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ソフトウェア製品開発現場の視点

生死を分ける、CRM によるリスクマネージメント

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ここで言う、CRM は IT 業界の用語の Customer Relationship Management ではなく、航空業界の用語の Crew Resource Management である。Crew の代わりに Cockpit が使われて、Cockpit Resource Management と呼ばれることもある。

これまでも何度かリスクマネージメントに関するエントリーを書いてきたが、航空業界におけるリスクマネージメントは、必然的に生死が関連するリスクマネージメントである。最近は、飛行機事故の確率はかなり下がってきているようで、2009 年にアメリカで発生した通常のエアラインが関連する死亡事故は1件だけというデータがある。安全性が向上してきている背景には、飛行機のハードウェア自体の安全性が向上してきていることがあるが、同時に Crew Resource Management というリスクマネージメント手法が大きく貢献しているということだ。私は、飛行機の専門家ではないが、CRM という考え方に興味を持ったので、紹介してみようと思う。(考え方を伝えることが目的なので、説明に正確性がない部分があるのはご容赦ください。)

飛行機の機長というと、強大な権限を持っていて、副操縦士も客室乗務員も絶対服従というイメージがあると思う。船の船長も同様である。しかし、CRM がその権限を過去のものとした。現在でも最終責任者が機長であるということには変わりはないが、CRM を採用したことで、機長は独善的な判断をするのではなく、可能な限り多くの情報を他の乗務員から集めて、それらの情報をもとに最終的に判断をすることが求められることとなった。

CRM の採用にはアメリカでの事故調査が大きく影響を与えている。多くの事故を調査していくうちに、当時としては当然であった機長の絶対的な権限が、事故回避の妨げになっていたことが分かってきた。何事もない飛行では、通常のプロシージャに従って飛行機を飛ばしているだけなので、機長の権限が強い方が、そのプロシージャの強制力という意味では効率が良いかもしれない。しかし、飛行機は機械であるので故障もするし、天候の具合によっては、ルートを変えて飛ぶ必要が出てきたりもする。当然それらの事態に対応するためにパイロットは訓練を受けているわけであるが、それでも予想外の事態というものも発生する。たとえば今年のはじめのニューヨークのハドソン川に不時着した飛行機では、2つあるエンジンの両方が止まるという予想外の事態が発生した。多くの事故を調査することで、ベテラン機長であっても、予想外の事態に対して必ずしも正しい対処ができていないことがわかってきた。

機長だけでは解決できない事態に対応するために、CRM という考え方が出てきた。CRM とは、簡単に言うと「問題に対処するときには、その場にある "リソース" を最大限に利用しなさい。」という考え方である。飛行機が飛んでいる間に予想外の事態が発生した場合、機長にとって使えるリソースは限られている。外から飛行機の状態を見ることはできないし、機械の問題を修正する整備士もいない。そのようなときに機長が使えるリソースのうち最も有用なものは、隣に座っている副操縦士であり、場合によっては客室乗務員である。機外に目を向けると、飛行機と交信している航空管制官もいる。CRM は、これらのリソースから情報を引き出し、その情報をもとに最終的な判断をすることを機長に求めている。当然のことながら、従来の指揮命令型の機長では、立場が下に位置づけられていたメンバーから有用な情報を引き出すことはできない。CRM 導入後、機長の役割は大きく変わったのである。

CRM は、飛行機の危機管理の考え方なのだが、この考え方を会社の組織に置き換えて考えてみるとどうだろうか? 機長が部長、課長などの管理者、またはプロジェクトのリーダーとしてみよう。副操縦士や客室乗務員はその組織やプロジェクトのメンバーに置き換えられる。人の生死が直接的に関わらないとしても、飛行機の CRM の考え方は、チームやマネージメントに着いて考えるときの参考になるのではないかと思う。

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