「メディア融合時代」の到来でどうなるのか:新書『本当は怖いソーシャルメディア』感想
著者から献本いただいた新書『本当は怖いソーシャルメディア』を読みました。著者は光文社のペーパーバックスシリーズの元編集長で、現在は独立してジャーナリスト、出版プロデューサーとして活動されている山田順さんです。ソーシャルメディアに関する本は、ソーシャルメディアで儲けようとしている人たちがソーシャルメディアを礼賛し、ビジネスで利用するためのノウハウなどについて書いているものが多いですが、この本はソーシャルメディアだけでなく、マスメディアを含むメディア全体の世界がどうなっていくかをジャーナリストの視点でとらえていて面白かったです。
私が興味を持ったポイントの一つは、この本の副題に『2015年「メディア融合時代」を考える』とあるように、新聞、テレビ、雑誌、書籍、映画、音楽などあらゆるコンテンツがデジタル化し、ネットにつながることで、PC、ケータイ、タブレットPCなどデジタル端末が一つあればすべてのコンテンツが楽しめるようになり、メディアが融合していく時代になるということです。その結果コンテンツ同士の競争が激しくなり、ネットでは無料か安く課金することしかできないため、既存のメディアのビジネスモデルは崩壊し、コンテンツのデフレ化が進み、クオリティが低下し、ゴミのような情報やコンテンツがあふれ、一般大衆の知的水準の低下が進むのではないかと著者の山田さんは危惧しています。
もう一つは、ソーシャルメディアがもてはやされ、既存メディアが衰退することによるジャーナリズムの危機です。すでにアメリカでは新聞の衰退が著しく次々となくなっていますが、新聞がなくなった地域では、権力の監視者がいなくなったため腐敗が進み、公務員の不祥事が増え、投票率が低下する例が増えているそうです。山田さんはソーシャルメディアとマスメディアを対立するものとして考えるのではなく、既存のメディアの記者にソーシャルメディアのユーザーが協力して新しいメディア空間をつくり、市民に有益となるジャーナリズムを打ち立てることが必要だと述べています。
山田さんは、週刊誌の駆け出し記者時代に、上司から「どんなことを書くのでも必ず本人にぶつけろ」と言われて、かならず当事者に「直撃」取材するようにしていたそうです。直撃取材すれば、なんらかのコメントがとれたり、コメントがとれなくても表情や顔色からいろいろなことが読み取れます。ソーシャルメディアの時代になって、政治家や芸能人ら本人が公式ブログやツイッターで情報発信するようになり、ユーザーと直接つながるようになりましたが、このように当事者に記者が直接取材する価値が軽んじられるようになったのではないか、発信者と受信者の間に誰もいないことがソーシャルメディアの欠点だと山田さんは指摘しています。本人発信の内容はあくまで本人の都合にいいものになっているということですね。既存のメディアではこの間を記者が埋め、情報のクオリティをあげているわけで、既存メディアの衰退で、きちんとした記事を書けるプロフェッショナルがいなくなってしまうことを山田さんは危惧しています。
ほかにも、ソーシャルメディアの進展によりプライバシーがなくなり、監視社会化が進むことの危惧などが述べられていますが、メディアの将来を見通し、考えるための材料として、ぜひ読んでおくといい本だと思います。