チーム脳の作り方(1)
前回の投稿で、『チーム脳、バラバラ脳、ひとり脳』 を紹介させていただきました。今回は、『チーム脳の作り方』です。
先にコミュニケーションラインの違いについて確認しておきます。いずれもリーダーの振る舞いがカギになります。
まずはバラバラ脳とひとり脳です。(覚えていない人は前回の記事を読み直してください)
この場合は、メンバーとリーダーが1対1で(もしくは特定の数人が)会話することが多く、メンバー同士が自由に会話し合うことはありません。結果、図1のように、コミュニケーションラインはリーダーと1メンバーの間でのみ発生します。
図1:バラバラ脳・ひとり脳にありがちなコミュニケーションライン
もちろん、情報の共有や交換はメンバー間でも行われますが、それを聞いて、どう考えるか、どう判断するかなどの思考の混ざり合いは、リーダーと1メンバー間のみで行われることがほとんどです。メンバーがn人いれば、全体として1対1のコミュニケーションラインがn個発生します。
指示・命令が多いディレクティブ(ディレクター的)リーダーがこのパターンになりやすいです。リーダーがひとりのメンバから報告を聞き、それを聞いてリーダーが何かを判断してメンバーに返し、メンバーはそれを受け取る。そして次のメンバーへと移る、そんな流れになります。
次はチーム脳の場合です。リーダーがきっかけを作り、会話はメンバー間で相互に行われます。
図2:チーム脳が醸成されやすいコミュニケーションライン
コミュニケーションラインはメンバー間で発生し、リーダーはその状態を促進させる(ファシリテートする)だけです。メンバーはリーダーに、自然な形で互いが会話することを促され、メンバー同士は傾聴しあい、Win-Win、もしくは新たなWinを生み出すようなチーム脳の醸成が始まります。
このように、コミュニケーションラインを「1対1」から「多対多」に変えるのがフォローアップ質問です。
前々回の投稿『リーダーシップ4領域行動モデルで見る、これからのリーダーとチームの在り方』につなげて言うと、もともと目標達成型だったリーダーが、フォローアップ質問を使って、自身がチーム育成型(ファシリテーション型)リーダーに成長しつつ(下図の①矢印)、戦略実行型のチームを価値創造型チームに変革していく(下図の②矢印)、ということになります。
つまり、フォローアップ質問は、リーダーのスタイルを変えつつ、チームのスタイルも同時に変えていくという必殺のツールです。
それではフォローアップ質問により、どのようにチーム脳が醸成されていくのか、詳しく見ていきましょう。
フォローアップ質問は『問いかけ、引き出し、混ぜ合わせる』
フォローアップ質問は、チーム全体に問いかけ、メンバーの考えを引き出し、メンバーとメンバーの思考を混ぜ合わせるという、ファシリテーションでは最も基本的な、そして最も重要なスキルです。このフォローアップ質問ができていなければ、それはファシリテーションではないと言い切れるほどの必須スキルです。最近では、デザイン思考やアジャイル、PMBOKでもファシリテーションの重要性が語られていますが、いずれの場合でもフォローアップ質問は必須です。
下図(図A)がフォローアップ質問の全体像です。活字が小さいですが、ざっと目を通しておいていただけると、詳細の説明も受け入れやすいかもしれません。今日はステップ1のみを解説します。
図A:
ステップ1:全体に問いかける
- まず全体に問いかけている(即個人にいかない)
- 問いかけたあと「間」を取っている
- 全体に問いかけた後、個別に問いかけている
- オープンな質問をしている
- 自分の考えは言わずに「保留」している
さらに詳細を見ていきましょう。
まず全体に問いかけている(即個人にいかない)
【失敗例】「Aさん、これについてどう思いますか?」
【成功例】「皆さん、これについてどう思いますか?(少し間をおいてから、おもむろに)では、Aさん、どうでしょうか?」
皆さん、この2つの例の違いがわかりますか?
Aさんにどう思うかを聞いているという点ではまったく同じですね。しかしこれがチーム脳を作る大事な第1歩なのです。
失敗例のように、即個人に問いかけてしまうと、脳みそが動く(思考する)のはAさんのみです。他のメンバーは「自分には関係ない」と思い、何も考えません。
そこで成功例のように、まずは「皆さん!」と全体に呼びかけてください。さらには「今日は全員の意見を聞きたいので・・・」と付け加えると良いでしょう。これは全員の脳みそに「トントン、起きてますか?」とノックしているのと同じです。それにより、全員が「あれ?自分も何か考えないといけないのかな?」とちょっと身構えます。(脳を動かす準備をします。この時点ではまだ脳みそは動いていません)
問いかけた後、「間」を取っている
次は全体に問いかけた後です。全体に「どうですか?」と問いかけても、メンバーはなかなか自分の意見を言おうとしません。場はシーンとしてしまいます。(もし発言する人がいたとしても、話す人はいつも同じ人です。それ以外の人はいつもの通り、口をつぐんでいます)
シーンとなってしまうと多くのリーダーはその空気に耐えられず、つい自分の意見を言ってしまいます。実は私もそうなんですが、意外と沈黙が苦手な人が多いのです。リーダーが自分の意見を言い始めると、メンバーはほっとして黙ってリーダーの話を聞く・・・(もしくはいつもしゃべる人の話を黙って聞く)という、いつものパターンになってしまいます。
そこで、そうならないために、全体に問いかけた後、意識的に「間」を取ってください。私の場合、メンバー一人ひとりの目をゆっくり見るくらい、5人いたら5秒くらいの間は取るように意識的に振る舞っています。その時、たいていメンバーは下を向いて目をそらしてしまいます。が、そこは気にせず、ゆっくり全員の目をみて、間を取りましょう。メンバーは下を向きながらも、「あれ?今日はリーダーがしゃべらない。何か違うのかな?」と思い始めます。
全体に問いかけた後、個別に問いかけている
全体に問いかけ、間を取った後、それでもメンバーは「まあ、発言しなくても大丈夫だろう」と思っています。そこで、おもむろに「ではAさん、どうですか?」と名前を呼んで個別に問いかけましょう。そうすると、名前を呼ばれた人の脳みそがあわてて動き出し、どうにか発言をしようと思考し始めます。
これは会議だけではなくセミナーの場でも同じことが言えます。私が講師をしている時、全体に対して「皆さん、どうですか?」と問いかけても、場はシーンとしています。しかしそこで私が、「う~ん」といいながら全体を見渡すと、場には微妙な緊張感が走ります。「自分に振られるんじゃないか」と皆さんが思い始めるからですね。それが会議の場での「間を取る」と同じになります。そして、おもむろに、「ではAさん、どうですか?」と聞くと、Aさんは慌てて、何かを言おうと脳を全開で動かし、言葉を絞り出してくれる、という訳です。
「全体に問いかける」、「間を取る」、「個別に行く」という3段階で、メンバー全員の脳みそを徐々に刺激し、発言を引き出してください。
※それでも何かと理由をつけて思考停止を続けようとする人がいますが、そういう人への対処はステップ4で解説します。
※ここで疑問が出てくるでしょう。こうやって発言を引き出しても、結局1対1のコミュニケーションラインにしかならないのではないかと。心配しないでください。一人から発言を引き出した後、その発言の取り扱い方が、バラバラ脳・ひとり脳と、チーム脳とでは違います。詳細はステップ3や5で解説します。
オープンな質問をしている
まずは、クローズド質問とオープン質問の説明をしましょう。
クローズド・クエスチョン(閉じた質問)とは
- 選択肢が与えられているから思考停止していても答えらえる
- 質問した人の想定内の答えしか得られない
- 雑誌の後ろのタイプ別診断と同じ(必ず質問作成者の意図通りのいくつかのパターンに集約される)
- 質問された人が他の答えをしようとすると、一旦質問者の選択肢を否定しなければならない(「いいえ、私の考えは・・・」など)
- 相手の心の中にある創造力を引き出すのに効果がある
- 選択肢がないので、質問された人が自分の中で答えを考えないと答えられない(思考停止していては答えられない)
- 質問した人の話をよく聞いていないと適切に答えられない(傾聴が必要になる)
- 「このアイディアを採用しますか」 ⇔ 「皆さんのアイディアを聞かせてください」
- 「原因は××にあると思いますか」 ⇔ 「どこに原因があるでしょうか」
- 「この方法で実現できますか」 ⇔ 「どうすれば実現できるのでしょうか」
- 「1週間後?一か月後?」⇔「いつ?」
自分の想定内の回答が欲しい場合はクローズド質問を、自分の想定外の答えを欲しい場合はオープン質問を使ってください。チーム脳を醸成するためには、もちろん後者です。
オープン質問の作り方、使い方はとても奥深いものがあります。私も1日のファシリテーションセミナーでは、なかなか深いところまで解説しきれませんので、「質問力強化セミナー」を別途開催しているほどです。オープン質問については、また機会があったら改めてご紹介します。今回はこの程度で止めておきます。参考までに私が質問力強化セミナーで紹介している基礎的オープン質問の例を貼っておきます。何かの参考にしてください。
図B:
自分の考えは言わずに「保留」している
ステップ1の最後のチェックポイントです。
フォローアップ質問においては、リーダーは自分の意見は言いません。もちろん自分なりの考えはたくさん持っているでしょうが、言わずに、いったん脇において保留しておきます。それはなぜでしょうか?
メンバーの気持ちを考えてください。リーダーが先に「自分はこう思うけど、みんなはどう?」と言ってしまったら、もしそうじゃないと思っていても、なかなか「違う」とは言えません。そして、反発心としてそのまま心に残ってしまうかもしれません。逆に、もし空気を読まずに「違います」と言ってしまったら、リーダーとの意見対立が表面化して、その後の話し合いに支障が出るかもしれません。さらには、何も考えないまま(思考停止したまま)リーダーの言うことを受け入れてしまう、という事態になってしまう可能性もあります。
チーム脳を醸成するためには、互いに不必要な遠慮があってはいけません。また、思考停止するメンバーが一人でも居いてはいけません。全員が思考を十分に活性化し、チーム内で自由に意見を述べ合えるような関係性を維持しなければなりません。そのためには、ひとまずリーダーとしての考えは脇に置いておきましょう、という話です。
とはいえ、メンバーから出てくる意見があまりにも陳腐だったり、メンバーの発想が広がらず、十分な検討ができない可能性もあります。そういうときは、自分の考えを、意見ではなく質問や提案に変えて場に投げるということをします。これについての具体的なやり方は、のステップ6(図A)で取り上げています。ステップ1の段階では、とりあえず「自分の意見は言わずに保留しておく」ということを心がけてください。
ちなみに私は、昔、「私はこう思うけど、みんなはどう思う?」と平気で言っていました。ファシリテーションに出会ってようやく変わったということですね。しかし、ファシリテーションを意識していないと、未だに「私は・・・」です(苦笑)
ステップ1の解説は以上です。
ファシリテーターの口ぐせ
では、復習をしましょう。ステップ1におけるファシリテーターの口ぐせは次のようになります。
【想定している場面】
今までディレクティブ(指示・命令型)だったリーダーが、ファシリタティブ(支援・促進型)リーダーになる決意をし、バラバラ脳のチームをチーム脳にすべく、まず最初のアプローチをチームに対して行ってみました。
【リーダーの使う口ぐせ】
◆◇◆◇◆
リーダー:「では皆さん、次の議題は〇〇についてです。この件については皆さんの忌憚のない意見を聞きたいと思います。全員から聞いていきますので、ぜひ率直に発言してください。皆さん、どうですか?」
メンバー:「どうって、、、何を言えばいいんですか?」
リーダー:「何でもいいですよ。論点は徐々に絞っていくとして、まずは思った事、感じた事を言ってください。」
リーダー:「どうですか?」
メンバー:「・・・」(無言)
リーダー:「じゃあ・・・」(間を取り、おもむろに)
リーダー:「Aさん、どうですか?」
Aさん:「え?私ですか?」
◆◇◆◇◆
皆さん、いかかでしょうか?文章だけを読むととても簡単に思えますね。しかし、ここまで説明してきたように、この普通に見える会話の中に5つものポイントがあるということです。とてもシンプルな会話ですが、それだけに、自分が普段できているのか、できていないのかさえも、気づかない程度の会話です。しかしとても重要です。是非ここだけでも、今日から意識して使ってみてください。
まとめ
チェックポイントは全部で23個あり、ここまでで5個紹介しました。1つ1つは簡単なものですが、これらをすべて実践するとなるとちょっと大変かもしれません。ただ難しいものは1つもないので、意識していれば必ず身に付きます。フォローアップ質問チェックリスト(図A)は、私の書籍でも、セミナーでも紹介していますので、印刷してノートや手帳に挟み、常に見られるようにしている方もいらっしゃいます。上記、基本的質問の例(図B)と合わせて、もし興味があったら印刷して常に見られるようにしてください。
※書籍のリストはちょっと古いです。
今回はここまでにします。わかりやすく書こうと思ったのですが、なかなかそうはなりませんでした。すみません。
次回以降でステップ2、ステップ3を紹介しようと思っていますが、もし早く知りたいようでしたら、下記に掲載しているセミナーにでもご参加ください。セミナーでは、私がフォローアップ質問の失敗例と成功例を実演してみせて、その後、参加者全員にフォローアップ質問を実践していただいています。私からの、厳しくも愛のある(?)ツッコミもたくさんさせていただきます。ご参加される方は覚悟して(楽しみにして)ください。セミナー費は通常より高めかもしれませんが、PMPのPDU発行セミナーなのでご容赦くださいませ。
以上
※『チーム脳』は(株)ラーニングデザインセンターの登録商標です。
6月8日(金)PMI日本支部主催「ファシリテーション型リーダーシップ基礎セミナー」(PMPのためのPDU受講対象セミナー)※残席僅か