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文章が上手になる究極のコツ

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ある時期までの私は文章が下手でした。小論文のテストではいつもCかよくてB。読み手に誤解なく伝わり、人の心を引き付けることができる文章が書けるようになればどんなに良いだろうかと願う日々でした。

世の中には上手な文章が書けるようになるハウツー本が溢れています。
「文章は短く。一文40文字で」「主語を頻繁に省略しない」「良い構造を意識する」など、なるほどそうかそうかと思うものばかりです。藁にでもすがる思いでこれらの本を読みましたが、なかなか上達しませんでした。

ではどのようにして文章を上達させれば良いのでしょうか。

文章を書く究極のコツを、英語学者で評論家の渡部昇一氏はこう言います。
「とにかく書き始めることだ。構想しているようなことは一枚目を書いたとたん飛び散ってしまうこともよくある」

私は脳天に雷が落ちたような衝撃を受けました。渡部氏は「書き始めるだけ」とおっしゃるのです。
構想の段階と文章を書き始める段階は、別次元というわけです。

書くまでに心が定まらず、文章のハウツー本を何度も読み直し、新聞を斜め読みしたりしている自分を考えると、たしかに一行目を書き始めるまでが最も難しいのではないかと思います。

生涯で1000編の作品を残した短編小説作家・星新一氏は多作家です。星のショートショートはサラリと簡単に書いているように見えますが、書き始めるまでの七転八倒ぶりは凄まじいものです。

無から有を生み出すインスピレーションなど、
そうつごうよく簡単にわいてくるわけがない。
メモの山をひっかきまわし、腕組みして歩きまわり、溜息をつき、
無為に過ぎてゆく時間を気にし、焼き直しの誘惑と戦い、
思いつきをいくつかメモし、そのいずれにも不満を感じ、
コーヒーを飲み、自己の才能がつきたらしいと絶望し、
目薬をさし、石けんで手を洗い、またメモを読みかえす。
けっして気力をゆるめてはならない。
(星新一『きまぐれ星のメモ』「創作の経路」より)

書き始めるまでの難関を乗り越えるためにはどうすればいいのでしょうか。

渡部昇一氏は「機械的に働くという癖づけが大事」だと言い、作家・新田次郎氏の執筆方法を紹介しています。
新田氏は、役所勤めをしながら小説を書き続けていました。役所から帰ると、まず7時のニュースを聞いて「戦いだ、戦いだ」と言いながらいつも2階の仕事部屋に向かっていたそうです。そして7時から11時までは原稿用紙に向かい、1階に降りてくることはありませんでした。

機械的に取り組む癖づけは、個人によってやりやすい方法をとるとよいのではないでしょうか。たとえば、書く時間や場所を決めて、強制力を持たせるようにすればスイッチが入りやすくなるかもしれません。哲学者のジャン=ポール・サルトルは、一日中サンジェルマン・デ・プレ界隈のフロールというカフェに入り浸って書き物をしていたそうです。

文章が上手くなる究極のコツは、「思い切って始めること」。
最難関を乗り越えて一行目が書ければ半分以上は書けたようなものです。
そして、常に思い切って始めることができるように「機械的に取り組む癖づけ」を行うこと。

文章もアウトプットしてみることが大事です。文章のハウツー本を読んでいるだけでは、上手くなることはまずありません。それはクックパッドで美味しい餃子の作り方を眺めているだけで美味しい餃子が作れるようにならないのと同じです。この究極のコツを知った当時の私は、一日のうちの時間を決めて小論文の一行目を書き始めることにしました。そうすると少しずつ評価が上がっていったのです。今は文章を書くお仕事もいただけるようになってます。

まずは、一行目を書き始めるだけです。

【参考文献】
渡部昇一(2017)『知的人生のための考え方 わたしの人生観・歴史観』PHP研究所
星新一(2004)『きまぐれ星のメモ』「創作の経路」角川文庫

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