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枝野立憲の失敗に学ぶ5つの成功法則

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失敗に学べとよくいう。特に、人の失敗を分析して学ぶことは有益だ。枝野幸男立憲民主党首の2021年総選挙での失敗はその典型的な他山の石だろう。勝って当然と期待されて負けて責任をとって創業した党の代表から去るとは予想されていなかった。この大敗北の過程は公開されており。学ぶことが多い。

日頃は政治的なことでの批判は書きにくい。しかし、党首を辞任したというタイミングであり、ソフトウェア業界でいうところのポストモーテムとして公開したい。ポストモーテムは、トラブルが起きたことを責めずに、心理的な安全性を持った状態でその状態を共有・分析して学びを得ることである。枝野氏のつまずきを考察して後学のために残したい。

法則1: 最終ゴールの実現はあせらない

枝野氏が、2021年の衆議院選での政権交代を目指したのは、そうしなければならない事情があったのかもしれない。たとえば、共産党らと共闘するということへの抵抗を抑えるのに政権交代という旗を掲げねばまとまらなかったとか。はたまた、前回の総選挙で希望の党から排除されて創業した党が政権を取るのは自分が党首の間に実現させたかったとか。武田信玄が自分の寿命をしっていたら戦略が変わっていたはずであるように、枝野氏もなにか、この2021年の総選挙に賭ける理由があったのだろう。

しかし、大きな目標=最終ゴール の実現のためには、小さな失敗を繰り返しながら学ぶとか、一歩後退しながらでも組織を充実させるとか、そういう紆余曲折をたどるというのがセオリーだ。ローマは一日にして成らずという。カルタゴとの戦いでも苦杯をなめつつローマは自力をつけた。大きなことを成し遂げるためには、個人の都合優先で失敗してしまうことも多い。枝野党首は歴史に学ぶべきだった。

2021年の総選挙で、政権交代という旗を枝野氏は建てました。これは、民主党 (日本 1998-2016)がじわじわと力をつけ、衆院選を経験して参議院選で多数をとってから最終的に2009年の衆議院選で勝って組閣したのと比べると性急に過ぎたと考える。民主党が自民党での政権運営経験豊富な人を揃えてなおかつ、徐々に勝ったので政権を取った衆議院選も既定路線的な勝利であった。

政権獲得という大きな目標を今の憲法の日本で達成するならば、参議院でまず勝つことことから積み重ねることが良策だということは枝野党首自身もよくわかっていたはずだ。その最善と思われる工程を短縮してしまったため、今回の最終ゴールの実現は無理な話だった。

法則2: 目標にみあう準備をする

諸事情で目前の作戦の目標を高く掲げねばならないこともあるだろう。ならば、それに見合う準備はすべきだ。

政権交代を掲げて衆議院選挙に臨むなら、少なくとも影の内閣という「献立表」を作って、財務大臣、外務大臣、総務大臣、厚労大臣、経産大臣などの顔ぶれを公表して組織的に動けることを見える化すべきだった。消費税の一時停止や所得減税をやってどういう予算を組むとか、具体的なプランに落とし込んでそっちを取るかどうか選択してもらう状況に無い。準備不足だったとしかいいようがない。

組閣後すぐに解散した岸田内閣を顔がないとか、よく分からない批判は一理ある。しかし、試食すらできいないという批判は、献立表にあたる組閣内容がわからないという自らの状況に返ってくる。

そういう、献立表すら立てられなかったのは、政権交代という目標に無理があったからともいえる。国民民主などの他党から大臣を出すのか、ポジションはどこかという具体的なプランが描けなかったわけだ。そういうノープランの状況で、政権交代という短期目標を掲げたために、与党を懲らしめたいとか保革伯仲にしたい層の票も取りこぼしたことだろう。

法則3: 最終ゴールにポジショニングをあわせる

株式の時価総額が自動車業界1位のテスラは、自動車の販売台数でも1位を取ろうとは2021年現在狙わず高価格戦略を取っている。未来のソフトウェアでアップデートできる自動車ということがテスラの価値の源泉となっている。一方、自動車の販売台数1位を目指すとかなると数が多く出る大衆車を中心に高級車まで、幅広い商品構成が必要となる。

そんな商品構成やポジショニングの理論からすると、政権を担う大きな党、比較第一党を目指すのなら多くの支持を得られる幅広い支持を集める政党になる必要がある。

以下の、正当ポジショニングチャートは議論のベースのために筆者が作成したものだ。

FireShot Capture 117 - 政党のポジショニングマップ - Google スライド - docs.google.com.png

自民党は改革のトーンを落としたが捨てたわけでもなく、安保問題重視で、改革と保護の幅が広いから勝てたといわれている。

その自民党より幅がはるかに広かったのが、2009年に政権を取った民主党だ。自民より右だったはずの小沢保守党や自民党経験者を多く抱えて保守、中道、左派の連合体で都市のニーズと農漁業保護という多様な夢を叶える政党に見えていた。「コンクリートから人へ」というスローガンは公共工事や改革で配分に回すという意図で、その結果、改革派で、保護政策で日米安保は堅持しつつ、基地問題も解決という幅広い支持を集めた。

一方、2021年の枝野立憲民主党は、改革保守の希望の党から排除されて結党したといういきさつで、かつての民主党が得ていた改革派の安保重視層が見えなくなっていたように思える。共産党らと選挙協力することを最優先してポジショニングがかぶり、共産党の票は取れても中道や労組・連合の票を逃がすことになった。

この共産らとの連携を主導した政治学者の山口二郎 法政大学教授は、「2015年の安保法制反対運動を起点とする市民運動と野党の協働」と起点を説明している。ポジショニングについては、左により過ぎたと見られるのは心外としつつ、結果としてそうなったことを認識している。

そして、穏健な労組の連合の政策とも重なると考えていたが、労組の連合は支援してくれず支持が広がらなかったことを認めている。

ともあれ、多数派を取りたいなら幅広い層に受けるポジショニングをとる必要がある。たとえば、共産から維新まで組むグループを作るとか、憲法9条を改正してしまって安保自衛隊を政治の争点外してしまう(憲法学者 井上武史教授 案)とかありえるだろう。

法則4: ネットの共鳴装置の外、世間の意見を観測しよう

最近の政治家はソーシャルメディアを見すぎているという話を聞く。もともと政治家は支持者に会って話を聞くことで世間を認知してきたが、それがネットの時代になり、エコーチェンバー(共鳴装置)の中にいて意見が合う人の話ばかり見てそれが世界だと誤解しがちだという。

昔はFacebookで親しくしていた人が、枝野氏の動画、「この国に生きるすべてのあなたへ」を見たほうがいい素晴らしいと勧めていた。私にとってのエコーチェンバーの外の貴重な観測データだとは思うが、枝野氏を嫌う人がこの動画を見るわけがない、まずは3行にまとめて概略を伝えてくれないと鼻を摘んでも見られないということが分からない。

世間の観測はそんな嫌いな人の動画を見るという苦しいことまではやらなくても可能だ。その発言のコンテキストを読める人とのつながりを保ち、発言を読み、動きを観察しておけばいい。

法則5: 敵や立場が違う人を理解するには専門家の力を借りる

「あなたの意見と私の意見は不一致ですが、その内容は理解したつもりです」とかいう言い回しがある。たとえば、米国トランプ氏が大統領選でブームを起こした時、支持者はどうして支持しているのか理解し難かった。支持者と会話してもその意図を掴むのは困難だろう。しかし、専門家やジャーナリストの分析を読んで、ヒラリーよりもトランプを支持したという人の気持は分かるようになった。リベラルなエスタブリッシュメントがの典型というヒラリーが大統領候補の相手がトランプだったというめぐり合わせは世界の歴史を変えたと今では思っている。

選挙の結果が気に食わないからといって、日本の有権者は愚かだとか公言してしまうのは、他者を理解する意欲に欠けているからだろう。人それぞれに立場があり、大事なことの優先度も違っている。社会観察のために出会って会話した結果なのかもしれないが、直接の会話で分からない人のことを自分の頭で理解しようという無理な試みをした結果ではなかろうか。

大学時代からの知人は、日本維新の会が躍進したことをみて「大阪は独立してほしい」と皮肉をいっていた。思想的に合わないのは分かるし、そういう意見を聞くのは貴重でもある。どうでもいいのならそれでいいが、本当に気になるなら、2021年11月11日発売という政治学者、善教将大 関西学院大学教授の著書を読むなど専門家の力を借りるのがいいだろう。

物理学とか数学とかで自分で実験や解析をしようと思う人は少ないだろうが、政治学、疫学、財政学や経済学などで専門家の意見を聞かずに好きかどうかを中心に判断する人が多いのは残念に思う。筆者も同様の罠にはまっている分野もあるとは思うが、立場が違うとか敵だと思う人々のことは、その道のプロに聞くのが早くて確実と考える。

最後までお読みいただきありがとうございました。
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