オルタナティブ・ブログ > データイズム >

記録するジャーナリズムから、測って確かめるデータイズムへ

こじれる長崎新幹線問題、得失比較表で分かった落とし所

»

長崎新幹線の建設問題が混迷を深めています。もともと、コストをかけずに在来線を利用したい佐賀県と、博多方面への時間短縮に新幹線が欲しい長崎県という思惑の違いから紆余曲折の末、軌間可変電車(フリーゲージトレイン:FGT)の導入 という落とし所で、標準軌部分の工事が着工されました。

佐賀と長崎の利害関係から、フリーゲージトレインを前提として着工に至った状況を表で整理します。

それぞれの重要な点
新幹線 博多への時間短縮 現状の特急の維持 当初の落とし所 2012年建設認可
佐賀県 不要 不要 必要
軌間可変電車(フリーゲージトレイン)導入
一部複線化と武雄温泉から長崎方面へのフル規格化着工
長崎県 必要 とても重要 不要 フル規格での長崎県内着工

佐賀県にとって、大事なことは、現状の特急の維持です。安価に使える在来線特急で片道35分で特急通勤する人が多く、それが10分程度短縮されても新幹線になって料金が大幅アップしては要望を満たせません。また、佐賀駅自体が新幹線を前提とせずに高架整備済みであるため今から新幹線のホームを作るのが難しい問題もあります。

一方長崎県は少しでも博多への時間を短縮したいというのが大事な点です。これまでの経緯は、大村市の新幹線のページに記載の図を見るとよく分かります。

20151206074254.jpg

フリーゲージトレイン実用化断念で再注目された在来線活用区間

思惑が大きく違う佐賀県と長崎県の落とし所だったフリーゲージトレイン(FGT)。しかし、技術的な問題から実用化が断念され、在来線活用区間への注目が集まり、改めて佐賀と長崎の思惑の違いが浮き彫りとなりました。

単純化すると
佐賀県:新鳥栖ー武雄温泉は在来線利用で合意済み
長崎県:FGT断念となった今、博多への直通には佐賀県内の新幹線着工が必要。まずは環境アセスメントをしてほしい
という違いです。

佐賀県からすると、もともと武雄温泉までは在来線の活用で合意していたのだから今更変えろと言われても、決めたことを覆すところからで検討を始める段階にもない、というのが見解です。
一方長崎県は、フリーゲージトレイン断念でリレー運転方式が10年以上続く見込みの今、一日でも早く、武雄温泉から先の新幹線を作って直通させて欲しいという状況です。

各方式の所要時間と、佐賀県、長崎県にとっての得失をまとめてみました。(所要時間の出処は国土交通省 2018年 「九州新幹線(西九州ルート)の整備のあり方について (比較検討結果)」PDF)費用は、 2019年3月7日 長崎新幹線の今後の整備方針を話し合う与党検討委員会(PT)の会合を報じたタビリス記事

合意状況 方式 所要時間 佐賀駅への在来線特急 工事期間の利便性低下 追加費用 佐賀県 長崎県 懸念事項
運転中 現状(特急) 1時間48分 あり なし
消滅 スーパー特急 1時間33分 あり なし 所要時間は新鳥栖での乗り換え前提
2012年認可 フリーゲージトレイン 1時間20分 あり なし
2016年合意 リレー運転方式 1時間22分 あり なし ◯ or △ 新鳥栖と武雄温泉の2箇所で乗り換え
ミニ新幹線 複線三線軌 1時間13分 消滅 なしも可能 約3,400億円 運用の複雑化をJR九州が懸念
フル規格新幹線 51分 消滅 なし? 約6,200億円 非常に高い工費
単線フル規格新幹線 55分 消滅? なし? 約5,400億円 ✕? 本数が減り、所要時間増でも、それでもかなり高い工費。

長崎県からすると、1時間時間短縮ができるフル規格新幹線の魅力が断然大きいことが分かります。一方で、リレー運転方式と所要時間があまり変わらないフリーゲージトレインで合意して当面はリレー運転方式での開業を飲んだことからも、「26分」という時間短縮を重視したことがわかります。

一方、佐賀県からすると、合意したのは新鳥栖ー武雄温泉間の改良であり、単線区間の複線化です。それを、長崎から先の方を作っちゃったんだから途中も標準軌の新幹線を通せる線路を作れと言われても、今更合意を変えるには、検討を始めることすら合意が無いので環境アセスメントを始めろと言われてもできない状況です。

佐賀県としては費用負担よりも大事なのは、在来線特急の維持です。そこを見越して在来線特急を維持できるかもしれない秘策として、単線フル規格案が考えられたという穿った見方をしてしまいます。

国土交通省は落とし所として、単線フル規格新幹線に転換?

落とし所として、単線フル規格が2019年3月の会合で浮上しました。単線フル規格の新幹線では本数を減らさねばならないなか、従来の特急かもめ が維持できるとなると佐賀県としてもデメリットを埋めて合意できる余地が生じるかもしれません。一方で、多少安くなっても相当な投資である新幹線整備費用を回収するために、在来線特急から、新幹線へのシフトをJR九州としては進めたいはずで、「在来線特急維持」という譲歩案がでるのかは不明です。

博多南駅から武雄温泉まで直結させる案

番外編として、佐賀駅付近を通らず、博多南から武雄温泉に直接結ぶという案も一部で唱えられています。杉山氏の地図では脊振山地と天山をトンネルで抜けるという論外な直線ルートですがトンネルを避けてなるべく北寄りを通り、「新佐賀駅」は作らない路線で長崎本線の特急は維持 が実現できるかもしれません。
ただ、佐賀県にとってのメリットが非常に少ないのも確かで、地元が建設費を負担するという整備新幹線の枠組みで作れるかは疑問です。佐賀県の負担分を長崎県が肩代わりし、並行在来線問題もなく、JR九州が運営して現状維持という話になれば佐賀県として選択肢に入るかもという案でしょう。

ただ、新幹線が佐賀市 23万人というそれなりの大きさの需要を取り込めない ということになります。佐賀市の需要を抜いて長崎新幹線の経営が成り立つのか?投資に見合う便益が得られるのか?という疑問は残ります。長崎市の人口は43万人と佐賀市より大きいのですが、佐賀ー博多 は近い分、通勤需要も取り込んでおり移動人数も多くあります。収支への影響は無視できるほど小さくありません。

また、博多から唐津回りで という案もTwitterでは見ますが、都市化が進んで土地代も高い福岡県内にどう地元の県の負担が必要な整備新幹線を通すか?という枠組みの問題に当たります。費用は1兆円を越えそうでもあり全く論外でしょう。
FireShot Capture 221 - 長崎新幹線 小城周りルート - https___railway.chi-zu.net_75376.html.png

予想する決着は、リレー運転方式で、新鳥栖ー武雄温泉間の高速化

様々な方式を検討してきましたが、私は、結局武雄温泉駅で乗り換えるリレー運転方式で固定化される、そう予想しています。人間は慣れる動物であり、長崎市のみなさんが博多への時間短縮を熱望されているのなら、多少の不便は厭わず乗り換えを続け、乗り換えが10年以上少なくとも続く中、このままでも慣れたからいい そんな状況になることでしょう。

乗り換えが不便で我慢ならないとなると、高速バスという代替手段があり、また長崎新幹線の武雄温泉ー長崎を廃止して在来線に戻すという選択肢もあります。

結局のところ、フリーゲージトレインという実用化の確認が取れないまま見切りでフル規格の新幹線で武雄温泉ー長崎間を着工してしまったつけが回ったというのが事実です。そして、新鳥栖ー武雄温泉は在来線の利用としか合意されていません。長崎新幹線は1972年の日本列島改造論で取り上げられ1973年に整備新幹線として決定された5路線に入りました。2022年の暫定開業まで50年ほどかかったことになります。
IMG_20190609_123309.jpg
田中角栄著 日本列島改造論 より

今後、長崎新幹線がどういう形で決着するのか予断を許しませんが、私の予想はリレー方式の固定化です。もともと決着していたフリーゲージトレインと比べて所要時間はそれほど変わりません。そして、本当に乗り換えが不便なのなら、リレー方式で暫定開業での合意もなかったでしょう。

それではあまりにも夢が無いということで考えた予想は、リレー方式を続けつつ、新鳥栖ー武雄温泉間の高速化です。踏切の解消や特急の追い越し設備の追加、線形の改良などで長崎本線の高速化の余地はまだあります。ミニ新幹線で想定されている博多ー長崎 1時間13分に近づけることはボトルネックを解消していけば可能です。それならば佐賀県にもメリットが大きいので事業推進の余地は大きいでしょう。

リレー運転の高速化、それが、30年、40年後の落とし所だと予想します。現実がどうなるか?私の予想が当たるのか外れるのか見届けられることを願っています。

Comment(4)