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ライフワークとしての学びを考えます。

井之頭五郎がネット検索しない理由

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「私はいままでずっとこのやり方でやってきた。だからこれでいいんだ」

大企業のお客様で、このようなことをおっしゃる方、割と多くいらっしゃいます。

確かに経験に基づいて確立したノウハウは安心かもしれません。
しかし、いつも同じやり方を繰り返しているばかりでは、大人の成長は停滞してしまうのです。

なぜなら、人の脳は新しいものを好む性質があるからです。

脳科学者の茂木健一郎氏は「人の脳は100歳まで進化することができる」と言います。これが「オープンエンド」といわれているものです。オープンエンドとは、脳は永遠に完成することがない構造になっているということです。

脳が進化するためには単純な条件があります。「新しいことをする」ことです。

新しいことを好む脳に新しいことを提供し、新しいことを達成すれば、脳から「ドーパミン」という報酬物質が出ます。このドーパミンが脳の進化を促進するカギになるのです。
しかも新しいことは結果が予測しにくい「不確実」なものほど良く、脳にとって退屈な状況が続けば脳の成長は停滞してしまいます。

2003年、ケンブリッジ大学のシュルツらのグループにより、不確実性とドーパミンの関係を調べた実験があります。
猿に、スクリーンで様々な刺激を見せて、それぞれの刺激によって異なる確率でジュースがもらえるようにしたのです。刺激と確率は、
① 刺激Aが出ると100%確実にジュースがもらえる。
② 刺激Bが出ると50%の確率でジュースがもらえる。
としました。この実験でドーパミン細胞の活動を調べると、②50%の確率条件のほうが、刺激を見てから報酬がもらえるまで継続的な活動が続いたのです。

つまりジュースが確実にもらえると分かれば猿は安心し、ドーパミンの活動は下がります。一方で「ジュースがもらえるか、もらえないか分からない」という方が、より興奮して猿のドーパミンは活動的になったのです。

不確実なことにチャレンジするということは、そこから新しいことを学べるということです。
「脳が不確実性を好むのは、不確実な環境の中で生きのびるという生物としての適応の結果、生まれたものである」と茂木氏は言います。

人の祖先も、食べ物が無くなれば新しい土地を求めて移動し、海を渡って生き延びてきました。そこでは、厳しい自然環境との闘いや、敵や獣がいて危険な目にあうリスクもあったでしょう。それでも生き延びるために、脳は不確実な状況を好まなくてはならなかったのです。

「ずっとこのやり方でやってきたから、これでいいんだ」という考え方は、新しいものが学べずに脳を退屈さてしまい、大人の成長を阻害してしまいます。
しかも経験を重ねた大人は、体験や知識が多く蓄積されていて「これをするとどうせ失敗する」「どうせ大したことはない」と決めつけてしまう傾向にあります。これが、大人が子どもに比べて好奇心が薄くなり、意欲が落ちてしまう原因です。

ではどうすれば良いのでしょうか。

仕事のやり方をすぐに変えようとすると抵抗感があるかもしれません。まずは簡単にできることから始めると良いのではないでしょうか。

たとえばランチになにを選ぶか、創造的な探し方をしてみることもできます。
「孤独のグルメ」の主人公・井之頭五郎は、お店を探すときにネット検索をしません。他人に聞くこともしませんし、口コミも当てにしません。
仕事の合間に自分の足を使って探し、「俺の腹は、今何を求めているのか」と内省し、直観で店を決断し、食べたことのないメニューを選んで食べます。これこそ、脳が喜び、ドーパミンが活動的になる方法なのです。

知らないことや、気が進まないことでも、まずは行動してみることだと思います。たとえば人に誘われたとき、なんとなく億劫でも一度は顔を出してみることも良いのでないでしょうか。ピンとこなければやめればよいのです。でも、行動してみれば意外に新しい発見があったりするものです。脳はもともと新しいものが好きですので、それをきっかけに新たな可能性が広がるかもしれません。

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