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IT業界の下請け多重構造の功罪!〜ITプロマッチへの道(その3)

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ITプロマッチへの道シリーズ第3回目です。

さて、ここではいよいよ日本のIT業界特有の「下請け多重構造」について、その弊害を赤裸裸(せきらら)にメスを入れていきたいと思います。

IT業界に最近入った方はよく理解しておかないと大変なことになります!

またもうどっぷりIT業界につかっている方は、再認識していただければ幸いです。


「下請け多重構造」の2大特徴としては「不況期の人員調整」と「人月単価による労働集約型産業」かと思います!


1. 下請け多重構造の下流にいるIT企業や技術者は業界の「不況期の人員調整」の役割を持つ

大手Sierの立場で、この下請け多重構造を考えると、好況期にはこの多重システムを使って、質を問わなければいくらでもIT技術者を集める事ができます。
(但し、この下請け多重構造はブラックボックス型で階層が深いため、どこに良いIT技術者がいるのかわからない、直接探す事ができないという特徴はあります。)

大手Sierは好況だからと言って、自社の正社員は大きく増やしません。そして不況になった時に、この下請け多重構造を切っていくのです!

つまりこの下請け多重構造は「大手Sierの雇用調整弁」となっているのです。

逆の立場で見ていきましょう。
好況期に仕事を頼まれていた中小システム会社は、景気が悪くなるととたんに大手から仕事が回されなくなり、そのため赤字、ひどい場合は倒産、廃業となります。この段階では社員に給与を長期間支払う事ができない「ブラック企業」が多数誕生します。

このように、自分がどんな階層に属しているのか、そして大手企業と下請け中小企業との格差構造が、IT技術者にとっては「天国と地獄のボーダーライン」となります。


さらに好況期では別な「地獄」があります。

一般的には好況期には、ITプロジェクトが増えて供給過多となり、需給の原則でIT技術者の単価が上がるはずです。ところが日本大手Sierは景気が良くなり人が足りない場合でも、顧客に対して値上げを言い出せません。実際、受託ソフト開発の人月単価の平均は、ここ数年右肩下がりを続けてきています。またユーザー企業側も今でも、ITコスト削減!等と言って、値上げに対しては絶対にうん、とは言いません。つまり好況期でも単価は上がりません。

また好況期では、どこも人材不足の状態でプロジェクトを決行せざるを得ないことにより、個人のIT技術者の負荷がものすごく増える「デスマーチ」(長時間の残業、休日出勤が続く過酷な仕事環境)になりがちです。
「デスマーチ」はIT技術者の過労、それによる体調不良、神経障害、さらには過労死などを招くと言われています。

2. 下請け多重構造の基本は(決められた)「人月単価」による人月契約の労働集約型産業である。


非常に大事な点ですが、このIT業界の下請け多重構造は、「人月単価」での契約でなりたっています。

「人月単価」という考え方は、既に決まった業務がある場合、その業務を人月単価の最も安いところに発注する、という方向になりがちです。

つまりそこに「新しい価値の提案」や「新しい技術の提案」という要素は入りづらいのです。

ユーザー企業と大手Sierの間では、システム開発費用を人月単価で見積をするのが一般的です。

日本の大手Sierは顧客の言われた通りに何でもやることが基本であるため、新たな価値の提案よりは、顧客の言われた業務の中で人月計算して利益のあがる提案をする方が楽なのです。

また顧客の側からすれば、いくつかのSierの相見積をとることにより、最も安い人月価格を提案してきたところに発注するのみで、そこで新たな価値や技術の必要性はうすいようです。


ましてや、Sierと下請け会社とではもっと単純に人月コストのみの交渉となります。あらかじめ決まっている提案価格の中でやりくりするため、Sierは最低限のスキルがあれば人月単価を低くするように下請けに圧力をかけてきます。

それは2次受けと3次受け、4次受けと5次受けの間でも同じですが、すこしずつ、各階層の企業にさやを抜かれて、下に行くに従って人月単価はどんどん下がっていきます。

ユーザー企業から月額単価100万円で発注して孫請けのIT技術者は月額単価40万円など半分以下になることは普通にあります。


このように「人月単価」という唯一の条件で決まる社会がIT下請け多重構造なのです。

このような下請け多重構造の中ではシステムの高度化や業務の効率化のような革新的な提案要素はありません。
技術者にとっても自分の価値が発揮しづらく、あたかも機械のような時間通り仕事をする仕事ぶりが求められます。

これを総称して「労働集約型産業」と呼んでいるのです。


本来であれば、ITを活用して世の中を変えていける能力を持つ沢山のIT技術者が、この下請け多重構造の中で、目標も見えない歯車のような仕事を求められます。

そしてそれはIT技術者の「離職」やさらには「神経障害」などが起きる原因となっていると言われています。

以上の「不況期の需給調整」と「人月単価の労働集約型産業」が大きな特徴ですが、それ以外にもびっくりする特徴があります。それは次の回に説明します。乞うご期待。

(参考文献:SEは死滅する 木村岳史著 /システムインテグレーション崩壊 斎藤昌義著)

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