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私は会社を経営する傍ら、これまで採用の“現場”を見て、さまざまなアドバイスを行ってきました。また、学生のビジネススクールの運営にも関わっており、最近の学生の生の声にもたくさん触れています。本ブログでは、「いまどきの採用・教育・若者」と題して、これまでの経験で得たノウハウを少しでも現場で活かせる為の情報発信を行っていきます。

採用今昔物語「就職人気企業ランキング」からみる採用活動の今昔

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今年も就職情報会社から、大学生の「就職人気企業ランキング」が公表されました(※参考資料参照)。
一目みて感じるのは、その順位が私がリクルートに就職した約30年前のそれとほとんど変わっていないということです。
時代は変わっているのに「就職人気企業ランキング」が変わっていないことに不思議な感じを受けます。

ただ、2000年代前半には「ソニー」「トヨタ自動車」「日立製作所」「パナソニック」といったメーカー系企業が上位にランクされたこともありますので、変わっていないとまでは言えないかもしれません。
時代とともに変化を経て30年前に戻ったと言うべきでしょうか。
今回は「就職人気企業ランキング」の変遷から、採用活動を考えてみたいと思います。

※参考資料(「就職人気企業ランキング」出典)
朝日学情ナビ
東洋経済(文化放送キャリアパートナーズ調べ)
ダイヤモンド・ヒューマンリソース

●「就職人気企業ランキング」は営業ツールの一つ。企業の説得材料として活用。

私が新人営業担当として企業を訪問していた際、営業カバンには「就職人気企業ランキング」をまとめた冊子が入っていました。
と言いますのは「就職人気企業ランキング」を営業ツールの一つとして活用していたからです。
企業に対して、優秀な学生を採用するために、まずは企業としてイメージアップを図っていくことが重要であることを伝え「そのために年間を通じた媒体計画を立てましょう、媒体投下量を増やしましょう」と話を進めていくのです。

その際に「就職人気企業ランキング」を客観的データとして、企業への説得材料として、活用する訳です。
「同業他社の●●社は年間を通じた媒体計画を立て、媒体投下量を増やして、広報展開を図った結果、今年の就職人気企業ランキングが上がりましたので、貴社も是非」と。

私が在籍していたリクルートは学生、企業とも価値観が多様化し、ランキングの意味が薄れたとして「大学生の就職人気企業ランキング」の公表を止めました。
しかし当時はインターネットなどない時代で、紙媒体が中心でしたし、その広報展開によってランキングを上げることも採用戦略の大きな柱の一つでした。
企業側がその順位の変化に一喜一憂していた時代だったのです。

●時代が変わったのになぜ30年前へランキングが回帰したのか。

「就職人気企業ランキング」は学生へのアンケートのとり方によって、結果の分析の仕方によって、その順位は変わってきてしまいます。
事実、上述した各社のランキングには少しずつ違いがあります。

ので、個人的にはあくまでも全体の傾向をざっくり捉える程度と考えていますし、企業の経営者や採用担当者にもそのように話をしています。

そうした中で、商社や金融がランキングの上位を占めていることから感じるのは学生の「安定志向」が高くなっているということです。
失われた20年と言われる不景気の時代に多感な時期を過ごした学生たちが「安定」を求めるのは当然のことかも知れません。
また、バブル景気を経験した世代が親であり、親の経験から「安定していて堅実で、給料のよい企業に就職して欲しい」という思いを我が子に伝えているのも事実だと思います。
こうした点を重ね合わせるとランキングが30年前へ回帰したのは、ある意味当然のことと言えるかもしれませんが、一層、グローバル化が進み、更に柔軟に素早い変化が求められている現在、やや違和感を覚えるのは私だけではないはずです。

●30年前に回帰で「ミスマッチ」が再び増加する可能性。

ただ、気になる点もあります。
ダイヤモンド・ヒューマンリソース社のランキングでは文系、理系とも男子学生の1〜4位がすべて商社です。
この点に関してダイヤモンド・ヒューマンリソース社は「理系学生向けの積極的な採用PRが奏功したと分析」(5月13日付日経新聞朝刊)としています。
採用PRやイメージ戦略が重要なことはわかります。
上述しましたように自分も新人時代に力を入れて営業していましたから(笑)。

ただ、それによって学生の企業に対する正しい認識がなされず、いいイメージだけが過度に膨らみ過ぎているのではないか、といった危険も感じます。

「留学は興味がない」「海外勤務には就きたくない」といった学生が増えている中での商社人気はまさにイメージ先行と言えます。
また、ソニーやシャープの業績悪化のニュースなどもあり、理系男子学生のメーカー離れがあるのは確かですが、1〜4位がすべて商社というのはやや極端な気がしてなりません。

また、大手メーカーだけではなく、中堅中小企業メーカーにも目を向ければ、独自の技術でその業界では世界的シェアを持っている優良企業もたくさんあります。
そういった企業にも是非、興味を持ってもらいたいと思います。
これは文系の学生にも言えることです。

前回の『採用今昔物語 会社説明会』の時にも書きましたが、バブル時代の採用再び、という流れは「ミスマッチ」が再び増加する可能性を秘めています。

企業はイメージ戦略ばかりに走りすぎず、業務内容、仕事内容を正しく伝えていくことが何よりも重要だと思います。

学生のみなさんも本当に自分がやりたいことは何か?を考え抜き、イメージばかりに左右されないようにしっかりと企業研究をして「ミスマッチ」ではない就職先を見つけて欲しいと思います。

私もそうしたベストな出会いが出来るように尽力させていただければと思います。

以上、何かのご参考になれば幸いです。

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