【広報かるた】・【げ】減収減益。暗くて辛くて皆必死。
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暗い響きですね。広報としてその底力が試される、試練のときでもあります。
営利目的の事業会社、あるいは成長戦略を是としている組織において、増収増益は「勝利」です。この勝利のとき、人々は喜び、祝い、次の試合に向けてさぁまたがんばるぞ、と奮起するわけです。
その中間に当たる減収増益、増収減益のときにはどのようなことが起きるのでしょうか。
まず、社内コミュニケーションが悪化する典型が減収増益です。今までは順風にいっていたはずのビジネスの売り上げが悪くなり、営業目標が達成できない部門が続出します。これが続くと、営業本部長の機嫌がすこぶる悪くなり、営業部員のみならず、うまくいかない原因となる犯人探しが始まります。これが悪化すると、他部門の批判をはじめ、主にマーケティングや広報への八つ当たりが始まります。普段から理論武装をしている強靭なマーケティングや広報部門はともかく、自らの存在意義やその成果を十分説明してこなかった組織は、「数字が悪いのはだれのせい?」という攻めに弱く、あっという間に立場が低くなってしまいます。
一方、CFOは市場や投資家に約束した利益を守らなければなりませんから、減収したのにも関わらず利益を前期通りに出さなければなりません。必然的にコストカットを行います。無料だったコーヒーサーバーが撤去され、出張が制限され、さらに進むと重要な経営資源である人員の合理化が行われます。
(*人員の合理化、すなわち削減のことを英語でstreamlineと呼びます。これ、まめ知識な)
社内の雰囲気はますます悪化し、増収に向けたイノベーションプログラムが実行されます。このプログラムが成功するかどうかは、そもそもの事業会社が抱える技術力や商品力に加え、リーダーたちの手腕がものをいうといっても過言ではありません。
増収減益はどうでしょうか。少なくとも見た目の売り上げは増えている訳ですから、決算が赤字でない限り、今すぐ慌てる必要はないのかもしれません。しかし、先進的な事業会社では、この時点でもものすごく慎重に、しかし、大胆に戦略を立て直します。増収である限り、営業部門は安泰です。しかし、バックオフィス(人事、会計、総務、広報など)は要注意です。減益の要因がオペレーションコストの非効率性だった場合、各バックオフィス部門はその生産性や貢献度について見直されると思っていた方がいいでしょう。そういう意味では、増収減益の局面でも、広報は自らの存在意義とその成果について説明ができるようになっていることが望ましいですね。なお、増収減益の発表をすると、それを知った証券アナリストから多くの難しい質問がくることを覚悟しておかなければなりません。
さて、減収減益です。前期からの期待値が高ければ高いほど、そのギャップに市場は反応します。意外に思われるかもしれませんが、市場にとって上場企業の「サプライズ」は必ずしもいいことではありません。健全な市場というのは「予想通り堅調に成長し続けること」であって、ある日突然、とんでもない売り上げと利益を達成することではありません。乱高下の激しい市場というのは信頼性を醸成できませんし、プロはともかく、一般の人々の参入を難しくしてしまうからです。
ところで証券市場では、大きく分けて、ファンダメンタルとテクニカルという分析、そして投資の方法があります。ファンダメンタル、つまり、根本的にその事業会社の戦略を分析し、その長期的な成長可能性について投資をしていくものと、テクニカル、つまり、必ずしも事業会社の戦略とは関係なくとも、日々の株の動きを分析して比較的短期に投資を決断していくというものです。善し悪しはありませんが、ファンダメンタルな分析を行いたい人にとって、市場でのサプライズ連発は、長期的な分析がしづらくなる要因となり得ます。また、テクニカルに傾倒しすぎると、業績の早耳情報をとろうとするがあまり、法律すれすれの不健全なコミュニケーションが発生する可能性がありますので、これは注意が必要です。
減収減益のときには、うれしそうに大々的に発表をするというものではありませんが、上場会社は公開すべき情報が定められていますので、粛々とその発表を行います。こうしたお仕事は会社にもよりますがたいていはCFOやIRが行います。広報は、減収減益を受けて、その次に何をするのか、挽回するためにどのような施策を実行するのか、そのストーリーは何だ、という疑問にお答えできるように準備します。マスコミ関係者からの厳しい突っ込みに備えます。
減収減益が続くようなことがあると、記者も人の子ですから、「この会社はまずいのではないか?」というちょっとしたバイアスがかかることがあります。こうしたバイアスをはねのけるには、しっかりしたストーリーと、それを実行する布陣を説明していく必要があります。これをことあるごとに繰り返し、やがて増収増益を達成した暁には「ドヤ顔」でその記者と一杯呑みに行ってみましょう。きっと相手は「参りました」とはいわないまでも、広報担当者の忍耐力や粘り強さに一目を置いてくれるはずです。
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