「ニッポンをあきらめない」を考える
注目された衆議院選挙が自民党の圧勝という結果で終わった。個人的には郵政民営化には賛成だが、政党としてはここ数年ずっと民主党を応援してきたので、今回は迷った。小泉首相のリーダーシップはまあいいが、一番感じたのは民主党、岡田代表の頼りなさだった。特に、テレビCMでの「ニッポンをあきらめない」という台詞には耳を疑った。
編集っぽい感覚で言わせてもらうと、「あきらめる」という言葉を使った瞬間、いくら「ない」と否定しても、視聴者には「あきらめる」という言葉の印象が耳に残ってしまう。そして、潜在意識には、「民主党って日本をあきらめてたのか」くらいの漠然とした感覚がフワッと残ってしまう。不思議だが、言葉にはそんな性質がある。少なくとも、日本を引っ張る強さは感じられない。
だから、今回のキャッチコピーで「ニッポン」を使うならば、「ニッポン」+「(Positiveワード)」という組み合わせにすることが必須条件だった。パッと思い浮かべて、たとえば、「上げ上げニッポン」とか「キタ━━(゚∀゚)━━ッ!!ニッポン」みたいに、安易なワーディングでさえも、「ニッポンをあきらめない」よりは力強さがある気がする。
実際に「がんばれニッポン」とか「日本チャチャチャ」などは、日本全体を活気づける時の代名詞的なフレーズになっている。言葉を「意味」だけで考えることは危険だ。いくら、「日本を良くしようという意味だよ」と説明しても、聞いた人の潜在意識にはその印象が残らないことも珍しいことではない。特に、マスに訴える選挙などでは、方向性が分かりやすい言葉を選ぶ必要がある。
黒川伊保子氏の著書「怪獣の名はなぜガギグゲゴなのか」(新潮新書)では、潜在意識に働きかける「音のサブリミナル効果」についての記述がある。ヒット商品や有名ブランドのすべてに、秀逸なサブリミナル効果が仕込まれているという。
たとえば、「車の名前にはCが効果的」という経験則が自動車業界にあるという。カローラ、クラウン、コロナ、コルベット、カマロなどが例に挙げられる。この説明の前提は、「人がK音を発音したとき、硬さ、強さ、スピード感、ドライ感の4つの感覚を体験する」こと。K音を発した直後、喉は丸く緊張する。そして、少し遅れて、硬さやスピード感など上記4つの感覚がやってくる。同書では、この感覚を意図的に取り出すための文字がCであると説明されている。
つまり、K(クラウン、カローラなど)の発音から得られる硬い曲面や速い回転といったイメージをCで引き出すことで、車の金属の流線的なボディ、タイヤの回転の速さなどを想起させることができるという。私自身、さすがに100%ピュアに納得しているわけではないが、概ねは理解できる。ITの話にするために(無理矢理)、話題の製品である「Skype」をそれっぽく説明してみる。
まず、上下の歯の隙間から勢いよく風が抜ける「Su」の爽やかさで始まる。「Kai」では、K音の確かさとaiの動的な感覚で遊び、最後の「Pu」で、発音がしっかりストップすると同時に、唇で作る破裂音を楽しむといった具合だろうか。なんと、これは電話で遠くの人と話すときの、「爽やかな気分で遠隔地にいる友人と話し、電話を切ってピタッと終えて満足する」という感覚にそっくりではないか。
まとめると、今回の選挙では、「ニッポンをあきらめない」が民主党惨敗の一因だったのではないかと密かに思っている。だが、個人的にもっと気になったことは、岡田代表が「ニッポンをあきらめない」と言う際に、最後の「ない」にやけにアクセントがあったことだ。なんて言ったらいいのか、無用な田舎臭さを感じてしまい、頼りなさに輪をかけた。