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ダイナミック・カレンシー・コンバージョン(DCC)決済ってご存知ですか?

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明けましておめでとうございます。
ずいぶんサボっていましてすみません。遅筆なうえにいろいろ兼務しているので筆の歩みは今年も遅そうなのですが、最低1カ月に1回は何かお役に立つ情報をポストしていきたい…というのが2011年の抱負です。

さて、年の初めに向こう数年で日本で普及しそうなクロスボーダー取引用語をひとつご紹介します。

DCC(Dynamic Currency Conversion)決済ってご存知ですか?

一言で言うと、異なる通貨圏をまたいでクレジットカード取引をした際に、購入者の通貨における決済額が、決済時に確定するサービスです。

そろそろ仕事初めですが、年末年始の休暇は海外へ行ってきた、という方も多いのではないでしょうか。
その中で、現地でお土産などを買おうとしたら、現地通貨ではなく日本円建てでカードを切った、という方がいらっしゃるのではないかと思います。これがDCCです。

少し詳しく説明します。

通常、海外に旅行をしたとき、現地でお買い物をすると現地通貨建てでカード処理がなされます。
具体的には、例えば日本在住者がアメリカに旅行をしてお土産を買った場合、USドルで運営される店舗の、USドルで値付けをされた商品をクレジットカードで買うと、その場では一体日本円で幾ら払うことになるのか、正確な金額がわかりません。後日クレジットカードの明細書が届き、その明細を見て初めてどのくらいのレートで交換され、日本円でいくら支払うことになるのかを知ることになります。

しかし、もしもそのアメリカのお店がDCCを導入していた場合、日本在住の購入者はその店舗でお買い物をする際、カードを切る前に、一体自分は日本円でいくらの請求をカード会社から受けることになるのか、日本円で確定した金額を見ることができます。
買い物客は金額とレートを確認し、これに同意するサインをしたうえでカードの決済処理が行われます。

これにより
「予想したレートと違って思いもかけない高い請求になった」
「幾ら払わなくてはいけないか不安で買い物がしづらい」
という、外国からのお客様の不安要素を減らすことができます。

ところで、このDCC決済、上記のような利便性とともに、従来のカード決済にかかわる利益構造の一部を変える作用も持っています。

たとえば以下は両替サービスで有名なトラべレックス(Travelex)の英国サイトですが、ここで公開されているDCC関連サービスについてのドキュメントの一部を和訳します。意訳になるのはご容赦ください。

Travelex UK『ダイナミック・カレンシー・コンバージョンで、外貨カードでの利益を手に入れよう』(英文)
http://www.travelex.co.uk/uk/outsourcing/currencyselect.aspx

「トラべレックス・カレンシー・セレクト(訳注:DCCの商品名)」は、VISAおよびマスターカードのカードホルダーに、ATM、オンライン、および店頭POSで提供される外貨交換サービスです。これにより、銀行やATMオペレーターや小売店は、お客様に商品やサービスを現地通貨で買うか、それともお客様の自国通貨で買うかの選択肢を提供することができます。

次第に普及しつつあるこの旅行者向けの決済方法は、その日の決済レートで外国発行カードを迅速に処理、お客様が(お客様の通貨での)確定した支払い金額がわかる唯一の方法でもあります。

トラべレックスは、小売店が確実に外国発行カードを扱うことができ、かつ外国のカードホルダーの利便性も向上するよう、このソリューションを設計しました。小売店は、お客様にさらなる選択肢を提供できるだけではなく、従来は外国のカード発行機関が得ていた外貨交換利益をシェアできるようになります。


(以下略)


この決済方法は上述の通り、従来カード発行元機関(銀行)が通貨交換で得ていた利益を奪ってしまう二次作用があるのです。このため、カード発行元機関とDCCサービス企業との間で訴訟等の問題に発展していたようですが、昨年10月、最大手のVISAよりDCC取引に対する規制を撤回する旨の発表がありました。

RTT News 『VISAがDCC禁止措置を撤回』(英文)
http://www.rttnews.com/content/UKNews.aspx?Id=1440407&SimRec=1&Node=B1

既に海外では様々なDCCプロバイダーが上記のTravelexのようなサービスを提供しており、取り扱いは増加傾向にあるようです。

参考:Wikipedia 『Dynamic currency conversion』
http://en.wikipedia.org/wiki/Dynamic_currency_conversion

ここ数年で急激に外国人旅行客の誘致が活性化し、クロスボーダー取引も盛んになっている日本ですが、こういった取引方法が日本でも手軽に提供できるようになり、より外国のお客様を歓迎する機運が高まることを願っています。

※DCC決済は同一通貨間で取引した場合、通貨交換利益はどのプロセスにおいても発生しないため、従来のカード決済と全く変わりません。

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