1億人を動かす技術
Webメディアの台頭によって、従来から主力と言われてきたテレビ、新聞などの大型メディアの位置づけが様々に議論されている。いわゆるメディア論ということではなく、コミュニケーションという視点で、この大型メディアのひとつ、テレビを紐解いた福士睦氏の「1億人を動かす技術」を読んだ。
気になったキーワードを紹介してみよう。
・バーサタイリストしか生き残れない時代がやってきた
バーサタイリストとは、「多機能で適応力の高い人」、すなわち、「多芸多才で何でもできる人」。広く浅くいろいろなことを担うゼネラリストのよさと、ひとつのことを追求するスペシャリストのよさを併せ持つ、現代の理想的な像のひとつ、といえるかもしれない。福士氏は、バーサタイリスト、すなわち多機能で適応力の高い人は、コミュニケーションの達人でもある、と評している。このような人物は、テレビ番組でいえば総合司会、つまりMC(=Master of Ceremony)などに向いていて、場の空気を読みながら、最大限盛り上げるという大役をこなすことができるとか。
・ポジショニング力
集団の中に身をおいたときに、自らをどのような位置づけにするか--これは絶対的な地位とか立場ではなく、その場その機会で都度臨機応変に変化させることによって、自身のベストパフォーマンスと全体の盛り上げに貢献する、というもの。ビジネスシーンでの適用例としては、”上司の席は決まっているけれど、あとは適当に座るという会社はたくさんある”が、仕切り役が着座位置を決め、会議での成果がもっと上がるようにオーガナイズすることができるというもの。最良のコミュニケーションは何かを強く意識することで、ビジネスパフォーマンスもあがっていく、という解説をしている。これはかなり興味深い。
私自身の経験で言えば、20人程度のディナー(宴会でもよい)があったとしよう。社内だろうが、社外とだろうが、何でもよい。もし、このディナーに目的とゴールがあり、なんとしてもそれを達成したいのならば、席次は例外なく決めておいたほうがよい。誰がだれの近くに座り、どのような内容でどのようにコミュニケーションをとるかを事前に打ち合わせし、そのフォーメーションに従って会を主催、進行させたほうが、うまくいく確率は格段に上がるといっていい。ものすごくシンプルな例だが、例えば野球が大好きな人の隣にハードロックを大好きな人が座ったとしても、話題になることといえばお天気の話の域を出るものではない。(もちろん、奇跡的に「野球+ハードロック」なすばらしい成果になることもあるが、いつ起こるかわからない奇跡を期待し続けるのは、オーガナイザーとしてすばらしい、とはいえないのだ)
ニュースキャスターに学べ、心をつかむ7つの公式
優秀なニュースキャスターは、「では、7時のニュースです。」とは始めずに、「ついに起きてはならないことが、起きてしまいました。」と、視聴者の心をつかむ。彼らは、心をつかむ公式(リスト、フレームワークなど)をもっているのだ。
・つかみですべてが決まる
・フリで話題を引き出す
・短く、無駄なく
・わかりやすいイメージ
・数字とオチ
・あえて、で話を盛り上げる
・笑い/なごみ
などのバーバル(言動的)・コミュニケーションが中心だそうだ。個人的には、この中でも、ツカミと、短く・無駄なく、というのが重要と思う。
情報収集力よりも、情報編集力がものをいう
という指摘は、集めようと思えば何でも集まる時代において至極的を射ている。ひとつのテーマで調べた事柄を枝葉末節にいたるまで並べ立てても、短時間で概要を把握するのは困難である。「Executive Summary」(エグゼクティブ・サマリー)というレポートは、「短時間で自社の経営陣が全容を把握するために作るレポート」のこと。そして、Webなどによって世界が広がり、相対的に個々の時間がなくなってきているのは、もはやエグゼクティブに限らない。すると、こうした情報を収集した後に、どのように編集を行うかが、コミュニケーションの鍵となっているのだ。
最後に、メラビアンの法則について
知っている人も多いと思われるが、アメリカの心理学者、アルバート・メラビアン博士が提唱した、「人がどのように情報を受け取るかを実験結果に基づく法則」である。これによると、相手から受け取る情報を100とした場合、話の内容が7%、話し方が38%、ボディランゲージが55%というもの。瞬きを抑える、うなずく、あいづちをうつなどの動作を取り入れることによって、相手とのコミュニケーションが円滑になり、信頼関係の醸成に貢献する、というものだ。
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テレビ制作の専門家、という立場にありながら、コミュニケーションを因数分解し、ビジネスへの応用を示唆した本書は、1対n、n対nのコミュニケーションに課題を抱えているビジネスマンにお勧めである。コミュニケーションを活用することで、よい成果への確率を上げることこそ、私たちに必要だと思うからである。