ツイッターは本当にスローダウンしているのか?現在のアクセス状況に関する多面的な考察
ツイッターのアクセス状況は他のメガサイトに比べて実態を把握しにくい。
その理由は主にふたつある。
ひとつはtwitter.comではなく専用クライアントからのアクセスが過半以上を占めること。
もうひとつは米国のアクセス状況と世界のアクセス状況が混同されやすいことだ。
今,ツイッターは果たしてスローダウンしているのか?
これらの前提を踏まえた上で,できるだけ正確にアクセス状況を検証してみたい。
■ 調査会社から発表された基礎データを確認する
eMarketer記事 "Data on Twitter Decline Stacks Up"(2009/11/20)に,調査会社3社からの最新データが記載されている。
各社とも独自推定のため数値に大きなバラツキがあるが,10月の月間ユニークユーザー数は対前月比で▲2.1%,▲8.1%,▲27.8%とあり,減少傾向にあるのはほぼ間違いないだろう。この調査結果が「ツイッターは減衰したのでは?」という主旨のメディア報道の基礎数字だ。
ただし,これは米国におけるtwitter.comのユニークユーザーであることに注意しなければいけない。特に米国記事ではタイトルにこれらの限定条件が記載されていないことが多く,誤解を生む一因になっている。
では,真実のツイッターはどうなっているのか?
この「地域特性」と「アクセス経路」にフォーカスしながら,それぞれ他のデータで検証してみたい。
■ ツイッターの地域特性
まず世界的なツイッターのアクセス状況を俯瞰してみよう。
2009年6月までのツイッターのアクセストレンドを図にしたもので,情報元は10月の米国アクセスを前月比▲8.1%としたComScore社だ。ただしこれもtwitter.comのみの情報であることに注意したい。
この図を見てわかるとおり,米国の停滞はすでに今年の5月からはじまっており,それに対して成長しているのは米国以外の地域なのだ。
なお米国の停滞については,6月の時点で筆者ブログにて指摘しているので参照してほしい。
・ 『2009年5月,Twitter の伸びが突然止まった』 のは本当だろうか? (2009/6/22)
・ Twitterはスローダウンするのか? ~ ソーシャル・テクノロジーのライフサイクル考察 (2009/6/25)
現在最も急成長している国の一つは日本だ。これを俯瞰するために,全世界-米国-日本の順にGoogle Trends最新データ(2009/11/25)を引用しよう。ただしこれもtwitter.comのみの推測データだ。
【twitter.com 全世界の月間ユニークユーザー数 推定】
【twitter.com 米国の月間ユニークユーザー数 推定】
【twitter.com 日本の月間ユニークユーザー数 推定】
今後ツイッターが最も伸びるであろう方向性はふたつ,アジアとモバイルだ。特にインド最大の携帯キャリアとのSMS提携 はインパクト大だ。
・ 進化するTwitter ~ PCから携帯へ,米国からアジアへ (2009/10/18)
■ ツイッターのアクセス経路
ツイッターは早くからAPIを公開した。そのため多数のツイッター専用クライアントが存在し,多くのユーザーはtwitter.comからではなく,高機能なクライアント経由でアクセスしている。クライアント比率については多様な統計が散在しており,権威あるデータがない点がマーケッター泣かせなところだ。
ここでは,一定の母数を持ち,継続調査している twistatデータ を基にした TheNextWeb記事から図を引用したい。
この最新データによると,twitter.com からのアクセスが全体のわずか20%(ユーザーは20.5%,ツイートは19.1%)に過ぎないことがわかる。
参考までクライアント・シェアに関する他のデータソースも記載する。%数値はtwitter.com推定アクセスシェアだ。
- Twitter クライアント 2009年10月の人気ランキング - 同情報源 2009年10月 20.1%
- Twitter Client Usageを分析してみた - 同情報源 2009年9月 21%
- 65% of Tweets Still Come From the Web (2009/8/20) - Rapleaf調査 2009年8月 65%
- 各国 Twitter クライアント事情 (2008/9/14) - 独自調査 2008年9月 日本約30%,米国約40%
この中でRapleaf調査の65%という数値は記事内を見るとわかる通り,400万人のユーザーを抽出して最新20ツイートを分析したものだ。(つまり対象期間はユーザーによって異なる) それ以外のデータは特定アカウントを対象とした期間内全アクセスを分析対象としたものであり,それで大きく数値が異なっているのだ。いずれも重要なデータだが,今回のアクセス統計計算に適用するには65%は不適切であることがわかる。
これらの統計値から推定されるtwitter.comのアクセス比率は,2008年9月の時点で40%前後,現在は20%前後となっているのではないか。
なお,このtwitter.com経由のアクセス減少は主に次のふたつの理由によるものだろう。
- VCマネーがツイッター専用クライアントに流れ込み,機能競争が激化している
- iPhoneやAndroidなどモバイル経由のアクセス(ほとんどが専用クライアント)が急増している
結論としてtwitter.comからのアクセスはこの一年間で大きくシェアを落としており,公表されているtwitter.com経由のデータは,ツイッターの成長実態を正確に反映していない可能性が非常に高いと言えよう。
■ 実際のアクセスデータからツイッターの成長を探る
正確なデータはツイッター本社(非公開)にしかない。ただしそれに準ずるデータとしては上記専用クライアントのアクセス状況がある。ここで上記クライアント順位で5位と中堅に位置する seesmic社のCEOが11月23日に自らのブログで公表したアクセスデータがあるので,それを紹介したい。
・ Twitter.com traffic down? Seesmic Web is +30%/month (2009/11/23)
この記事の中でツイッターのアクセス状況について書かれていることを要約すると次の通りだ。
- ツイッターのアクセスが落ちているとの報道があるが,seesmic webは力強く成長している。
- 直近データに基づくと,ツイート数で月間30%増という極めて高い成長性を維持している。
- 他社に先駆けたリスト機能対応(11月6日)により,それ以降はさらに高い成長率になっている。
seesmic webは,先行するTweetDeckに追従する形の二番手集団におり,特筆して急成長しているわけではない。したがってこのデータは,我々が最も興味を持つ 全クライアント経由をあわせた全世界におけるツイッター のアクセストレンドに最も近いデータなのではないか。
また,seesmic社CEOが同ブログ内で次のように述べていることがこれを裏付けているように思う。
Twitter is not going down. It is growing like hell, but as a platform, as a motherboard for all the Twitter ecosystem and I am betting that it will continue this way.
ツイッターはスローダウンしていない。ものすごい勢いで成長している。ただしそれはツイッター・エコシステムのプラットフォームとしてであり,私はその成長が続くことを期待している。
私はツイッターの成長は現在も続いていると思う。
また確実なのは,日本では世界でも最も力強く伸びていることだ。
11月20日に発表された マイボイスコムの調査資料 では 「ツイッターは認知が45%,利用経験が3.3%」 とキャズム超え(16%)にはまだかなり隔たりがあるが,見方を変えれば既に300万人を超えるイノベータ・ユーザーが利用しているということだ。
スマートフォンの成長や競合サービス(Amebaなう,GREE)との切磋琢磨により,ツイッターが今後さらなる成長をとげることを期待している。
【参考記事】
・ Fortune100社のうち73社がツイッター運用を開始 (2009/11/18)
・ Twitterツール最新ランキング。1位はbit.ly,2位はTwitpic。クライアントではTweetDeckが7位にランクイン (2009/11/18)
・ Twitterの時間帯別,曜日別アクセスパターンは? (2009/11/14)
・ 【アンケート結果発表】Twitterの利用環境とクライアントシェア (2009/10/28)
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