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先輩のドゥハウを受け継ぐ

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先日、自分のブログで良い先輩とはどんな人だろう
ということを考えました。

そのエントリに対して弊社の先輩である吉川さんよりこんなコメントをいただきました。(抜粋)

先輩を早く「たいしたことないな」と思えるようになるのは大切なこと。
先達が10年かかったことを後輩が5年でやってこそ、世の中や組織が前進して良くなるのだと思う。

確かにこれがなくては進歩が止まってしまいます。
私は働き始めて5年ですので、30年前の職場の生産性と
今の職場の生産性がどれほど違うのかはわかりません。
例えば、事務系の職場であればコンピュータとプリンタの登場により、
昔と比べてかなり大きな事務処理能力が発揮されていると思います。
工場などの生産設備でも、機械の進歩や自動化などにより
歩留まりは向上していることでしょう。

そのような状況の中で、個々人の純粋な職務遂行力というのは、昔と比べて増えているのでしょうか。
便利な道具が揃ったおかげで個人からのアウトプットが増えただけで、
昔の人が同じ道具を使っていたとしたらもっとすごい仕事ができたかもしれません。

私は、ノウハウ(=KnowHow)やドゥハウ(=DoHow)が受け継がれた事によって
今の人たちは昔の人たちよりもたくさんの仕事ができるようになっているのではないかと考えます。

コンピュータとプリンタの登場は、莫大な量の紙資料を生み出しました。
それに伴い、「超整理法」のような整理技術が登場しました。
昔の職場では記録はすべて紙で保管されますので、今よりも紙だらけであるように感じます。
確かに公的な書類の控えなどは巨大な書庫に箱詰めで保管されるなどされたようです。
しかし現在の紙の消費量は昔よりも更に増加しています。
これは記録が電子化したことで保存媒体としての紙使用が減った一方で、
ちょっと印刷して個人に配布するような使用が増えたからです。
昔と比べてオフィス机が大きくなったとか小さくなったとかいう話は聞きませんので、
1人が保有できる紙資料の総量は昔と変わらないはずです。
そのため、現在では個人的に受領した紙資料をうまく整理する技術は重要なものとなっています。

そういった環境にいきなり放り込まれる新人さんは、
どうすれば良いか=KnowHowとして

『書類はグルーピングして時系列順に並べよう』

というレベルの知識よりも、即時的な実行手段=DoHowとして

『この引き出しにたくさんクリアファイルがあるから打ち合わせが終わったら
ファイルに資料を詰めて日付を書いてこの引き出しのこっちから順番に並べろよ』

というところまでを知りたがっています。
どうやって取り組んだらうまくいくか=KnowHowを聞いて自分なりの実行手段を
Try&Errorで探しているほど余裕がありませんので、
まず何をすべきか=DoHowを聞いて現場に立たなくてはなりません。
このように伝達が繰り返される中で優秀なDoHowが生き残って洗練されていくように思います。

これは資料の整理法に限った話ではありません。Eメールに目を向けてみれば
入社数年目の社員が役員を相手にメールを書く場面があったり、
昔なら専門の人に英文タイプを頼んでいた文面を、
自分で英訳してEメールしなくてはならない場面もあります。
オフショア拠点にいるインド人や中国人の開発技術者に開発を指示するような場面もあります。

こういった昔よりも厳しい環境に若手として飛び込んでいくためには、
先輩からの知識の吸収というのが何よりも大切であるように思います。

今ちょうど体操の世界選手権が開かれています。
何十年か前までは最高難易度がウルトラCと呼ばれていましたが、
現在ではスーパーEという技が最高難易度とされています。
また、一部の限られた選手だけが実現可能だった技も
トレーニングとコツさえ掴めば中学生や高校生でも成功できるものがあるそうです。

フィギアスケートでも、伊藤みどり選手が女子で世界初のトリプルアクセルを成功させて以来、
トリプルアクセルができる選手は多くはないものの、それだけで優勝が左右されるほど
重要なジャンプではなくなりました。飛び方や、飛ぶためのトレーニングが受け継がれて
飛べる選手が増えたからであると思います。このような背景により、
体操やアイススケートの世界では、未だに最高得点が塗り替えられ続けています。

一方、世界陸上での100メートル走は世界新記録に至らない記録での金メダルでした。
おそらく、100メートルを走るためのトレーニングやフォーム研究は
既に行き着くところまで至ってしまっているのだと思います。
少なくとも9.5秒を切るという事はありえないことのように思います。
跳躍系の競技では記録が出る余地があるようですが、
走る系の競技ではなかなか記録が出しづらい境地に到達してしまったのかもしれません。

仕事場で100メートル走にあたるものはあまり思い浮かびません。
日本語を読むスピードや、キーボードを打つスピードくらいでしょうか。
一方、ほとんどの仕事は体操やフィギアスケートのように
まだまだ改善する余地があるように思います。

例えば、先輩社員が数年の歳月をかけてやっと編み出した仕事の進め方は
A4数枚のレポートにまとめて後輩に渡せば明日からいきなりマネができるものかもしれません。
フレッシュな頭で受け止めて構築し直したらもっとよい手順が見つかるかもしれません。
そうすると「ハァ?おっさん何ちんたら仕事してんだこの給料泥棒。もういいっすよ。私がやっときますから」
という聞きたくないセリフを聞かされることがあるかもしれません。
言われるほうはつらいですが、組織として生き残るためには必要な痛みであると思います。

このように考えると、先輩の役割は長年にわたるノウハウの蓄積により
ドゥハウを生み出していく事であると思います。
一方で後輩社員の役割はドゥハウを吸収して戦力を発揮する事と、
新たにノウハウを蓄積していくことで将来に役立てる事でしょう。

私が入社してこれまでの間に、まったく新しく仕事の進め方を考案して広めたことはありませんでしたが、
これまでやられていた方法を改善したということはありました。
きっとこれから、私の後輩がそれを更に改善してもっと良い方法を生み出す瞬間を見ることがあるでしょう。
その時に「だめだめ。だめだよそんなんじゃ。前例がないんだから。誰が責任取ると思ってんの。」
という終わったセリフを吐かない様に今から心がけておきたいと思いました。

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