リーダーシップ4領域行動モデルで見る、これからのリーダーとチームの在り方
皆さんは今までに、自分自身がどのようなリーダーシップを発揮しているかについて考えた事がありますか?
私は、20代はもちろん、30代でもそのようなことを考えたことはありませんでした。それより、当時私はエンジニアでしたので、新しい技術や開発手法に強く興味を持って学んでいました。
私が自分自身のリーダーシップについて考え始めたのは40代後半になってからです。今思うと随分遅かったなあ・・・と思います。プロジェクトのマネジメント手法については学び・実践していましたが、リーダーシップについては何も考えていなかったのです。
これからのリーダーとチームはどうあるべきか
近年、「不確実性への対応」や「誰も想像していなかった新たな価値の創出」をするために、新たな人材の設定と育成が、強く求められるようになっていますね。皆さんもどこかで似たようなことを一度は聞いたことがあるでしょう。私が昔ファシリテーションを学ばせて頂いた船川淳志氏も2005年、「多異変な時代(多様で複雑で不確実な時代)はさらに加速する!」と警鐘をならしました。まさにその通りになっています。
では、このような時代に対応するために、これからのリーダーとチームは"どう在る"ことを求められているのでしょうか。
私が近年感じていることを、リーダーシップ4領域行動モデルを参考にしてご紹介してみたいと思います。
ちょっと長くなりますが、おつきあいください。
リーダーシップ4領域行動モデル
図1は、『MBAリーダーシップ』(大中忠夫氏監修、グロービス・マネジメント・インスティテュート編)で紹介されているリーダーシップ4領域行動モデルと呼ばれるリーダーシップの4つのスタイルです。
(図1)
リーダーシップとは、その人自身が優れた業務遂行能力を持つことではなく、組織と人材の能力を高め、それを生かす行動です。組織と人材を生かす事ができて初めて、リーダーシップを発揮できる存在となります。(同『MBAリーダーシップ』より)
そしてリーダーシップは、上図のように、おおまかに、目標達成型、戦略実行型、価値創造型、人材育成型に分類されるということですね。ここではそれぞれを詳しく説明はしませんが、大体のイメージは持っていただけると思います。
それでは、これら4つのスタイルをもとに『従来のリーダーとチームの在り方』と『これからのリーダーとチームの在り方』について考えてみましょう。
従来のリーダーとチームの在り方
従来のリーダーとチームは、図2左側の目標達成型リーダーと戦略実行型チームで編成されていると言えます。このリーダーとチームは、決められた価値の実現を目的とした想定内価値実現型です。プロジェクトの初期で要件確定に時間をかけ、WBSを念入りに作成し、最初に決めた想定通りに進むようにリーダーもメンバーも努力する、ということからもわかります。このリーダーとチームの組み合わせは、想定外のことが起こった時の対応が難しいという特徴があります。なぜなら想定外の出来事はチームにとって良くないイレギュラーな事柄だからです。
(図2)
これからのリーダーとチームの在り方
これに対し、不確実性に対応し、新しい価値の創出を実現させるためには価値創造型(想定外価値実現型)へと、能力開発をシフトしなくてはなりません。図2右側のチーム育成型リーダーと価値創造型チームの組み合わせがそれです。価値創造型チームは変化に強いチームです。常に変化が起こることを想定し、受け入れ、その後のチーム活動に活かしていきます。リーダーはそのようなチームの活動を支援・促進します。
これらのことからわかるように、これからの顧客ニーズに答えるは、リーダーは目標達成型からチーム育成型へ(図2上部、紫矢印)、チームは戦略実行型から価値創造型へ(図2下部、青矢印)とシフトチェンジしなければなりません。
(補足:戦略実行型チームの中には戦略実行型のリーダーが、価値創造型チームの中には価値創造型のリーダーが属しており、たいてい、目標達成型リーダーは戦略実行型リーダーを、チーム育成型リーダーは価値創造型リーダーを兼務するか、それぞれのチームの中にサプリーダーを置きます)
人材育成型リーダーは個人育成型からチーム育成型に
ここでお気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、図1では「人材育成型」と表現していたスタイルが、図2では「チーム育成型」と表現が変えられています。これについて少し説明させてください。
目標達成型リーダー、戦略実行型リーダーの振る舞いや具体的なプロセス、ツールは、ずいぶん前から良い指南書があります。例えばPMBOK(プロジェクトマネジメント知識体系)などもそうですね。戦略実行型チームの開発手法も、実績のある手法がさまざまあります。
しかし、価値創造型リーダーや人材育成型リーダーにどうやってなっていけばいいのかは、現時点で確立されたものがありません。
価値創造型チームについては、いくつかプロセス書がありますが、まだPMBOKや一般的な開発手法ほどの定着には至っていないでしょう。まさにこれからです。アジャイルやデザイン思考などに期待ができます。
では人材育成型リーダーはどうでしょうか。一昔前はコーチングが活用されていましたが、今は下火です。なぜならコーチングは、「上司が部下を1対1でコーチングする」というスタイルがとられるのですが、コーチングスキルはそんなに簡単なものではないですし、1対1の機会をわざわざ作るのは場所的にも時間的にもとても大変です。多くの部下を持つ上司は回数だけでも大変ですし、部下もそう簡単に上司に何もかもを話す、という関係にはなりにくいものです。
そこで注目され始めたのが、「チーム単位で育てる」というやり方です。
議論の場でチームを育てるファシリテーション型リーダーシップ
議論の場で、かつチーム単位で人材を育てることができれば、議論の場となる会議はすでに日常的に行われており、場所も、時間も、機会も、用意されている環境にいるので、結果、人材育成型リーダーのハードルもグッと下がります。
そしてもう一つ、重要な変化がこの10年ほどで起こりました。それは、「ファシリテーション」の活用です。ファシリテーションは、会議の議事進行方法として注目されましたが、実は、ファシリテーションの本来の意味からいえば、チームの問題解決を支援・促進するファシリテーション型リーダーシップは、チームの力を引き出すチーム育成型リーダーシップそのものです。そして、ファシリテーション型リーダーシップは、習得可能なスキルとして、近年リーダー層の間で定着しつつあります。
すでに提供されている議論の場と、近年、習得可能なスキルとして認知されるようになったファシリテーション。この2つの要素により、ファシリテーション型リーダーシップ(=チーム育成型リーダーシップ)が、人材育成型リーダーシップとして大変重要な位置を占めるようになったのです。
今年出版された日本語版PMBOK第6版でも、リーダーシップとファシリテーションについて、新たに言及しています。
最後に・・・
さて、今回のテーマである「これからのリーダーとチームの在り方」として、ファシリテーション型リーダーシップ(=チーム育成型リーダーシップ)が重要なカギを握っているということをざっくりとご理解いただけたでしょうか。次回以降で、さらに掘り下げたいと思います。
最後に1つ。今回のお話しでの一番の留意点は、図2の左側、右側、どちらが良いかということではなく、1組のチームとリーダーが、求められる状況によって、従来型(目標達成型リーダー+戦略実行型チーム)と、価値創造型(ファシリテーション型リーダー+価値創造型チーム)、どちらの振る舞いもできるということです。つまり、リーダーは、目標達成型リーダーシップからファシリテーション型リーダーシップまでの幅を持つこと!チームは、戦略実行型であり、かつ求められれば価値創造型の議論もできる!ということです。どちらか、ではなく、両方です。
そして、、、
リーダーシップの在り方の変化(目標達成型→ファシリテーション型)をみると、これは何もビジネスに限った話ではありません。昨今のスポーツ界に起こる様々な問題(プロであれ、アマチュアであれ)のように、上意下達、指示・命令型のアプローチ「だけ」ではもう機能しません。チームと共に考え、チーム活動を支援・促進するファシリテーション型のアプローチが必須です。
以上です。
6月8日(金)PMI日本支部主催「ファシリテーション型リーダーシップ基礎セミナー」」(PMPのためのPDU受講対象セミナー)※残席僅か