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海外向けECで「買いたい!」の種を蒔く5つのアイデア(後編)

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前回の記事では、海外向けECにおいてSEMがあまり有効ではない原因をAISASモデルをつかって分析し、自社商品・ブランドの「Attention(注意)」「Interest(関心)」を増やすことが、海外向けECの購買促進に有効ではないかという仮説をたてました。そして、その働きをおこなう「引き金」として下記の5つのパターンを挙げました。

   1. 「知人から紹介された」
   2. 「誰かが使っているのを見た」
   3. 「広告を見た」
   4. 「記事で見た」
   5. 「店頭・展示会などで見かけた」

今回は、この5つの引き金となる例やアイディアを具体的に挙げてみます。

1.「知人から紹介される」には、まずその知人が商品を他人に紹介するほど深く知っていないといけません。そのためには例えばモニターを募ったりする方法が有効かもしれません。
具体的には、商品ブランドイメージから大きく外れないソーシャルアカウントを持っている(使った結果が確認できるのと、後の検索プロセスで優位になる)、自分の商品とマッチした生活スタイルをしている、比較的発信力のある立場にあることを事前アンケート等で確認して、そこに合致する人に商品を無償で提供するキャンペーン…等を企画するのも一つの方法かもしれません。

2.「誰かが使っているのを見た」には、露出の多い有名人、タレントなどに使ってもらう方法があります。しかし有名人であればあるほど使ってもらう対価も高くなります。また、その商品に共感してくれる現地の著名人を探す必要もあります。なお、商品が社会問題を解決するような要素を持っていたり、著名人の趣味嗜好に沿うものであれば好意的(積極的)に協力してもらえるケースもあるようです。
また、1のようなモニタープログラムに2の要素を加えるのも一つの方法です。多くのソーシャルメディアでは簡単に写真が投稿できますので、実際に着用したり使用したりした様子をWeb上に投稿してもらうことで露出機会を増やすことができます。その際にはネガティブな反応や課題点のフィードバックも伴うことを理解し、改善に努めなくてはいけません。

3.「広告を見た」には2通りが考えられます。

1つ目はこの場合ネット広告よりもリアルな広告(TVCM、雑誌、新聞、屋外広告など)をイメージしています。または、ネット広告でもPPCではなく枠を買い取るようなモデルの媒体です。広告主のコントロールがきいて広い層にアプローチできるため、認知を獲得するには有効な方法なのですが、以前も書いた通り、海外から広告を出したい場合には現地のメディアがそもそも取引をしてくれない場合が結構あります(取引条件がその国の法制度に則った法人であるケースが多い)。
ですので、現地への広告掲載のためには自社が現地子会社を持つか、現地子会社を持つ広告会社等を経由する必要があり、必然的にかなりの金額になります。

2つ目はもっと小規模な広告。たとえば現地の通販会社の梱包にチラシ・試供品を同梱させてもらう、ターゲットとする地域で商材やコンセプトが近い店頭を利用したチラシ配布、サンプリング、体験イベントを行う、などの手法です。広告会社を介さなくても、現地の通販会社や店舗と交渉して実現するケースがあります。幅広い認知やブランド力の底上げは期待できませんが、狙った層に届けやすいためコンバージョンしやすいようです。また、ここで実際に体験した人が1.に流れるケースも期待できます。

4.「記事で見た」は現地で信頼されている媒体とよい関係を築き、記事として掲載してもらうことができれば、3-1のような広い認知を獲得し、同時に製品への信用やブランド力を上げる効果があります。また、他のメディアがまだ取り扱っていない斬新な情報の方がニュース価値があるので、まだ現地で物珍しい海外(この場合日本)の商品は取り上げてもらえる可能性があるようです。
もちろん、読者が関心のあるテーマであれば、現地法人がないことが掲載の障壁にはなりません。
とはいえただ待っていても取材には来てもらえないので、現地の媒体にアプローチを取って取材してもらう機会を設ける、サンプルを無償供与し体験してもらうなどの働きかけが必要となります。
なお、3と比較すると費用もあまりかからず魅力的ですが、掲載時期や内容について企業側のコントロールがきかないのは(程度の差はあれども)日本と同じです。

5.「店頭・展示会などで見かけた」は、3-2と重複するところもありますが、現地に商品の実物を露出させる機会を作ることを指します。たとえばJETROはかなり頻繁に世界各国の展示会で日本企業の商品を展示する機会を設けています。(JETRO「イベント情報」http://www.jetro.go.jp/events/tradefair/)こういった機会を活用すると、出展にかかる企業側の負担は担当者の旅費くらいだったりします。品質に自身のあるメーカーであれば積極的に活用するのも一つの方法です。
他にも、現地の店舗と交渉して1-2週間だけ催事販売をする等の方法もあります。
ECにこだわらないのであれば、現地向けECと同時に現地への卸を進めて、その協力先を現地露出の機会とし、メーカー在庫がわかるカタログのような意味合いでECサイトを活用してもらうのも一つの方法です。

上記に挙げたものは(言い方は悪いですが)小手先のテクニックとして結果を求めるのではうまくいきません。中長期的な現地向けの戦略を下敷きに、現地の協力先や消費者との関係を築いていくための具体的な手段として捉えるべきです。

実際に海外向けに売れている店舗を見ると、こういった手段を複数組み合わせて、(もちろん王道である競争力の強化も行いつつ)現地へアプローチしているケースが多いように感じています。SEMに関しては自社ブランドの名前やコンセプトを直接たたいた際に検索結果として出てくる程度の検索エンジンマーケティングは行っていても、検索エンジン頼みでブランド認知や販売戦略を作ろうとは考えていないように見受けられます。

ECは海外市場へ挑戦するハードルは下げてくれるけれども、現地市場での成功を約束するものではありません。自分の会社(やショップ)が、現地へどのような幸せや利便性が提供できるのか、あるいは提供できる位置に立ちたいのかを考え、様々な人や企業の協力を得ながら成長していく、という過程は日本でも現地でも変わらないように思います。

このような視点に立つことで、日本から現地へ向けて、現地で「Attention(注意)」「Interest(関心)」を引き起こすための手法は、案外たくさん見つかるのではないでしょうか。

(※この記事は過去にはてなへ投稿した記事を加筆修正したものです)

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