【読んでみた】出版したい人は必読。百田尚樹さんの『夢を売る男』
うーん、これは考えさせられる作品だなぁ。
何冊かの出版経験者として、その視点で今回は書かせていただきますね。
どんな本かと言いますと、実質的な自費出版をメインとした出版社に勤める編集長が、客である素人著者、部下、ライバル社にカモられた客などとの関わりの中で、一見非情にビジネスをしながら、何気にまわりの人間はみんなハッピーに。そしてラスト、そんな彼ですが、金儲け主義と思いきや、編集者魂は失っていなかったよーという、ビシッと決まったオチで終わります。
百田さんは作家側ですが、何というか、この本は出版業界全体の声の代弁というか、そんな気がします。
そもそも出版というもの、文中にもありましたが出版社にとってはリスクの大きな賭けです。一冊出すのに何百万かかかるわけですから、売れなきゃその分赤字です。自費出版はもちろん別として、通常の商業出版の場合、部数の見込める有名著者ならある程度計算できますが、わたくしのような普通のおじさんの本を出すなんて、確かにおっかないことこの上なしだと思います。
普通の感覚で考えれば、売れる気なんてしませんよね。
ですから、この場を借りてまずは御礼申し上げます。今までわたくしの著作を世に出してくださった出版社さんには、本当に敬意を表したいと思います。しかし同時に、いずれも重版に至っていないことをお詫びせねばなりません。
自分でも売る努力は、いつもできるだけしているつもりなのですが、やはり本が売れる売れないというのは、究極に難しい問題であり、それこそベストセラーになるのは、宝くじを当てるようなものだという感覚になってしまいます。一体どうすれば事態は好転するのでしょう。
本が売れなくなったと言われて久しいですが、構造的なものは社会一般と同じ流れになっていますよね。
というのは、地方の駅前商店街がどんどん寂れて、客は郊外の駐車場付き大型ショッピングセンターに流れる。書店も同じで、地元の小さな書店は次々と店をたたみ、客はターミナル駅にある超大型書店に集中しています。もしくはアマゾンですね。
また、本そのものも同じです。村上春樹さんのような超売れっ子作家たちだけが部数を稼いで、その他99パーセントの普通の作家は数千部の初版さえ売り切れずにいる。
つまり、大メジャーとその他ほとんどのマイナーという構造です。
でもね、これからの時代は、もう少しこれが変化していくかな、変化していったら楽しいなと思っています。
マイナーの部分ですね。部数は少ないが、ものすごい点数の書籍が世に出ているのです。何が言いたいかというと、ありとあらゆる志向、趣向を持った人たちに、細かく対応できるだけのコンテンツが揃っているわけです。自分が読みたい、自分にとって必要な本が、かなりの確率で実は出版されている、そんな状況のはずなのです。
しかし、スペースの限られた普通の書店の業態では、広く売れる作家の本を積み上げるしかありません。(結局ここがアマゾンの台頭した一番の理由だと思います。ロングテール戦略が可能だから。)
書店員さんが個人的に売りたい本があっても、どうしても売れる本優先で陳列せざるを得ない環境だと思うんですね。
そこで、もう一部では始まっていますが、書店もどんどん細分化していくことこそが、生き残る唯一の手段であろうと。つまり専門店化ですね。
経済書専門書店、趣味の本専門書店いや、もっと言えば釣りの本専門書店とか。そういう世界ですね。地域の書店としては機能しなくなるけれども、遠くからでもピンポイントでお客さんが集まってくるはずです。
文具の世界も実は同じです。万年筆専門店さんや高級革製品のお店などが、そこそこ繁盛している。
ターゲットの市場は狭くなりますが、その分、お金を出し惜しみなく使ってくれるコアなファンとお付き合いできるようになるわけです。
で、最終的に何を申し上げたいのかといいますと、そうして、どこで何が売ってるかをはっきりさせることができれば、本ももっと売れると思うのです。
偉そうなことを申しますが、結局出版業界の現状って、たくさんの種類の本を作って当たるも八卦当たらぬも八卦をやっているけれど、プロモーションが全く追いついてないのです。そんな予算もかける時間もない。
出版社の営業さんも大変です。書店の限りあるスペースを奪い合って、新刊を並べてもらったり、売れてる本でコーナー作ってもらったり。それでも、「誰でも来る」普通の書店さんでは、興味を持ってくれる人も多いのか少ないのかもよくわかんない。
極めて効率がよくないと思うのです。
だから、専門店化です。
取次さんも配本が楽になるし、営業さんも無駄なプロモーションが減ります。書店さんも、自分が決めた、得意分野のことだけ考えればいいのですから、売りやすい。お客さんにいたっては、自分の興味のある本しかないのですから、超ハッピーです。自然と財布の紐も緩むのではないでしょうか。
百田さんの本からちょっと脱線してしまいましたが、この本を読みながら考えていたことはこんなことでした。ではでは。
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