ジョブ型雇用の成功の鍵は戦国武将にあり
ジョブ型雇用をテレビで取り上げて、その拒否感が目立ちます。結局合理化とか解雇の理由だろうと。しかし、ジョブ型雇用には大きな利点があります、転職可能性が上がるのです。
それは、戦国時代の侍のようなものです。雇ってくれていた主君やお家が潰れても、その役割、Job description がはっきりしていれば他の主君の下でも働ける可能性が高いのです。明智光秀が足利将軍の家来から信長の家来へといいポジションで転職できたようなものです。
もちろん、人間関係のしがらみがあるので、職務経歴書を書いて知らない先で雇ってもらうなんていことは戦国時代になかったでしょう。それでも、豊臣秀頼が大坂の陣で戦うために人を集めるとかなると、ジョブディスクリプションに見合う人材をかき集めてそれなりに戦えるように機能できたわけです。
戦後日本で、ジョブ型でなく、メンバーシップ型雇用が主流だった理由
ではなぜ、日本で長らく、ジョブ型雇用ではなくメンバーシップ型雇用(=終身雇用制)が続いてきたのでしょうか?
それは、持続的な成長が続く戦後日本で、メンバーシップ型雇用が有利だったからです。
戦後日本は人手不足の中の経済成長を長年続けてきました。新卒でポテンシャルがある優秀な社員を採用して長期間かけて育成して戦力化していくことが機能し続けました。滅多なことでは人員整理は行わない、家族的経営とかでもてはやされたわけですが、結局の所、長期的な成長が期待されたからメンバーシップ型雇用を維持できました。また、転勤や配置転換という働き手にとって不利なことも、日本社会全体がメンバーシップ型雇用だったから維持できたわけです。
筆者は新卒の就職先が生命保険会社だったわけですが、ファンドマネージャー適正と意欲がある人が営業所に配属されて、毎月の保険ノルマ獲得に、営業職員とともに苦しむなんていう状況を目にしてきました。メンバーシップ型雇用のもとでは、専門職だろうとある種の通過儀礼を経ないとメンバーと認められず、またそういう儀礼を働く側も受け入れてきたわけです。
転職が一般的でなく、新卒で入った大企業に一生働き続けるのが有利というルールの社会ではメンバーシップ型雇用がその最適解になります。そういう中でも、エリート採用とかあったわけですが、新卒を一括教育するとかそういう枠組みで、人気の職種に行けるかもという幻想で「ソルジャー採用」とか私の仲間内でいっていたような消耗性の高い現場の営業職も一緒に見えるように採用されてきました。天下の〇〇生命 とか✕✕銀行とかいう看板に惹かれる人を集め結束力で働かせるのが合理的だったわけです。
ジョブ型雇用に変わる流れは止められない
メンバーシップ型雇用はいい点もあります。あるポジションで戦力外とみなされても他のポジションに配置転換されて働けるチャンスをもらえる点です。
ただし、働き方が標準化されて、クライドへ、デジタルトランスフォーメーションへと変わる流れのなかで、社内での配置転換はデメリットが大きくなりつつあります。働き方が標準化されているのだから、やりたい仕事であろう 最初の職種から違う職種に転換して雇用を維持するよりその職種で経験を積んだ人を採用するほうが効率がいいからです。
メンバーシップ型雇用の前提で、営業職の適性がないと判断した人を生産現場の地味な仕事に移したりなんていうことを私は見てきました。ただ、私としてはジョブ型雇用に変えて、本人の意に沿わないような配置転換は減らす方がお互いのためにいいと考えています。もちろん、解雇を言い渡されるより配置転換を提案される方が選択肢が多くてまし という考えもわかります。
しかし、働く時にジョブディスクリプションを提示されてそこに見合う仕事が できる/できない で評価し、駄目なら辞めてもらうという社会の方が 転職の可能性が増すのでよりよい そう考えるようになりました。
ジョブ型雇用の成功の鍵は戦国武将になれるか?
その一方で、ジョブ型雇用の難しさを訴える声もわかります。中間管理職はどういう基準で評価すればいいのか悩むのも分かります。
ジョブ型雇用の成功の鍵、それはトップが成功している戦国武将に成れるかどうかにかかっていると考えます。
戦国武将は生き残りや成功をかけて、権謀術数を尽くし、時と場合によっては親兄弟や子供だろうと犠牲や道具にすることを厭いませんでした。有能で信用できるとみれば、かつて敵の立場の武将だろうと雇い責任ある仕事につけることもやりました。
もちろん、現代は戦国時代ではなく、最新の軍略や戦略に沿っていくべきなんですけど、ようするに、目先の戦いに勝つとかだけでなく長期的な生き残りといった目的のために、人材が流動化した社会での合理的な人事や判断の帰結がジョブ型雇用になるわけです。
今は、クラウドモニタリングツールのマーケティング職に筆者はいるのですが、外部の取引先に、Microsoft、Oracle、VMwareなどの元同僚がいる比率がかなり高く、ジョブ型雇用の良さを実感しています。
実は外資の転職は、ハイヤリングマネージャーの人的コネ頼みという側面も強くあります。元Lotus、元DEC、元IBMといった人のコネで人がワンセットで動き、阿吽の呼吸で新しい会社と革袋に古い酒が入って機能しているのもよく見ます。高く評価してきた信頼がおける元部下を雇って組織の生産性をあげたいという理由も分かります。
結局のところ、トップに限らず、ミドル層に成果を出すという責任と採用権限と両方が与えられてベストを尽くせる、戦国武将的な組織であることが、広義のジョブ型雇用の成否を握りまたそれは、御恩と奉公というよりは 責任と採用という現代の企業体にあった人事に繋がることでしょう。
人の流動性が低いままのジョブ型雇用には弊害が目立つかもしれません。しかし、長期的には人の流動性があがり、転職しやすい社会のなかでジョブディスクリプションで人を集める広義のジョブ型雇用にシフトせざるを得ないでしょう。
それは、日本の会社が戦国武将、戦国大名に変貌できるかにかかっています。そして、その戦国武将への変貌は日本の生産性を上げ、日本の価値を上げることにも繋がる、そう確信しています。