「私、女性尊敬してますよ」と言う人ほどバイアスがかかる理由
「男性は仕事、女性は家庭」「親の介護は女性がするもの」
今、こんなことを大声で言おうものなら周囲から冷たい目で見られるのは必至です。最近もある男性政治家が「女性がたくさん入っている理事会の会議は、時間がかかります」とおっしゃってしまい話題になっていました。
これはアンコンシャス・バイアスと言われるもので、誰でも潜在的に持っている「無意識の偏見」のことです。
他にも身近にあるアンコンシャス・バイアスを挙げれば、「男性のほうがリーダーに向いている」「女子は理系より文系が得意」「男性は家事が下手」「若い人の方が発想が柔軟」などキリがありません。
海外のあるオーケストラ団員採用試験で、演奏者と審査員の間にスクリーンを置く「ブラインド・オーディション法式」をと取り入れた場合、対面審査と比較して女性の合格率が、一次審査で5割、最終審査では数倍に上がったという報告もあります。
アンコンシャス・バイアスは、「自分はそんなこと思わない」と言う人でも無意識に持っているものです。無意識ですから、相当注意して自分の行動を見張っていないと、つい言葉や行動に表れてしまい周囲の顰蹙を買ってしまいます。思いもしない他者を傷つけることもあるでしょう。しかもアンコンシャス・バイアスは単純な思考プロセスで物事を判断できるため、ややこしいことを考える時間を持てない現代社会から排除するのは難しいのです。目に見えないだけにやっかいなものだと思えます。だから冒頭で紹介した男性政治家のような人は、自身がアンコンシャス・バイアスがかかっているとは気づかずに「私、女性のことは尊敬してますよ」と言うのです。
この誰でも持っているアンコンシャス・バイアス。顰蹙を買うだけではなく、大人の成長を妨げる要因の一つにもなっています。
リクルートワークス研究所・主任研究員の辰巳哲子氏は「アンコンシャス・バイアスは学びを妨げる可能性がある」と言います。
30歳から65歳までの会社員を対象とした調査によると、若者から積極的に学ぼうとしている大人は約2割しかおらず、「若者から学ぶことはない」などのアンコンシャス・バイアスがあるというのです。これは「若者」だけではなく、人によっては「女性」や「シニア」、「外国人」などのアンコンシャス・バイアスも挙げられると考えます。
アンコンシャス・バイアスがかかるために、他者から良いフィードバックを得られないこともアウトプットの学びを妨げているのです。
ほとんどの人はアンコンシャス・バイアスを持っています。今後、大人がアウトプットの学びを深め、進化させるためには、アンコンシャス・バイアスをどう乗り越えるかが課題だと考えます。
そのためには、多くの大人が「アンコンシャス・バイアスというものがある」ことを知り、自分の言動を振り返り、都度修正していくことが大切になってくると思います。
【参考文献】
・苅田香苗(2018)「アンコンシャス・バイアスという見えない壁」杏林大学医学部衛生学公衆衛生学 日本健康学会誌 第84巻 第3号 2018年5月
・辰巳哲子(2019)「学びはアウトプットから始まる〜対話型社会の時代の新たな学び型〜」『Works Review「働く」の論点2019』(2019年7月)リクルートワークス研究所