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【講演資料】Facebookビジネス活用最前線 その2「情報過多に抗する人々の処世術」

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お世話になっております。
ループス岡村です。

前回に引き続き、財団法人ハイパーネットワーク社会研究所主催の講演資料を紹介させていただきます。今回は「情報過多に抗する人々の処世術」と題して、ソーシャルメディアがもてはやされる時代の「なぜ」について書きました。前回に引き続き、一般的な話の焼き直しといった内容で恐縮です。お時間のある方はご覧いただけると幸いです。

■目次

  • なぜ今、ソーシャルメディアなのか
  • Facebookについて
    • 世界と日本、それぞれの普及状況
      基本情報あれこれ。
    • ビジネス活用のケーススタディ
      • コカコーラに学ぶ、ソーシャルメディアとの付き合い方
      • リーバイスに学ぶ、自社サイトとの統合方法
      • スターバックスに学ぶ、ブランドとの融合
      • 国内事例(まいあめ工房、あいらぶ岡山、無印良品、楽天)
    • ビジネスに使えるかもしれない機能紹介
      • ローカルディール
      • Facebook広告
      • 仮想通貨

■なぜ今、ソーシャルメディアなのか
 理由その2:ネット情報が多すぎるから

前述の通り、この今回は「企業がソーシャルメディアに関わる理由」として「情報が多すぎるから」というテーマで話をしています。大雑把な流れは以下です。

  1. ネットの情報がこんなに増えてます。
  2. ネットユーザーは大量の情報から有益なものだけを得るために、
    ソーシャルフィルタリングという方法を使い始めたようです。
  3. 私のブログを例に、実際どんな感じになってきているかをお見せします。
  4. ソーシャルフィルタリングにシャットアウトされず、
    あなたのメッセージが顧客に届くために必要な方法について思う所を書きます。

■情報洪水と呼ばれる時代

 

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上記のグラフは、1996年から2006年にかけて生活者が選択可能な情報量(赤)と消費可能な情報量(青)の推移を図示したものです(総務省情報通信政策局「平成18年度 情報流通センサス報告書」より)。これによると、過去10年で消費可能情報量が33倍になったのに対して、選択可能情報量は530倍になったとのことです。このような状況は2007年に発表された「平成17年度 情報流通センサス報告書」で明らかにされ、多くのブログや記事で取り上げられた結果「情報爆発の時代」として広く認知されるに至りました。個人による情報発信が増えている現在に至っては、選択可能情報量と消費可能情報量により多くの格差が生まれていることを疑う余地はないと思います。

※選択可能情報量:各メディアの情報受信点において、1年間に情報消費者が選択可能な形で提供された情報の総量。例えばテレビなら全国の設置受信機で選択可能な全放送番組の情報量の総和。
※消費可能情報量:各メディアの情報受信点において、1年間に情報消費者が選択可能な形で提供されたもののうち、メディアとして消費が可能な情報の総量。

もちろんテレビのチャンネル数が500倍になったわけではありません。「爆発」しているのは主にインターネットの情報です。つまり、情報爆発とか情報洪水とか言われる状況と、それを解決してくれる技術の恩恵は、インターネットをよく使う人ほど強く当てはまるものです。

考えてみれば当たり前のことですが、ここでも自社の顧客がどのような人で、どのようなメディアを利用しているのか再確認することで無用な資源の投資を避けることができるかもしれません。

話を戻しますが、この調査からは次のような事が言えると思います。

  • (主にネットで)発信される情報の99%以上は捨てられている。
    情報発信者にとっては、非常に情報が届けにくい時代である。
  • (主にネットには)個人が消化できる量の数千倍〜数万倍の情報が存在する。
    情報受信者にとっては、相当吟味しないとクズ情報ばかり掴まされる時代である。

前者は、広告系の本でよく語られている内容かと思います。一方後者、情報を吟味するための生活者の工夫や努力についてはどうでしょうか。「できるビジネスマンの情報整理術」のような特集を見かけたりしますが、多くの生活者が情報収集に対してそれほど前のめりになっているとは考えにくいです。

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「情報探すのメンドクセー」。自分が食べきれる量の2万倍もデータがあったら、普通の人はそんな風に感じてしまうのではないでしょうか。

■効率のよい情報収集手段の必要性が高まっている

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情報収集に膨大な手間がかかるようになれば、「手分けして探す」という手段が編み出されるのは、極めて自然な事だと思います。ソーシャルメディアを使った情報収集というのは、つまりはそういうことです。

Google先生も必要な情報を速攻で探してきてくれますが、知りたいことを入力しているんだから当たり前ですよね。忙しい私たちは、できれば何もしないで有益な情報を手にいれたいものです。それに、必要ない情報は極力見たくないですよね。

情報の流通経路において、無価値な情報が排除され、価値のある情報だけが必要とされる人に届く。ソーシャル化したウェブを通じてこのような情報の選別が行われることを、最近私は「ソーシャルフィルタリング」と呼んでいます。

この辺もまあ、散々色んなところで言われている話かと思いますので、簡単に流させていただきます。

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ネットユーザー一人ひとりが、コンテンツに対して関所の役割を果たしているとイメージしてください。

具体的な例をいくつか挙げさせていただきます。

  • はてなブックマークで面白いブログだけがピックアップされ、PVを稼ぐ
  • Twitterで面白いツイートだけがリツイートされ、バイラルした
  • 食べログで似たような好みの人が高評価を付けている店にいったら、うまかった

どのケースでも、良いコンテンツだけが選りすぐられてたくさんの人の目に触れていると思います。見る人の大切な時間を使ってもらえるのは、見るに値する良いコンテンツであるべきですよね。

ソーシャルフィルタリングには以下の特徴があります。

  • 情報の取捨選択は生活者が行う
    「生活者」、つまりネットユーザー自身が情報の選別を行うということです。普通、新聞でもテレビでも、掲載可否の判断、露出量の調整、不適切な表現の排除といったフィルタリングの多くを限られた専門家が行います。まあ、自由だね、オープンだね、ってことです。
  • 生活者の共感を得ない情報は届きすらしない
    ソーシャルフィルタを、お金を払って通過する直接的な方法はありません。本来誰も見たくも無いような駄情報を、お金を払うから見て、というのは難しいです(お金をかけて、だれもが見たくなるような情報を作ることはできると思います)。これに関しては電通の佐藤尚之氏の「SIPSかな」がものすごく腑に落ちます。というか、パクッてます。
  • 情報の発信者・当事者が流通を制御しづらい
    これはまあ、「人の口に戸は立てられない」ということかと思います。ただ、傍観者として見ているのと、実際に何か関与しようとするのとでは大きな違いがあります。
  • フィルタであり、拡散媒体である
    情報の受け手に取ってはフィルタなんですが、情報発信者にとっては拡散媒体である。ということです。この特徴が会話において様々な齟齬を生みます。ある時は最強の盾、ある時は最強の矛。めんどくさいですね。

というわけで、ソーシャルフィルタというものが情報の選別に一役買っている、という話でした。昔は、人間がひとつひとつ目視で情報を選別するなんて、大量のデータに対してはまったく非効率だったのですが、インターネットの普及によって選別結果の蓄積・共有が可能になり、人々の便益に見合った労力で実現可能になってきたということです。

■Facebookは多数決以外の手段にも、結構気を使ってるらしい

ソーシャルフィルタリングの基本的な仕組みはコミュニティの多数決です。「コミュニティの」まで太字にしたのは、多数決を行う集団の構成員が無作為に選ばれたものではなく、なんらかの嗜好性を元に集まっている点が重要であるためです。万人受けするコンテンツが必ずしも自分の趣味嗜好に合致するとは限らないですものね。

ちなみに、Facebookでは情報の重み付けに、単純な多数決以外のアルゴリズムも採用されているようです。

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詳細について、日本語ではTechCrunchの記事が詳しいです。その他、はちえん坂田さんのブログや、ソーシャルメディア大好きWebプロデューサー加藤征男さんのブログにも解説がありますので、興味のある方は参考になさってください。

エッジランクでどんなことが起こるのか、超簡単に言うと「好きな人の発信した情報と、嫌いなひとの発信した情報。優先的に表示するのは好きな人の方」ということです。アルゴリズムの詳細や精度はさておき、人間関係に重み付けをした点が画期的だと思います。親密度は友達同士で対等ではなく、「A君はBちゃんのことが気になっているけど、BちゃんはAくんのことは眼中にない」というように、非対称の関係になっているようです。

ソーシャルグラフ(SNSの上の人間関係)は、「リアル or バーチャル」「オープン or クローズ」のような二元論で語られることが多いのですが、実際はもっと連続的なものだと思います。「私」と「誰か」の間にあるステップ数や、その重みで関係性を整理しようというアプローチは将来もっと発展していくのではないでしょうか。だって、どう考えたってそちらの方が合理的です。承認した途端セミナー情報やお得なセール情報をばんばん飛ばしてくる「友達」と、来週一緒に映画に行きたい「友達」、どちらのステータスアップデートが重要かは明らかですよね。

(余談ですが、システムが人間関係をどのように表現すべきかという話題について、GoogleからFacebookに移籍した Paul Adams氏が興味深いエントリを書いています 。タグやグループも分類に役立ちそうですね。)

■商売にどう関係があるのか

続いて「あーそうFacebookすごいね、で、それが商売とどう関係あるの?」という話を少し、します。

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上のグラフは左からNewYorkTimes、Amazon、eBayの流入元を表しています(出典:Business Insider記事)。いずれのサイトでも、1年前に比べてGoogleからの流入がわずかに減っているのに対して、Facebookからの流入は大きく増えています。

このブログのように、ソーシャル系に特化した話題を扱っていると傾向はより顕著になります。

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上記は、このブログがFacebookで200以上の「いいね」をいただいたある1日の流入元の割合を示すグラフです。検索エンジンからの流入は15%しかなく、56%が外部サイトからとなっています。ちなみにPVは2500程度でした。

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内訳としては、トップのはてブが21%、2位がTwitterで19%、3位がGoogle(検索ではなくGoogleReader)で11%、4位がFacebookで10%、5位がTwitterクライアントのHootSuiteで7%となっています。この1日で、約600人の方にこのブログを知っていただくことができました。

ブログのホストであるITMediaからの流入が4%弱しかないのに比べて、いかにソーシャルメディアからの流入が強いかを表していると思います。

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製品やサービスによって事情は異なるとは思いますが、私のブログのように、全く知名度のないサイトでもソーシャルメディア経由で1日当たり数千単位のPVを稼ぐこともできるのは事実です。知名度の高い企業やサイトでは、特に広告を出さなくても1日当たり数千〜数万のPVを稼ぐことは容易かもしれませんが、新規のスタートアップや中小企業など、十分な知名度がないサイトにとってソーシャルメディアからの流入は重要なトラフィック源になると思います。もちろん、広告費は一切かかっていません。

このようなソーシャルメディアからの流入を期待して、拡散のためにサイトやコンテンツを最適化することをSEO(Search Engine Optimization)になぞらえてSMO(Social Media Optimization)と呼んだりします。

SMOという言葉は2006年に Rohit Bhargava 氏が自身のブログで提唱したのが最初のようです。2010年に同氏のブログで改訂された内容によると、SMOとはおおよそ以下のような内容を指しています。

  1. 共有したくなるコンテンツを作る
    (被リンクよりも、コンテンツの質がより重要)
  2. サイトに共感した人が、最小の手間で共有できるように整備する
  3. ユーザーの参加に対してインセンティブを設計する
  4. コンテンツをオープンに、積極的に共有する
  5. マッシュアップを奨励する

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ソーシャルメディア関連の仕事をしていると、SMOについてご相談をいただくケースも多いのですが、例えばボタンを付けて共有しやすくするとか、ソーシャルメディア上の導線を設計するといったテクニカルな部分より、「いかに共感を得るコンテンツを作るか」といった部分で苦労されているケースが多いように感じます。

もちろん、何の魅力もないコンテンツを無理に飾って人々の話題にしてもらおうとするのには無理がありますが、「最適化」というのは「無」から「有」を作り出すのではなく、本来持っている潜在能力を最大化するための努力だと私は考えています。

まずは自分たちの製品・サービスの魅力、強みをとことん掘り下げて考える。そしてそれがどうやったら対象とするソーシャルメディアを利用する顧客に正しく伝わるかを考える。このような基本的な努力が、案外見落とされがちなのではないかとも思います。

■おわりに

いつまで経っても本題のFacebookにたどり着きませんが、長くなってしまったので今回のエントリはここまでとさせていただきます。SMOのところで軽く端折った「テクニカルな部分」なんかも、深く突き詰めていくと色々な手段や測定方法などがあり、一筋縄ではいかないことも多いです。私もまだまだ勉強中の身ですが、個々の具体的な方法については別の機会に掘り下げて書いてみたいと思います。

それでは、引き続きどうぞよろしくお願いいたします。


 

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