=08/05/01/0619239

以前(2008年1月)のニュースによると、バックアップはテープ上にあるとのことでしたがそうではなかったようです。(これはNotesのメールバックアップでなく、新メールのバックアップの模様)

これだけでは確かな事は言えませんが、どうもNotesのメールアーカイブの仕様に関連しているような気がします。

# 2008/5/2 ↑Notesとは関係ありませんでした。以下、Notesのメール移行に関する一般論になります。

Lotus Notesでは基本的に1人に1つのメールデータベースが与えられます。データベースという名前ですが、実体はnsfというファイル形式の1つのファイルです。ここに送受信メールやカレンダー、タスクリストなどのデータが蓄積されます。

このメールデータベースをサーバ(Dominoサーバ)上に置き、メールの送受信サービスを受けます。同じドメイン内のDominoサーバ内で行われる送受信はDomino同士のデータのやり取りで済みますし、異なるメールサーバとメールをやり取りする場合はDominoサーバがSMTPサーバとなってデータをやり取りしてくれます。

このサーバ上のメールデータベースはおおむね10メガバイトから100メガバイトくらいで運用されます。この容量を上回りそうになった場合に「アーカイブ」と呼ばれる作業を行います。アーカイブはメールデータベースの「レプリカ」を作成し、そこにメールのバックアップを取得するという流れとなります。

Notesの世界ではデータベースにIDが割り振られており、同じIDを持つデータベースを作成することをレプリカを作成すると言います。一般的にはこの機能を利用してNotesのメールデータベースの容量がいっぱいになると各個人の端末内にレプリカを作成し、そこにメールを移動させてサーバ上に空き領域を確保します。

アーカイブを実行するとサーバ上のメールデータベースから特に意識することなく端末内に取得したローカルのメールデータベースを閲覧することができます。あたかもサーバ上にメールを蓄積し続けているかのような操作感です。サーバ上に数十メガ、ローカルには数百メガのメールが溜まっているようなケースでは便利です。

そうすると端末内に大量のNotesメールが溜まっていきます。しかしこれについては特別な解決策があるわけではありません。「Lotus Notesを使い続ける」という前提なのかもしれません。(ホワイトハウスのように保存義務があるならともかく、ただのサラリーマンが数百メガもメールを残すんじゃねーよ!全部とっとかないで整理しろ!というシステム管理者の怨念が聞こえるようでもありますが。)

これを移行しようとなると、いくつかの選択肢があります。ありますが、残念ながら完璧な方法を知りません。実在するかどうかもわかりません。これが非常にNotesのNotesらしいところであると思います。

SMTPを利用して新環境に転送する

DominoサーバのSMTPタスクを利用して、新しいメールサーバの自分のアカウントに対して全メールを転送します。元々、Notes同士でやり取りしているメールを別メールサーバに転送する際に見た目の違いなどを吸収する必要があったため、この方式を採用すればデータ変換時のロスを低減することができます。この場合、サーバ上のメールは簡単に移行することができますが、端末内に取得したデータは一旦サーバ上に逆流させなくてはなりません。ストレージ、ネットワーク、処理能力の3点に問題が無ければこの方式がすっきりします。

端末内のデータを直接変換する

端末内のメールデータベースにデータを取得するプログラムを配信し、メールのToやFromなどのヘッダ情報、本文情報、添付ファイルなどを抜き取ります。移行先のメールサーバが読み込める仕様通りに抜き取れば良いのですが、表などの情報は簡単に抜き取る事ができず、手軽に済ませるならば一部のデータロスが不可避となります。なお、Microsoftなどいくつかの企業では「nsfからデータを取り出すツールがありますよ!」と事を売り文句にしているわけですが、今回のようなケースがあると少し怖い気もします。

手動でコピペする

メールの本文を開いて、すべて選択、コピー、Word等へ貼り付けを行うことによりデータ移行するとかなり良い感じに移行できます。が、人件費や作業ミスの問題から現実的ではありません。2番目のデータ変換方式と組み合わせることで、データロスが問題となるメールのみ手動で救済する、という案が落とし所ではないかと思います。

などなどこれ以外にも様々な方法がありますが、いずれにしてもNotes独自のメール仕様が大きな問題となることが多いです。例えば前述した同じドメイン内でのNotes同士のメールのやり取りでは電子メールアドレスを使用しません。この場合、移行後には「山口陽平/ドメイン名」くらいの情報しか渡りませんので、そのままでは返信できないデータとなってしまいます。また、1つのメールに同じ名前の添付ファイルをいくらでもつけられるとか、メールにLotusScriptというWindowsScriptのようなプログラムを書き込んで送信し、受信者に実行してもらうとか、そういった事まで考えると100点満点の移行というのは不可能であるように感じます。

おそらくはNotesはこれからも相当長いこと現役であり続けるでしょうし、律儀に互換性を保ってくれるでしょう。(それなら他の規格との互換性も……)ライセンス料が高いことを除けばNotesは非常に多機能で使いやすいメーラの一つであると思います。Notesに限らず、データ移行を行えば必ず得るものと失うものがあると思いますので、それらの収支をよく考えて検討することが重要だと思います。

それにしてもアメリカの情報の保存に関する取り組みの本気度は我が国も見習うべきであると思います。日本にもアーキビストと言われる人を増やしてアメリカ国立公文書記録管理局のような組織を作り、何より誰もが公文書を気軽に利用できる(できればネットで)ような仕組みがあるといいんですけどね。文書管理が得意なシステムと言えば……そうだ、Notesで作ろう!

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