Twitterはスローダウンするのか? ~ ソーシャル・テクノロジーのライフサイクル考察
前ブログにて,驚異的な勢いを見せていたTwitter訪問者数増加ペースが2009年5月にスローダウンしはじめた気配がある点について記した。
たった1ヶ月のことであり,かつ推測値がベースなので,今後継続的にウォッチする必要があるが,もしこの仮説が正しければ,Twitterが,いわゆるハイテク製品サービスのライフサイクルにおける大きな溝(Chazm キャズム)にハマりはじめたことが一つの可能性として考えられることもあわせて指摘した。
この点につき,ソーシャル・テクノロジー全般に範囲を広げ,もう少し深く考察してみたい。
まず,テクノロジー・ライフサイクルにおけるキャズム理論(Geoffrey Moore,1991)をおさらいしよう。
(出展:@IT情報マネジメント用語事典)
キャズムの詳細は 「@IT情報マネジメント用語事典」 キャズム(Chasm) へ。
ハイテク製品技術においては,新技術が市場に浸透する際に,5パターンの採用タイプの間にクラック(断絶)があり,その中でも特にアーリーアダプターとアーリーマジョリティの間には「深く大きな溝」があるとし、これをキャズム(Chasm)と呼んだ。
イノベータ- (2.5%): 「技術」に惚れて採用するハイテクオタク
アーリー・アダプター (13.5%): 技術ではなく「実利面に惚れて初期採用」するビジョナリー
アーリー・マジョリティ (34%): 「先行者の成功事例」を確認してから採用する実務者
レイト・マジョリティ (34%): 「みんなが使ってから使う」慎重な人々
ラガード (16%): ハイテク嫌い
この理論では,キャズム(Chasm)を超え,アーリー・マジョリティに採用されることが,新技術が広く普及するためのキーであると説かれている。またキャズムを超えられなかった(超えていない)技術として,電気自動車(あと数年で超えそう?),ビデオ会議,AI,ISDN,ペン・コンピュータ等が挙げられている。わかりやすく音楽メディアでいくと,超えたのはCDやDVD,超えられなかったのはレーザーディスクやMDということになるだろう。
ただし,この理論が前提としているのは一般的なハイテク製品サービスであり,(1)有償の製品サービスで (2)製造元は企業である という点においてソーシャル・テクノロジーとは根本的に異なっている点について注意しておきたい。ソーシャルの世界では,多くのサービスは無償であり,かつコンテンツを作成投稿するのは企業ではなく利用者(エンドユーザー)である事が明確な相違点として挙げられる。
そのため,それぞれの比率が異なることが十分考えられるし,そもそも普及の前提として,コンテンツ供給者と利用者のバランスがとれていることが極めて重要となる。ただし今回はこれらの点を考慮せず,シンプルにこの理論を当てはめるとどうなるかを検討してみたい。
この図は「グランズウェル」(翔泳社 2008年)から,「ソーシャル・テクノロジー」の日米における普及状況を抜粋(情報元は 2007年 ForresterResearch社)して表にまとめたものだ。分類および色分けは,上記ユーザーの5分類にそって筆者が加工している。
単純にあてはめると,すでにブログや動画共有,Wiki,レビュー,フォーラム,SNSなどは閲覧という観点からはキャズムを超えて一般に普及していると読める。それに対して,投稿という観点で見ると,まだキャズムを超えたものはなく,一部ユーザー(グランズウェルでは「創造者」「批評者」と読んでいる)に限られている。また,RSS,Pod-Cast,タグといった技術は,その利用自体がキャズムを超えておらず,初期採用層に留まっていることが見て取れる。
2007年と多少古いデータであるが,このへんの感覚は私にはほぼ納得感がある。
では,問題のTwitterの普及状況はどうだろう?
こちらは,2009年4月28日に eMarkterから発表されたもので,米国ネットユーザーにおけるTwitterユーザー比率は,2009年で7.4%(1210万人),2010年で10.8%(1810万人)になると予想している。
元ベージは こちら
これらのデータを見る限り,Twitterの利用者は,先進ユーザーである「イノベーター」や「アーリーアダプター」が利用しているのみで,一般ユーザーにはリーチする段階ではないように読み取れる。またハーバード・ビジネス・スクールの研究によると,Twitterではトップ10%のユーザーが90%以上のメッセージを発信しているという。つまり情報発信はまだ「イノベーター」レベルの粋を脱していない可能性が高い。
ここで,前述例と同様に技術分野として捉えると,Twitterは新しいソーシャル・テクノロジー「ミニブログ」にあたると考えられる。ただ,この技術におけるTwitterのシェアは圧倒的であり,「ミニブログ」技術全体としてみても,おそらく同様に,マジョリティにはリーチしていないと考えられる。
したがって理論上は,前回ブログで記した Twitterがキャズムにハマった,ないし,これからハマる可能性はあるということだ。
■『2009年5月,Twitter の伸びが突然止まった』 のは本当だろうか?
さて,最近,この「ミニブログ」普及に重大な影響を与えるであろうニュースがひとつある。
それはソーシャルメディアの覇者であるFacebookが,Twitter対抗として,矢継ぎ早に「ミニブログ機能」(リアルタイム・ニュースフィード,ユーザーコンテンツ検索,ウェブ全体への公開の3機能)を取り込んだことだ。おそらく多くのソーシャルメディアもこの流れに追従するだろう。これにより,すでにマジョリティにリーチしているFacebookユーザー層(Twitter層より若いデジタルネイティブと呼ばれる世代)を中心に,一気に「ミニブログ」が開花し,そのことがTwitter普及にも新しい展開を生む可能性がある。