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ツイッターが開始した広告事業,Promoted Adsに関する多面的な考察

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ついにツイッターの本格的な収益ドライバーが登場した。

その名もPromoted Tweet,つまり広告ツイートだ。しかも発表翌日である本日4月13日,日本時間早朝から検索結果に登場しはじめている(Mashable記事: Twitter Promoted Tweets Are Live)ようだ。

Promotweets_2
【出所:Mashable,最上部の薄黄背景がPromoted Tweet】

これまで,ツイッター唯一の収益源はFirehose(消防ホース)と呼ばれている「ツイッターが蓄積している全ツイート(ただしダイレクトメッセージを除く)にアクセスできるライセンス契約」のみだった。(バナー広告は日本語版のみで,CGMマーケティング社が運用している)

なお,オープンにされているFirehose提供先は次の通りだ。

  • Google,Microsoft,Yahooの3社へは,推定約30億円の巨額な年間ライセンス契約
  • ツイッターAPIを利用して検索サービスを行なっているベンチャー企業7社。契約内容は非公開

【参考ブログ記事】
Twitter社が全ツイートにアクセスできるAPIをベンチャーに開放!その真意を探る (3/2)   

 
当記事では,このPromoted Adsの概要をご紹介するとともに,競合サービスやビジネス・インパクトについて考察を加えてみたい。

 

■ Promoted Adsの概要

Promoted Adsは,ツイッター内での検索結果の先頭に表示される予定の広告ツイートだ。初期スポンサーの1社であるスターバック社の広告ツイートが例として紹介されている。

Starbuckstweet

「スターバックス」というキーワードで検索したユーザーの検索結果の最上位に,このようなスターバックスからのお知らせが表示されるようになるわけだ。現在判明しているPromoted Tweetのポイントをピックアップすると次の通りだ。

  • Promoted Adsは一見通常のツイートとほとんど変わらない。最下行にスポンサーが表示される他,マウスオーバーすると黄色になるようだ。
  • Promoted Tweetは,CPM(表示回数に対しての課金)ベースの広告となる。
  • Promoted Tweetの表示数は,検索結果1ページに対して先頭の1個だけ。
  • ツイッター社は “resonance(反響)” と呼ばれる効果測定指標を開発。これはURLリンクのクリック数,リプライ数,ReTweet数など9つの指標をベースにしたもので,この指標が悪いPromoted Tweetは表示比率が減る仕組みとなる。クリック率が低いと表示回数が減る点ではAdwordsと類似しており,利用者の利便性を強く配慮したものだ。
  • 実験的段階で参加する初期スポンサーとして,Best Buy(米国家電量販店),Virgin America(米国新興航空会社),Starbucks(米国コーヒー・チェーン店),Bravo TV(米国ケーブルTV)の名前が挙がっている。
  • Promoted Adsはまずtwitter.comのみの提供となる。ただし今後はサードパーティの専用クライアントにも提供していく方針だ。

Promoted Tweetが成功裡にスタートできるかどうかは,ツイッターユーザーがそれを肯定的に受け入れるかどうかにかかっている。したがって,少なくとも当初はツイートとして好感されるようなもの,例えば (1)環境や社会に貢献するツイート (2)ツイッターユーザー限定割引ツイート (3)貴重な情報を含んだツイート (4)面白いツイート (5)試写会,試食会案内など利用者との交流を目的とするツイート といった特徴を持つものが多くなるだろう。

参考まで,初期スポンサーとして発表された4社は,フォロワー数でBest Buyが2.2万人,Virgin Americaが6.8万人,Starbucksが83.5万人,Bravo TVが3.2万人と,いずれも本格的に自社ツイッター・アカウントを運用している企業だ。特に前者3社は先進的なツイッター運用で著名であり,ツイッター社が顧客と対話を通じたエンゲージメントに精通しているスポンサーを選定した可能性がある。
 
 
■ 競合サービスに関する考察

筆者が注目しているのは,このPromoted Adsより前に,ツイートをベースにした広告配信ネットワークを計画ないし開始している企業が複数存在している点だ。

例えば140 Proof社は,Twitterのタイムラインに広告テキスト(140文字)を挿入する広告配信サービスを開始しており,TecCrunch記事によると,すでに大手を含む複数の専用クライアント提供企業と契約しているとのこと。ちなみに140Proof社と提携したツイッター・クライアントでは次のイメージのように背景が薄いグリーンとなってユーザーのタイムラインにあらわれる。ただしこれは検索連動ではなく,独自アルゴリズムで計算されるユーザーの興味分野に基づいて広告が表示される仕組みとなっている。

140p1_3
【参考ブログ記事】
Twitterエコシステムによる新しい広告ビジネスモデルが登場 (1/22)   


またごく最近,Overtureの創業者であるBill Gross氏(検索リスティング広告を発明し,GoogleとYahooを超優良企業に成長させた影の立役者だ)が,「TwitterにおけるAdwords/Adsense」と言えるTweetupを創業して話題を呼んでいる。こちらは自社検索サイトのみならず,外部サイトで展開するためのウィジェットも提供するという。入札形態はPromoted Adsと同様の「インプレッション」以外に,「フォロワー獲得」,「指定URLへのクリック」を選択できるという高度なものだ。TechCrunch記事によると,すでにAnswer.com,Seesmic,Twidoidとの提携が発表されており,140Proof以上にスピーディで本格的なサービスに成長する可能性が高い。

Tweetup_2

筆者は,このTweetupをはじめ,すでにTwitterのFirehoseライセンス契約を受けている7社のベンチャー企業(Twazzup,Collecta,CrowdEye,Scoopler,Kosmix,Ellerdale,Chainn Search)は,いずれもTwitter社との広告ビジネスに関するレベニュー・シェア契約がFirehose提供の前提になっているのではないかと推測している。

そして,Google,Microsoft,Yahooは,ツイート検索に対する広告事業をすべて自社の仕組みで行なう(Twitter社とレベニューシェアをしない)かわりに,巨額の年間ライセンス料金を支払っているのではないだろうか。
 
 
■ ビジネス・インパクト

では,このツイッター検索広告,Promoted Adsの潜在的な売上規模はどのくらいになるのだろうか?

ツイッターの検索回数は非公開だが,事業規模の感覚をつかむため,GoogleやFacebookと比較することで推測してみたい。

2010年3月に発表された最新Comscore社調査(以下の表)によると,2010年2月におけるGoogleの検索回数は13,482百万回,対してFacebook.comの検索回数は436百万回だった。

comScore Expanded Search Query Report
February 2010 vs. January 2010
Total U.S. – Home/Work/University Locations
Source: comScore qSearch
Expanded Search Entity Search Queries (MM)
Jan-10 Feb-10 Percent Change Feb-10 vs. Jan-10
Total Internet 23,163 22,271 -4%
Google Sites 14,045 13,482 -4%
Google 10,378 9,929 -4%
YouTube/All Other 3,667 3,553 -3%
Yahoo! Sites 2,670 2,509 -6%
Yahoo! 2,647 2,496 -6%
All Other 23 13 -43%
Microsoft Sites 1,772 1,720 -3%
Bing 1,549 1,498 -3%
Microsoft/All Other 223 222 0%
Ask Network 736 689 -6%
ASK.COM 336 300 -11%
MyWebSearch.com/ All Other 400 389 -3%
craigslist, inc. 636 629 -1%
eBay 659 624 -5%
AOL LLC 576 549 -5%
AOL Search Network 317 299 -6%
MapQuest/All Other 259 250 -3%
Facebook.com 395 436 10%
Fox Interactive Media 403 391 -3%
MySpace 398 388 -3%
All Other 5 3 -40%
Amazon Sites 238 210 -12%
【出所: Comscore】

一方,Google Ad Plannerの月間ページビュー推定値では,Facebook.com 4700億PVに対して,Twitter.com 48億PV(約2/3と推定されるAPI経由アクセスを除く)と,約1%に過ぎないことがわかる。

大変ラフな計算なのだが,仮にFacebookとtwitterの検索が同程度の利用頻度だと仮定し,検索回数は月間PVに比例すると考えると,twitterの検索回数は月間で推定450万回程度となる。これはgoogleの検索回数に対して0.03%程度だ。

Googleの2009年売上高は2.1兆円で,この収益の大部分は検索広告によるものだ。今回のPromoted Adsも検索広告の一種であり,将来的に同程度まで収益効率を高められるとすると,現時点での潜在的売上高は 2.1兆円×0.03% となり,年間約6.3億円程度の規模となる。

【参考ブログ記事】
Google1650円,Facebook280円,GREE1985円 ~ 日米メガサイトの利用者あたり売上比較 (3/19)   
Facebook ビジネスモデルを徹底分析 ~ mixi,GREE,モバゲーと比較 (3/19)   


この試算をベースに推測すると,現状twitter.comのみの検索広告売上ポテンシャルとしては年間数千万~数億円程度にとどまり,既存のFirehoseライセンス契約(年間30億円程度と推定)と比較すると小規模なものになるのではないだろうか。

ただし,Twitterの成長スピードは爆発的だ。2009年ツイート数の年成長率は1400%であり,Promoted Adsの売上ポテンシャルも急加速する可能性が高いだろう。

【参考ブログ記事】
秒間600回!ついにツイッター社自身がツイート数を発表。実は踊り場ない急成長が続いていた! (3/19)   


■ ツイッター,3つの収益ドライバー

最後に,ツイッターの収益ドライバーについて補足しておこう。今回のPromoted Adsは広告系ビジネスモデルの第一歩であり,これが成功した暁には

  1. twitter.com以外のAPI経由への検索連動型広告ツイート展開
  2. タイムラインに表示する広告ツイート展開
  3. ターゲティング広告や位置情報と連動させ広告ツイートを高度化

の三段階でアップグレードさせていく方針のようだ。

さらにFirehoseライセンス契約,Promoted Adsに加え,ツイッター社幹部が公にしている収益ドライバーとして,企業ユースを前提とした「プロフェッショナル有料アカウント」がある。

これは,現在CoTweetなどで実現されているマルチユーザーでのアカウント運用機能に加え,Promoted Tweetとも連動したダッシュボード機能(前述の独自効果測定指標"であるresonance(反響)"がベースとなるのだろう)の提供が予想されている。ただし詳細なサービス内容や開始日は現時点では未定だ。

 

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