On Vox: 米国で “いよいよ” 始まったアナログ電話の清算トラブル...
2007年1月、ベライゾン・コミュニケーションズ(電話業界第2位)は「バーモント、メインなどニューイングランド地域のアナログ電話をフェアーポイント(FairPoint Communications)に売却する」と発表した。
総回線数は約160万回線、総売却額は27億ドル(約3000億円)に達するが、今週、同契約をバーモント州の公益事業委員会(←州政府の放送通信規制機関)が拒否した。フェアーポイント社は「財務的に堅牢ではない」というのが拒否理由だ。
これは一見、たわいもない海外の出来事 だが、その背景を考えると感慨深い。
バーモント州といえば、米国北東部の農業王国~豊かな田舎の州だ。大電話会社ベライゾンは、こうした田舎の儲からない電話網を徐々に清算したいと思っている。そこで、フェアーポイントに売却しようとしたのだが、州政府がストップをかけた。その気持ちはよくわかる。
田舎では電話が唯一確実な通信手段。その大事な通信網を中小の電話会社が購入し、経営が行き詰まったら、市民のライフラインが危機にさらされる。もちろん、儲からない田舎の電話は“ユニバーサル基金”という政府の助成金で補填し、赤字にならないようになっている。
逆に、大手電話会社から言えば、収益性の低い田舎の回線を維持していても、株価はあがらず、成長もできない。「経営が生き詰まったとき、大手電話会社ならなんとか処理する余力がある」と言う州政府の考え方は、大手電話会社にとっては“やっかいな話”でしかない。
DSLにも利用できない田舎のアナログ電話は、もはや大手電話会社が取り扱うサービスではなく、中小事業者が取り扱うニッチ・サービスになろうとしている....
実は日本も同じ問題を抱えている。NTT東西が抱える田舎のアナログ電話は、同社にとってお荷物になろうとしている。もちろん、政府の助成があるのだが...今後、成長が見込めるわけでもない。いまのところ、問題は表面化していないが、いずれ日本でもアナログ電話網を清算しなければならなくなる。
では、誰が引き取りアナログ電話を“安楽死”させてくれるのだろうか。アメリカには、地方の中小電話会社がたくさんある。また、スカベンジャー(ハゲタカのように死体をえさにする動物のこと)と呼ばれる事業者もいる。
スカベンジャー商法は、成長が止まった事業を安く買い取り、営業も設備投資もせず、事業が消滅(=安楽死)するまで営々とビジネスを続けることで、利益を得る。だから米国は“民民処理”が可能だ。
しかし、日本にスカベンジャー事業者はいない。(←すくなくとも、小生は知らない) たぶん、アナログ電話の清算となれば、またもやお役所に出動願うことになるのだろう。お得意の“官民処理”だ。アナログ電話清算公団なるものができて、またもや税金が投入されることになるのだろう。
そのような時代は、もう鼻の先にきている。やれやれ。
小池良次(www.ryojikoike.com)
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