ユニクロの柳井社長からなぜ強いメッセージが伝わるのか
ファーストリテイリングのユニクロが8月に発売する秋冬向けの新商品から5%前後の値上げを決定しました。
2014年6月10日の日本経済新聞によると「最大の狙いは国内事業の収益確保だ。ここ数年は伸び悩んでいた収益の要である国内事業をてこ入れし、海外での事業拡大などの成長に向けた基盤を固める」とあります。
このニュースを見たとき、2013年11月17日MHKスペシャルで放映された、「成長か、死か~ユニクロ 40億人市場への賭け」ユニクロのバングラディシュ出店の物語を思い出していました。
ZARA、GAP、H&M、などに比較して海外展開が遅れているユニクロが、世界のメインポジションを取りにきたと思わせる気合いの感じられる進出劇でした。
この物語の中で、入社4年目の女性担当者に任せた女性服が、事前調査をしたにも関わらずなかなか売れ行きが伸びませんでした。自信があった女性服担当者はバングラディシュ女性たちの家にまで上がり込んでの再調査をした結果、意外な事が分かったのです。
実は、バングラディシュの女性は大変保守的で、ユニクロのような安くてモダンなデザインよりも、民族衣装を好んで着ていたのです。それは、シルク素材や刺繍を施した高価なもの。彼女たちのお給料すべてを投入しても、ご当地ブランドの民族風衣装を目を輝かせて購入していました。
人は、高くても自分の気に入ったものにお金を払うのは、万国共通なのだなということを強く感じました。
服は女性にとって、自己表現の大事なツール。妥協は出来ないのです。
このままでは、女性服が売り上げの足を引っ張ってしまう。
しかし、今から民族衣装風のデザインで女性服を作り直す時間はない。
現地スタッフとのテレビ電話会議で「この先は、民族衣装のデザインを取り入れなくてはならないけれど、今は一刻を争う。他メーカーの既製服を仕入れて販売してはどうか?」という提案に柳井社長は「やりましょう」と即答します。
私は、このときの柳井社長の、低い声で、腹の据わった素早く迷いのない決断に圧倒されました。
他メーカーの既製服を販売するというこは、ユニクロのプライドにも関わる事。それでも、「成長か死」をかけた勝負に柳井社長は手段を選ばなかったのです。
このとき、柳井社長が自信を持って即答したのには訳があると思いました。
それは「BOP」(ベースオブピラミッド)です。
購買者をピラミッド化すると、上から富裕層、中間層、貧困層となります。今、世界には40億人の貧困層がいる。その貧困層が、圧倒的な成長力で中間層に進出してくる大きな可能性があり、そうなると、購買者のピラミッドは、ベース型になる、という構図です。
先進国での販売成長が止まっている今、大きな可能性を秘めている貧困層の多くいる新興国に乗り出さなくてはならないのです。しかし彼らは、様々な価値観で生活しています。そのため日本人の概念では当てはまらい多様化に対応する力が要求されるのです。
柳井社長は、そのことを、どのユニクロ社員よりも先を考えていたのだと思います。
常に考えていることからくる自信。
そして直感力。
そこからくる判断が、あそこまでの力に満ちた答えをさせたのだと今は感じています。
あのときの、柳井社長の低い声を持って言った決断シーンは、この番組のどの場面よりも強く印象に残っています。
そして、番組はNHK。ちょうどユニクロの企業のあり方を世間に問われているときでもありました。
社会が見ている。社員も見ているのです。
「どんなことがあってもやり抜く」という社員に向けての力強いメッセージが、柳井社長のあの低い声から伝わってきました。