IT業界の下請け多重構造の功罪2「ITカースト制度」!〜ITプロマッチへの道(その4)
ITプロマッチへの道の第4回です。
今回も、前回に引き続き「IT業界の下請け多重構造の弊害」をお話したいと思います。
まず、この多重下請け構造に属するIT技術者の規模感ですが、「IT人材白書2014」によると、日本国内の全IT技術者数は81万9000人で、そのうち「受託開発ソフトウェア業」に従事するIT技術者の数は56万5000人程度であるそうです。
そしてピラミッド型と言われるようにその大半が、大手Sierの下の下請け構造の中にいると思われます。仮に半分が下請け構造とした場合、最低でも20万〜30万人のIT技術者が、下請け多重構造に組み込まれていると想定されます。
さて、この下請け多重構造を利用して企業の大規模システム開発プロジェクトを編成すると、待遇面で非常に奇妙な驚くべき現象がおきてきます。それは次のような現象です。
一つのプロジェクトで複数の技術者AさんとBさんが同レベルの仕事をしていても、その技術者AさんとBさんが多重構造のどこに所属しているかで全く同じ仕事をしていても、当人に所得に大きな格差が生じる
という現象です。
これを良く「ITの格差社会」または「ITカースト」と呼んだりします。
例えば元請けのSierにIT技術者がいた場合、そこから再委託するIT技術者へは自社より安い単価で発注します。また二次受けからさらに再委託する場合は、より単価が安い契約で発注します。
多重下請け構造ではこうしたことが繰り返されているため、上位のSierのITの技術者と最下層下請け企業のIT技術者ではたとえ、同レベルの仕事をしていたとしても、単価すなわちもらう所得に大きな差が生じてしまうのです。
例えばあるIT技術者へのアンケート調査(Tech総研)によると、
同レベルの仕事をしているユーザー企業のIT技術者と三次下請けのIT技術者の30代前半の年収は
138万円も違う!!
という結果が出ています。
また別の調査では、
三次下請けのIT技術者の方が、ユーザー企業のIT技術者社員よりも
平均業務量が多い
という結果もあります。
つまり下請けIT技術者は「業務量も多く、給与も少ない!!」
という事実が改めてデータとして明確になっているのです。
本人の技術力やスキルではなく、「属している階層(カースト)によって待遇が決まってしまう」、まさにこれが「格差社会」ですね。
最後にこうした下請け多重構造の功罪として「女性が働きづらい」と「スターが生まれづらい」を挙げてみます。
○下請け多重構造は「女性が働きづらい」
多重下請け構造は、業務量の多さもあり、底辺となるほど、3K職場、すなわち「きつい、帰れない、休暇がとりづらい」になりがちです。
例えば、子育てをする女性IT技術者が多重下請け構造の中でITの職場にいた場合、保育園から子供を引き取りに帰る事ができない、必要な休暇を取ることができない、などの問題が考えられます。
現在、残念ながら、多重下請け構造はあくまで、終わるまで働く、徹夜をするなどの古い男性型職場の代表となっています。
これでは女性活用といったダイバーシティは果たせません。IT現場で女性を活用するためには、女性に見合った契約形態、ケアが必要になります。そうしたことが下請多重構造のままであると、会社として作る余力がないことも問題です。
○下請け多重構造からは「スターが生まれづらい」
海外ではIT業界でも何人かのスターがいます。
例えば、経営者ではスティーブジョブズ、ビルゲイツなどが有名ですね。
フェイスブックのマークザッカーバーグもプログラミングをしていました。彼らに共通するのはプログラマーとして新しいサービスを世に送り出してスターになった、ということです。
それに比べて国内のIT業界、特に多重下請け構造で働くIT技術者は量としての労働集約型として扱われるため、スターが生まれづらい社会です。
でも国内でも実際には、PMのプロ、アーキテクトのプロ、そしてプログラミングのプロフェッショナルが必ずいるはずです。こうした技を極めた人には、それに見合う高給とステイタスがあってもよいと思いますが国内のIT業界ではそうした話はあまり聞きません。上記優秀なプロでも多重下請け社会の中では、単純なプログラミングをしている可能性があります。
もしIT業界にも、皆がうらやむスタープロがいれば、学生などが皆IT業界に入りたいと思うでしょう。多重下請け構造を脱して、国内ITのスタープロをもっと作り、PRするべきです。
(参考文献:SEは死滅する、木村岳史著 日経BP社)
ここまでIT業界の下請け多重構造の悪い面を功罪として挙げてきました。しかしこのままではまさに木村さんの本のタイトルの通り、「SEは死滅する」となってしまいます。
次回からはIT業界の最近の急激な変化が我が国の「下請け多重構造」を破壊してしまう可能性について話してみたいと思います。それによって国内のIT業界が向かうべき「全く新たなビジネスモデル」を描いていきたいと思います。
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