市場調査の際に見ておくべき4つのポイント
前回の振り返り
この章では、新規事業開発における参入領域の検討の選定に関する流れを説明しています。前回記事では、新規事業として参入する領域を探すための市場調査について具体的な手順について書きました。
今回は、調査する市場やビジネスドメインの可能性を評価し、参入の意思決定を行うために見るべきポイントや考え方を説明します。
見るべきポイント
①市場の成長性
シンクタンクやコンサルティング会社などが独自調査に基づく成長市場のレポートを公開していますので検索してみましょう。基本的なやり方は以下記事にて紹介しているので参考にしてください。
例えば、アスタミューゼ社が運営する asta vision では成長市場として、人工知能・生体情報デバイス・機械学習・深層学習・IoT/M2M・MEMS・太陽光発電・高度運転支援・自動運転・がん医療・音声認識・二酸化炭素の回収/貯蔵・3Dプリンタの医学応用・人工筋肉といった領域を挙げています。
テーマとして、上記の例ほど広くなくても、既存市場セグメントの中でリプレイスが進んだり、高い成長率を示している領域は見つけやすいものです。参考として、MVNO市場が立ち上がった時期の通信市場のレポートを以下に紹介します。
成長している市場で、正しいポジションを取り、正しい戦略を、正しいリソースを持つチームが高いレベルで実行すれば、成長するのは当然かもしれません。
調査領域が成長市場であった、分析・検討の論点は「勝てるかどうか」に移ります。市場調査や分析においても、既存プレイヤーの分析とそれに基づく競争戦略の策定、潜在的なポテンシャルの評価などが重要になります。
逆に、停滞している市場はシェア争いが厳しくなるので、以前取り上げた環境分析に加え ファイブフォース分析 - Wikipedia を行うなど、ポジショニングや差別化、参入障壁の確立といった戦略の重要性が高まります。
縮小市場では、残存者利益獲得の可能性や、市場のリプレイスを考えます。
②デジタルシフトの可能性
2000年代以降、インターネットやデジタル技術が引き起こしたパラダイムシフトにより、多くの産業でカオスマップが書き換えられてきました。逆に言えば、デジタル化が遅れている領域にはチャンスが眠っている可能性があります。
以下の図は、2015年頃に起こった通信教育市場のデジタルシフトを表したものです。
「紙」が中心だった小学生向けの教育市場に、 アプリやタブレットといったデジタルのイノベーションが起こり、グレー (図中) の領域から赤 (図中) の領域へのシフトが起こりました。
このシフトは、新しい市場が立ち上がってからプレーヤーが決まるまで数年という短いサイクルだったため、前述の「成長市場」で紹介したようなレポートから検知することは難しかったでしょう。
このような市場における潜在的なチャンスは、以前ほ本ブログで紹介した、「リ・インベンション」のようなアプローチであぶり出すことができるかもしれません。
リ・インベンション―概念(コンセプト)のブレークスルーをどう生み出すか
- 作者: 三品和広,三品ゼミ
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③先進テクノロジー
調査対象市場にイノベーションを起こすような、新しい技術がないかを調べます。
市場調査の中で見つかることもありますし、技術からの切り口だとガートナー社が毎年出している「先進テクノロジのハイプ・サイクル」なども有名です。
先ほど紹介した asta vision でも、『未来を創る技術分野』として、事業化・社会実装の 加速を目指して策定された28分野を公開しています。
その中から、5-10年以内に実現すべき新産業創出に資する次世代の基盤技術とされている12分野を紹介します。
⑩3Dスキャン・3Dプリント・実体ディスプレイ
⑫リモートセンシング
⑭ロジスティックス・流通テクノロジー
⑮暗号化・電子透かし
⑯市場予測・未来予測
⑲MEMS・マイクロマシン・組込システム
⑳クラウドサービス (IaaS・PaaS・HaaS等)
㉑ストレージシステム
㉒ビッグデータ・データマイニング
㉓音声認識・音声合成
㉔画像認識システム
㉕高性能コンピュータ
このような、 新しい技術によるイノベーションは新規事業開発の大きな検討項目の一つですが、ハイプ・サイクルで「過度な期待のピーク」から「幻滅期」を乗り越えると項目数が一気に下がっているように、その技術が浸透・定着するかどうかという面ではリスクもあります。
バズワードやトレンドに踊らされることなく、技術の進歩が市場に与える影響やその背景といった本質をしっかりと掴めるようにしましょう。
④市場タイプと変化
以前の記事で、「市場タイプ」や「変化を問う視点」を紹介しました。
リ・インベンションの中では、本ブログでも扱う「参入領域を探すための市場調査」を「標的探索」と表現した上で、例えば以下の切り口で市場の再セグメント化を検討する具体的なアプローチが提唱されている。
事業開発で狙いやすいのは「再セグメント化」
- 誕生してから25年以上経過している
- 技術の変化を問う
- ニーズの変化を問う
- 取り残された人を見つめてみる
- 忘れ去られた機能を見つめてみる
よろしければ併せてご確認ください。
まとめ
本エントリでは、新規事業開発において参入領域を探す市場調査を行う際にみるべきポイントとして「成長性」「デジタルシフトの可能性」「先進テクノロジー」「市場タイプと変化」を提案しました。
これらは「1-2. 環境分析」の段階でSWOTの「機会 Opportunities」として認識されていることもあるでしょうし、PESTの「Technology」として認識されているかもしれません。
多くの場合、それらは競合にも同様に認識されており、それ自体が競争力になるわけではありません。
技術や変化に対する事業開発担当者の洞察、アセットやリソースなど自社の強みと結びついた時の模倣困難性、事業戦略の強さ、執行するチームのレベルなど、単独の技術を競争力に変えるのは、他ならぬあなたなのです。
繰り返しになりますが、バズワードやトレンドに惑わされることなく変化の本質をしっかりと見つめ、あなただけの強いビジネスを生み出していただければ幸いです。
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