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長崎新幹線は高速バスに勝てるのか?費用と時短で分かった勝算

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長崎新幹線問題に関連し、そもそも高速バス王国九州で長崎新幹線は高速バスに勝てるのか?費用と時間を試算してみました。*1 なお、記事の一部を修正および追記を茶色の文字でしています。6/24 15時

新幹線開業済みの福岡~熊本では高速バスが予想外の大健闘

まず、既に開業して予想と実績が分かっている福岡~熊本の時間と運賃を紹介します。
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新幹線が圧倒的に早いのですが、都心の天神と安く直通できるバスと特長が大きく違うことが分かります。既に開業済みの九州新幹線鹿児島ルートでの勝ち負けはどうなっているのでしょうか?その結果をまとめた報告書を見つけました。

九州新幹線(博多・新八代間)事業に関する 事後評価報告書 (PDF) 平成 28 年 3 月 独立行政法人 鉄道・運輸機構 によると、輸送人員の予想と実績についてでは、

福岡・熊本県間 OD(鉄道利用)の実績値は 9,300 人/日、想定値は 13,600 人/日であ り、実績値は想定値よりも 4,300 人/日程度下回っている。一方、福岡・熊本県間 OD(バ ス利用)の実績値は想定値より 2,600 人/日程度上回っている。
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と、バスが予想の2倍を超える大健闘を果たしたことがまとめられています。バス利用は全体の13%だけで、鉄道利用から6.5倍と差をつけられると予想されたのが、結果は全体の33%を占め、鉄道利用との差は2倍に留まったわけです。2時間近い時間差をつける新幹線が圧倒的に勝つという予想は外れて、時間が5倍位かかろうと、費用が半額で、天神と直通し、運行頻度も高い高速バスが大健闘したわけです。

この高速バスの大健闘、熊本駅の立地と、高速バスのルートにも要因があるようです。
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博多~熊本駅、そして福岡市の中心部天神~熊本の中心部の通町筋 というそれぞれ条件を揃えた比較を並べ直すと、天神~熊本中心部へでは所要時間差が1時間を切り、料金差は更に広がることが分かります。博多~熊本で一時間短縮に払う費用は1520円だったのが天神~熊本中心部では3115円となり、更に新幹線では乗り換えが2回必要でこれだったら、時間がかかっても乗り換え不要の高速バスを選ぶ人が増えるのも分かります。

とはいっても、天神からだと2回乗り換えが必要な新幹線を選ぶ人が多くいるのも確かです。

この福岡~熊本の現状を踏まえると、フル規格であろうと長崎新幹線は高速バスとの圧倒的さをつけられないことから、福岡~熊本以上に、高速バスの方が強くなることを想定すべきでしょう。政策を立案するする方々は時間コストが高いので時短に価値を強く見出しますが、庶民は時短より大事なものがある、そんな実態がよく分かります。

長崎新幹線は高速バスにどの程度勝てるのか?そして、フル規格整備の必要性はあるのか?

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(運賃の青字は予想、また各運賃は割引を考慮せず)

福岡~熊本では、時間で圧倒的に速い新幹線が思ったほど勝てず、高速バスが大健闘している事実を見ました。それを踏まえて、福岡~長崎の交通手段比較を見てみると、福岡~長崎の方がより高速バスに分があることが分かります。最大の都心である天神に直通して安い高速バスは多少移動時間が長くても十分競争できるわけです。

まだ、鉄道に魅力がある博多~長崎駅と比べてバスの強みが天神~長崎駅での比較ではっきりします。
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現行の特急は、天神からの移動としてみると、時間も料金も負けているので、選ばれるのは、高速バスが満席だからとか、定時運行性が高いから(観光シーズンには渋滞が予想されます)といった理由あってのことでしょう。それがリレー運転の新幹線の開業でまだ時間短縮という選ぶ理由が生まれます。フル規格で直通できたら1時間弱の短縮になるわけですが、熊本状況は似ていて、買い物用途には高速バスが強い状態が続きそうです。フル規格で直通とは言っても博多までなので高架の新幹線ホームから降りて地下鉄に乗り換えて天神までの移動となるのは変わりません。

こういう状況から杉山氏をはじめとする多くの鉄道ライターは直通しない、リレー接続では無意味だと説きます。その理由として長距離移動するのにわずか10分や20分程度の違いなら、面倒だから乗り換えする人がまれだという事実を挙げています。しかし、2つ見逃しているポイントがあります。

1つめの見逃しポイントは、長崎新幹線のリレー接続が始まってしまったらもう直通する代替の特急はなくなってしまうということです。早く移動することが大事は、高速バスとどっちを選ぶかの選択となり、リレー接続でも1時間4分、ミニ新幹線なら1時間12分、フル規格新幹線なら1時間33分の時間差でどっちを取るかという選択です。リレー接続で乗り換えは面倒から高速バスという人もいるでしょうが1時間差となると新幹線を選ぶケースは増えるでしょう。

2つめの見逃しポイントは、そもそも最終目的地が博多というケースはそう多くなく、目指す先は天神が多いということです。福岡市の都心天神は買い物などの一番の中心で、博多周辺はオフィスや支店が数多く集まるビジネス街です。買い物などの用途で天神に出かけたくて、乗り換えを嫌う人は、フル規格の新幹線であってもシェアでは勝てないことが想定されます。

つまり、少しでも速く移動したい人なら、そして、博多からの移動が多いビジネス層なら、リレー接続だろうと新幹線をはじめとする鉄道が選ばれやすく、逆に少しでも安くまた、天神まで楽に移動したい人は高速バスを選ぶであろうという予想ができます。

経営的に、売上が増えるどれほど増えるかの視点で考えると、フル規格の新幹線は少なくとも、福岡~長崎の需要で考えると必須ではないそう言えそうです。

長崎新幹線の新鳥栖~武雄温泉間、巨額の投資に見合う需要があるのかは疑問

長崎県は、山陽新幹線との直通で長崎への観光需要を掘り起こしたい、といういう希望があると報道されています。熊本駅への発着駅データを見ると
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関西地方と中国地方がそれぞれ13%程度、あわせて26%程度の発着を取り込んでいることが国土交通省九州運輸局の調べででています。一方で、予想より鉄道の利用は伸びてないという九州新幹線(博多・新八代間)事業に関する 事後評価報告書 (PDF)の資料もあります。

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確かに山陽新幹線と直通できたら移動はスムーズとなり近くなったら行ってみようかという観光需要の誘発効果も期待できるでしょうが、熊本で予測が外れたことは踏まえるべきでしょう。
そもそも、どの程度の本数長崎新幹線から山陽新幹線へと直通できるのかは未知数です。鹿児島ルートで、みずほやさくら が山陽新幹線に直通しているから同じように長崎からも直通できるのか?熊本市73万人、鹿児島市60万人と多くの人口を抱える鹿児島ルートと違い西九州ルートは長崎市43万人、佐賀市23万人、佐世保市25万人と人口にも差があります。長崎新幹線はサブとなり、そもそも、新大阪駅の発着能力の問題もあり、物理的に直通列車を増やせる限界もあるため、山陽本線からの需要に期待するのも慎重にすべきでしょう。

未検証のフリーゲージトレインに賭けた長崎の失敗を佐賀が尻拭いすべきなのか?

そして、一番の鍵となる博多~長崎の需要で高速バスとの競争にどう勝つかが大きな要因です。地元負担しておいて地元からあまり使われない設備となってしまうようでは投資の正当性が疑われることでしょう。誰が負担するにしろ、新鳥栖~武雄温泉間の新幹線建設費用は膨大です。作ったはいいけど、利用は進まず、佐賀市からすると特急が減り通勤の便が悪くなる 、そしてJR九州の負担が更に増えて経営に痛手を与える、そんな事態は避けたいものです。

2019年6月中に決着から、8月末まで延ばすと報道は変わってきています。戦略を決めるのに締め切りを設定してスピードを上げるのはけっこうなのですが、長崎新幹線は、急ぐあまりフリーゲージトレインという技術的にできるか分からない技術に頼って見切りで着工してしまったという苦い経験をすでに積んでいます。その失敗を急いで取り繕うとするのは失敗の二度塗りとなり更に問題が大きくなる危険性が大いにあります。一度失敗した今こそ基本に立ち返り、利用者が求める交通手段は何か?受益者は誰で、不利益を被るのは誰で、費用負担をどうすべきか、根本から検討すべきときでしょう。

*1(所要時間の出処は国土交通省 2018年 「九州新幹線(西九州ルート)の整備のあり方について (比較検討結果)」PDF)費用は、 2019年3月7日 長崎新幹線の今後の整備方針を話し合う与党検討委員会(PT)の会合を報じたタビリス記事

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