量子コンピューターとは一体何かを15分で解説!!
こんにちは。
最近、メディアで「量子コンピューター」というキーワードを見ることが多くなってきました。
なんとなく、現在のフォン・ノイマン型のコンピューターではなく、次世代の新しいコンピューターというイメージはお持ちだと思いますが、IT業界の人がこの「量子コンピューター」って何なのかを説明することは、結構難しいのではと思います。
そこで今回は、「量子コンピューター」について、なるべくわかりやすく解説したいと思います。
1. 最近の量子コンピューター関連ニュースの紹介
まず、最近のメディアの記事から見てみましょう。
量子コンピューター株急騰 米出資で国策銘柄一角に(日本経済新聞 2026.5.27)
米国政府が量子コンピューター関連企業に出資すると発表してから、米国株式市場では以下のような量子コンピューター関連企業の株価が急騰しました。
D-Wave Quantum
Rigetti Computing
IBM、量子計算機を公開 商用化へ開発6~7合目 (日本経済新聞 2026.6.8)
IBMは米東部ニューヨーク州にあるワトソン研究所で、高さ約2メートルの最新量子コンピューター3基からなるシステムを公開しました。
新型量子計算機を稼働 分子研と日立、研究者に開放 富士通、OS開発に活用 32年に4兆円の市場 複数の計算方式競う(日本経済新聞 2026.8.25)
日本の分子科学研究所と日立製作所、そして米スタートアップのInfleqtionなどが共同で「中性原子方式」の量子コンピューターを開発して稼働させました。
また富士通は、量子コンピューターの方式に関係なく稼働する基本ソフト(OS)の開発を念頭に、この量子コンピューターを利用する予定だそうです。
こうした華々しいニュースに対して、こんなニュースも。
量子コンピューター NEC、実機開発中止 関連技術・サービスは継続(日本経済新聞 2026.9.6)
1990年代から量子コンピューターの研究を進めてきたNECが、2026年3月末でコンピューター実機の開発を中止したことがわかりました。理由は、実用化に時間がかかることと、それに見合う収益を得るのが困難と判断したからだそうです。
2. 量子コンピューターの特徴である量子ビットとは
量子コンピューターは、量子力学の理論に基づいた技術を計算に応用したものです。現在のコンピューターの基本的な情報単位を「古典ビット」と呼びます。「古典ビット」は、情報を「0」と「1」のどちらかで表します。
コンピューターの内部では、電気信号の状態などを利用して「1」と「0」を表現しています。
これに対して、量子コンピューターの基本要素である「量子ビット(qubit)」は、量子力学の性質によって、「0」と「1」が同時に存在するような状態を作ることができます。これを「重ね合わせ」の状態と呼びます。そして、量子ビットを観測すると、その状態は「0」または「1」のどちらかとして現れます。
「古典ビット」と「量子ビット」を比較してみましょう。
例えば、6ビットの情報を考えた場合、「古典ビット」では、「000000」から「111111」まで、全部で64通りの組み合わせを表すことができます。一方、「量子ビット」では、1回の計算で64パターンを同時に表すことができて、最も可能性が高い結果をすぐに表すことができると言われています。
これは、6ビット程度であれば、あまり計算速度の差はでてきませんが、50ビット、100ビットの組み合わせを試すような場合に、「量子ビット」による計算が早くなると言われてます。
3. 量子コンピューターの開発の盛り上がり
量子コンピューターは、1980年代にその概念が形成され、1990年代には暗号解読に関係する「素因数分解アルゴリズム」が見つかったことで、多くの研究者が参入してきました。
ただ、本当に今のように盛り上がってきたのは2010年代に入ってからと言われています。その大きなきっかけの一つが、カナダのスタートアップ企業D-Wave社が商用化した「量子アニーリングマシン」でした。そしてGoogleがD-Waveの「量子アニーリングマシン」を利用したことで、大きな話題となりました。
「量子アニーリングマシン」とは、前述の量子重ね合わせに加えて量子トンネル効果などを利用して開発された、特定の目的に特化したコンピューターです。
その特定の目的とは「組み合わせ最適化」と言って、数多くの選択肢や組み合わせの中から、条件に合っていて最適なものを見つける問題を解くことに適しています。
この「組み合わせ最適化」の例としてよくあるのが「巡回セールスマン問題」です。
2013年にGoogleは100量子ビットの「量子アニーリングマシン」の実験効果を講評しました。その後、GoogleとD-Wave社は500量子ビットの実験も行いました。2025年には4,500量子ビットを超えるマシンが実現されているようです。
ただ、このような「組み合わせ最適化」に特化した「量子アニーリングマシン」とは別に、万能型の「量子コンピューター」を研究開発していこうという機運も高まってきました。
4. 量子コンピューター開発の5大方式と開発企業
現在、量子コンピューターはGoogle、IBM、マイクロソフト、アマゾンといった巨大ITテックに加え、スタートアップ企業も多く立ち上がり、世界中で研究開発が行われています。
それぞれ多様な方式での研究開発が行われていますが、それをまとめると、以下の5つの主要な方式となります。
どれが本命となるか、まだ定まっていないエキサイティングな研究領域です。
超伝導量子ビット方式
冷却中性原子方式
光方式
半導体量子ビット方式
イオントラップ方式
それぞれ方式の概要と採用企業をまとめておきます。
1)超伝導量子ビット方式
極低温に冷やすことで電気抵抗がなくなる「超伝導」という性質を利用した電気回路を用いて、量子ビットを構成します。
1999年に日本の中村泰信氏と蔡兆申氏らが実現して以来、現在取り組んでいる企業の数が多い方式の一つです。
また、特定の計算ではスパコンを上回る性能もすでに実証されています。
デメリットとしては、極低温にするための大型の冷凍機が必要となることです。
<採用企業例>
Google(米)
IBM(米)
富士通(日)
理化学研究所(日)
中国科学技術大学(中)
リゲッティ・コンピューティング(米)
アイキューエム・クオンタム・コンピューターズ(フィンランド)
オックスフォード・クオンタム・サーキッツ(英)
2)イオントラップ方式
真空の中で電気の力を利用してイオンを捕まえ、捕まえたイオンで量子ビットを作り、そこにレーザーを照射することで計算を行います。
イオントラップ方式は、量子ビットそのものを移動させられる利点があり、量子状態を維持しやすく、計算の精度の高さに定評があるようです。
デメリットは、制御が難しく、計算速度に課題があることです。
<採用企業例>
イオンキュー(米)
ハネウェル(米)が設立したクオンティニュアム(米)
3)冷却中性原子方式
真空状態の中で原子を捕まえて、量子ビットとして使います。
イオントラップ方式と似ていますが、違うところは、電気的に中性の原子を光によって捕まえるところです。
冷却中性原子方式は、数千個といった大規模な量子ビットを扱うことができるそうです。また、光ピンセットを用いた原子一つひとつの移動や、その状態を測定できる量子気体顕微鏡などの技術の発展によって、ここ数年急速に発展してきている方式です。
デメリットは、計算速度などにまだ課題があることです。
<採用企業例>
クエラ・コンピューティング(米)
産業技術総合研究所の量子・AI融合技術ビジネス開発グローバル研究センター(日)
パスカル(仏)
プランク(独)
アトム・コンピューティング(米)
インフレクション(米)
ナノファイバー・クオンタム・テクノロジーズ(日本)
分子科学研究所と京都大学が立ち上げたヤクモ(日本)
4)半導体量子ビット方式
半導体チップの中の「量子ドット」という電気的に作られた小さな領域に電子を閉じ込め、それを量子ビットとして使います。
主流の超伝導量子コンピューターに比べて、冷凍機が必要ないため、大きさがコンパクトになるようです。また、半導体分野にはすでに多くの技術と製造体制が整っているため、技術的なブレイクスルーが起きやすい環境にあります。
デメリットとしては、後発で、まだ開発途上にあります。
<採用企業例>
イコールワン(アイスランド)
クオンタム・モーション(英)
ディラク(豪)
シリコン・クオンタム・コンピューティング(豪)
インテル(米)
理化学研究所(日)
産業技術総合研究所(日)
5)光方式
光方式は、光子一つひとつを量子ビットとして用いる方式と、連続的な光のパルスに量子情報を埋め込む方式の2つに分かれます。
光方式は、時間をずらして光を発生させることで、量子ビット数を増やすことができます。また、常温・常圧に近い環境で動作させることができるため、装置が非常にシンプルになります。今まで培われてきた光通信技術も活用できる余地があります。
デメリットとしては、光子を安定して発生・制御・検出することなどに難しさがあることです。
<採用企業例>
ザナドゥ(カナダ)
サイクオンタム(米)
古澤明氏が関わる東大発のスタートアップ、OptQC(日本)
5. 量子コンピューターで何ができるか
量子コンピューターのニュースは、基本的にどこまで研究が進んだかという技術論が多いですが、みなさんは量子コンピューターで何ができるのかについても興味があると思います。
量子コンピューターが社会にどのように役立てられるのかについて、ここでは考えてみましょう。
量子コンピューターの活用で大きなインパクトをもたらすテーマを挙げてみます。
1)複雑な量子現象のシミュレーション
量子コンピューターを使って、高温超伝導を起こす物質の仕組みをシミュレーションして理解することで、新たな高温超伝導物質の発見につながることが期待されています。
また、太陽光を電気エネルギーに変換する太陽電池の材料開発にも、量子コンピューターの活用が期待されています。
他にも、バッテリー材料のシミュレーションや、電気を光に変えるLED、熱や音などを電気に変える材料などへの応用が期待されています。
2)ブラックホールのシミュレーション
量子コンピューターを使って、ブラックホールに関係する物理現象を再現する実験がすでに行われています。
このように、最先端の物理理論や物理現象、特にミクロの世界の動きをシミュレーションによって解明できるかもしれません。
3) 自然界の巧みな化学反応のシミュレーション
例えば、マメ科の植物の根に共生する細菌は、量子力学的な性質が関係する複雑な化学反応を利用して、アンモニアを生成しています。マイクロソフトの研究チームなども、こうした複雑な化学反応や触媒の仕組みを量子コンピューターで解析する研究を進めています。自然界で起きている巧みな化学反応を量子コンピューターで再現・理解することができれば、高効率な触媒の人工設計や、新しいエネルギー利用技術の開発につながる可能性があります。
4) 量子コンピューターをAIへ応用させる
例えば「量子回路学習」では、脳の神経回路を模したニューラルネットワークの代わりに量子コンピューターを使って学習する方法があります。IBMは量子を使った機械学習が、古典コンピューターを用いた機械学習よりも優れいているという理論的根拠を示しています。
量子回路学習のように、量子コンピューターによって得られたデータを使って学習させたAIを用いれば、より高速かつ高精度な予測を瞬時に得ることができそうです。量子とAIの掛け合わせは今後進んでいくと思われます。
5) 誰にも破られない量子暗号
量子力学の原理を利用した「量子暗号」の研究・開発も進んでいます。量子的な重ね合わせの状態やランダム性などの原理を活用した暗号は破ることがほぼ不可能となります。量子コンピューターを使ってこうしたセキュリティ分野を強化することができます。
またこうした量子暗号を標準装備した量子状態をネットワークでやりとりする量子インターネットも次世代のインフラとして期待されています。
6) 乗り物や建物の構造設計を量子コンピューターで解析
現在のコンピューターでは時間のかかる建物や乗り物の構造設計や、地震や衝突による衝撃、また気体や液体などの流体運動のシミュレーションは量子コンピューターに向いている分野です。量子コンピューターは化学、材料の分野に加え、自動車、建築、土木、気象といった複雑な計算が必要な分野での応用が期待されています。
7) 量子コンピューターが得意な最適化問題
先ほど説明した「量子アニーリングマシン」は、数多くの選択肢の中から最適な組み合わせを探す「最適化問題」への応用が期待されています。
例えば、物流における配送ルートやトラックの台数、積載量などを組み合わせて、より効率的な輸送方法を探すといった問題です。
トヨタグループのアイシンも、米国の量子コンピューティング企業と協力し、物流トラックの台数や経路、積載量などの最適化によって、二酸化炭素排出量の削減を目指す実証実験を行っています。
また、金融分野では、株式や債券など数多くの商品を組み合わせる「ポートフォリオ」において、リスクを分散しながらリターンの最大化を目指す「ポートフォリオ最適化」に、量子アニーリングを利用する研究も行われています。
このように、量子コンピューターは「化学・材料」「AI」「セキュリティ」「物流」「金融」など、さまざまな分野での活用が期待されているのです。
6. 量子コンピューターの市場規模
それでは最後に、この量子コンピューターの市場規模についてまとめてみましょう。
量子コンピューターは現在、まだ実験・試行段階にありますが、2030年ごろには実用的な量子コンピューターが登場すると予測されています。そして、2032年の量子コンピューターの市場規模は、約256億ドル(約4兆円)と見込まれています。この数字は、2025年時点の市場規模の約6倍に成長するだろうと予測されています。
7. 最後に
現在のコンピューターやスマホのチップに搭載されているトランジスタは、1947年に、量子力学による固体中の電子の振る舞いを応用することで、アメリカのジョン・バーディーンなどによって発明されました。
つまり、すでに私たちの社会は、ミクロの世界の法則である量子力学によって動いているとも言えます。
そして、この量子ビットを使った量子コンピューターは、トランジスタと同じように、次世代の社会インフラとなる可能性を秘めた、非常に重要な技術なのです。
もちろん、これからの社会インフラになることが期待されているAIとも、非常に相性が良いと言えます。
現在、Googleなどの大手企業とともに、多くのスタートアップ企業が、この新しい量子技術を使ったコンピューターの開発にしのぎを削っています。
量子コンピューターによって、私たちの世界はこれからどのように変わっていくのでしょうか。
それでは。
(本記事は、日経新聞以外の情報の多くを、『教養としての量子コンピュータ』(藤井啓祐著/ダイヤモンド社)から引用しています。)
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