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年功性を廃止、中高年のノンワーキング・リッチを排除して、稼いでいる人間が報酬を得られる社会というのは真面目に考えるとかかなりキツイ社会

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日本の大手企業で終身雇用や年功序列型の賃金体系を見直ししているというニュースはここ最近見かけるけれど、相変わらず働く側は「正社員で安定した雇用環境」の話しばかりしている気がします。

日本の終身雇用や年功序列型の賃金体系は言わば「メンバーシップ型」であり、そこに忠誠を誓い勤めることに対して生活給としてそれを保証する意味合いが強い方式。メンバーシップ型において定年制はどんどん高額になる給与をどこかで止める必要があり、そのためには必ず必要な制度になりますが、「年齢を理由に業務遂行能力はあって解雇されるという」特殊性を伴う制度です。

日本で言う安定した雇用というのは、そういう意味で雇われてしまえば、雇用が続くメンバーシップ型の意味合いが強いように感じるのですが、

アメリカは言うまでもなくヨーロッパでも解雇規制はありつつも、企業が労働者を必要としなくなれば解雇するのが原則。

そして、欧米社会では、職務ごとに賃金を決めるので、同じ職務に従事している限りその賃金額が自動的に上昇するということはあり得ない。

実際には熟練に応じた上昇や経験年数にある程度比例しする側面もあるとのことのようだが、賃金決定の原則が職務にあるという点は変らない。これが同一労働同一賃金の本質だという事です。

つまり、派遣法の改定やら、社員と同じ仕事してるから報酬同じにみたいな訴えのときに良く見聞きする"同一労働同一賃金"はジョブ型(仕事が無くなれば職を失う可能性がある雇用環境)が基本前提であるということをちゃんと理解する必要があるのではないでしょうか。

そして日本独特の定期昇給についても、同じ仕事をしているのに給与が自動的に上がるというのは、ジョブ型の社会から見れば理屈に合わない制度です。

働かざる者食うべからず、ノーワーキング・ノーペイの理屈から言えば理屈に合わない制度であるのですが、正社員として安定雇用を求める先には、どうしても旧来の日本型正社員としての待遇を求めているような気がしてなりません。

あと、社員と同じ仕事しているから給料同じにしろと訴訟をおこす人もいるようですが、同一労働同一賃金になったときの問題点は他にもあり、熟練した経験者に対しスキルを持たない若者が雇用にあぶれる危険性が高まるということ。

ジョブ型で支払われる給与では生活が成り立たないという指摘があろうかと思いますが、調べてみると1946年に電産型賃金体系なるものが考案されており、これは詳細な生活実態調査に基づいて、本人の年齢と扶養家族数に応じて生活保障給を定め、これに能力給や勤続給を加味した典型的な年功序列制度だったようです。

この制度はそもそも、職員も工員も皇国の産業戦士として平等だという戦時中の思想が、社会主義的な装いで再確認されたという点と、当時の占領軍や国際労働運動の勧告が、年功賃金制を痛烈に批判していたという濱口桂一郎氏の指摘は注目に値するものです。

世界的な傾向として生活給として企業が全部面倒を見るのではなく、ジョブに紐付いた給与とそれ以外は社会保障で組み立てていく制度が基本的な枠組みのようですがここについては今回は触れずにおきます。

様々なものに流行廃りがあるように仕事の流行廃りもあります。安定した雇用を求める姿は一定の説得力を持ちますが、前述のように若者(相対的にジョブに対してのスキルが低い人)を含めたより多くの人にチャンスが巡る社会は、残念ながらメンバーシップ型ではなく、ジョブ型であるということを理解する必要がある気がします。

大して働かない中高年が高い給料を貰うのは許せないという指摘も多くの支持を得る指摘でありますが、本来のジョブ型に定年は無くなるというのが年齢による差別をしないという本来の形であるという事も肝に銘じる必要があります。

55歳定年などは当時の工場労働で体力的に無理であろうというところが前提であり、頭脳労働が前提の社会では死ぬそのときまで仕事をすることが可能であり、当然ながら経験豊富な年寄りが多額の報酬を得る可能性を持つ社会ということです。

「一生派遣で働くのは無理…」とか、「どんなに長年働いても昇給しない」という指摘と共に安定雇用として"正社員"という言葉が出て来ますが。

一生ギターを弾いて生活する、一生デザインの生活の他、技術職では一つのことで食べていくのは普通ですし、特にクリエイティブ系の職業はそもそも生活給という考え方でギャラは設定されていませんし、同じ仕事していて生産価値が同じなのにギャラが増えるのは本来の理屈に合わないことも受入れる必要があるでしょう。

基本的にその職業を続けていくなかで待遇に不満があれば、高いギャラが貰える仕事をやるスキルを身につけ、仕事を得られるように自分の環境を変える必要があります。

組織の中枢を担う部分はメンバーシップ型を維持する企業もあるかもしれませんが、世界的に見て定期昇給は不思議な制度であり、ワールドワイドに展開する企業で多国籍で優秀な人材を採用しようとする企業はどんどんジョブ型に移行すると思っていて良いのではないでしょうか。

年功性を廃止、中高年のノンワーキング・リッチを排除して、稼いでいる人間が報酬を得られる社会というのは真面目に考えるとかかなりキツイ社会です。死ぬまで走り続けることが要求されるし経験・素養がなければ食べていけませんから。

こうやって考えるとやはり旧来的な日本型雇用が良いという人が多く出てくるような気がしてますが、自分は以前ビジネスをバンドやオーケストラに例えていた時期があったのですけどもう辞めようと思います。あとプロ野球のチームに例えるのも辞めたほうが良い気がしますね。

現在の日本がジョブ型で機能しているならこの例えも実用性があるでしょうけど、結局メンバーシップ型で役に立たずとも配置転換で雇用は守られる前提のメンバーシップ型正社員と、ポジションを失うことが失業に直結するジョブ型環境とではまったく噛み合わない話しの気がしますので。

今日ご紹介した内容をより深く知りたい方には以下の書籍をお勧めします。

濱口 桂一郎  (著)

  • 若者と労働 「入社」の仕組みから解きほぐす (中公新書ラクレ)
  • 日本の雇用と中高年 (ちくま新書)
  • 日本の雇用と労働法 (日経文庫)
  • 新しい労働社会―雇用システムの再構築へ (岩波新書)
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